第109話 王都に進軍


 第三王子率いるハーベスタ軍はとうとう、城塞都市であるクアレール王都正門の前へとたどり着いてしまった。


 いくら同盟国とは言えども、普通なら他国の大軍を王都に呼び寄せるなどあり得ないだろう。


 我が軍が本気になれば目の前の王都を楽に占領できそうだ。


 ……だからといって俺達がマズイと引き下がっても、ビーガンの軍がやってきてるから結局意味ないのが現状だが。


 すでに俺達は王都内をパレードするように装備を整えた。後は門さえ開けばいつでも入って、民衆や王都の貴族にアピールできる。


 だが門警備の隊長らしき人物が第三王子に食い下がっている。


「お、お待ちください! ビーガン軍も王都にいるのですっ! このままでは王都が戦場になってしまいますっ! どうかお引き取りをっ! 第三王子、貴方は王都を焼くつもりですかっ! 民のことをお考えくだされっ!」


 門警備隊長の言っていることは正しいように聞こえる。


 だが残念ながらあの言葉で俺達が止まることはあり得ない。


 何故ならば……この門警備隊長、第四王子に買収されていると調べがついている。


 つまりこいつの言っていることは「自分達に都合が悪いからさっさと退け!」にしかならないのだ。


 言う奴の立場って大事だよな。


「そうか。それで君、第四王子に金貨十枚もらったんだってね」

「な、なぜそれをっ!? い、いやもらってません!」

「いやもういいから。それにさ、ここで僕が引いた方がマズイんだよ。ハーベスタ国と敵対したら、クアレールの民がどれだけ死ぬと思っている? ……自分の我欲で他人の命犠牲にしてるんじゃないよ」


 第三王子のドスのきいた声に門警備隊長は腰を抜かす。


 ……少し離れた場所から聞いている俺でも、今のチャムライはかなり迫力がある。


 そういえばあいつ、バルバロッサさんと何合か打ちあえるほどの剣士らしいな……。


 我がハーベスタのポーション強化兵ですら、一度打ち合えば剣が壊れて負けることを考えれば相当な腕だろう。


「名代殿、門を開きたいのだがよい方法はないかな? この隊長ゴミと話す時間が惜しい」


 第三王子はもはや門警備隊長は存在しないかのように、俺の方にくるりと向き直る。


「俺の魔法で門に穴を開けるなら余裕だが。もちろん直せるし」

「うーん。一時的にでも門を破壊した印象を民に与えたくないなぁ」

「なら私におまかせください。氷よ、階梯を築け」


 セレナさんが呪文を詠唱すると、地面から城壁の上まで伸びる氷の階段が造られた。


「この階段で壁を登って中から開けばよいかと」


 なるほど……攻城戦なら壁にはしごをかけて登り、そこから城壁の内部に侵入して内から門を開くのは正攻法だ。階段を架けるのはなかなかないだろうが。


 普通ならば攻城戦では壁の上で警備する敵の矢などの妨害も入るが、今回はあくまで門を開かれるのを渋られてるだけなので問題ないと。


「おお! ……でも氷の階段って滑って落ちません?」


 氷の張った地面とかツルツルだからな……しかもこの階段、城壁の上まで伸びてるだけあって一番高いところは地上から5mくらいある。


 もし滑って転んで階段から落ちたらヤバイのでは……。


「ご安心ください。階段の上部分は雪を撒いてますので、氷よりは滑らないかと」

「なるほど……」

「壁の向こうから城塞の内部に降りる時も、また私が下りの階段を出します」


 なら大丈夫かな? 兵士に階段を登らせて壁を越えさせるか。


「氷の階段を上って城塞の中に入って、内部から正規の方法で門を開いてくれ!」

「「「「はい!」」」」

「氷は滑りやすいから細心の注意を払ってくれ!」

「「「「はい!」」」」


 よい返事なので兵士十人ほどを選抜し、氷の階段を登らせていったのだが。


「おおっ!? 地面硬いしこの白くて冷たいのが雪かっ!」

「ちめてーっ。氷や雪を足場にするなんて俺たち貴族より豪華なマネしてるんじゃね?」

「本当じゃん、もう少し踏みしめていこうぜ。せっかくだしジャンプしてあっ」

「ああっ!? ハーベスタ国に愛する婚約者が待ってるアルゲドが足を踏み外して落ちたぁ!?」


 途中で氷や雪にあまり慣れてない馬鹿が、テンション上がってピョンピョン跳ねて遊んで滑って転んで落ちたが……生きてた。


 ハーベスタ国は温暖気味な気候なので、雪や氷は珍しいらしいが……事前に注意したのに! 金属鎧外させておいてよかった。


「こ、氷ってヤバイっすね……」

「ヤバイのはお前の足だよ」


 アルゲドとやらは足を骨折してたのでポーション飲ませて治した。


 ちなみにこいつ、裏切りの十本槍のひとりらしい。


 アーガ王国から寝返って嫁をもらって幸せライフ掴んでやがる……! これが人生の勝ち組かっ!


 いや俺も同じようなものじゃん。むしろ俺の方が勝ってるか?


 そんなこと考えている間に、セレナさん率いる兵たちが内部から門を開いた。


「あっはっは! 流石は銀雪華だねぇ、魔法の引き出しが多いから助かる」


 チャムライの意見に俺も頷いておく。


 セレナさんは魔法使いとしてかなり優秀だ。特に自分の魔法を使いこなす点において。


 ようは自分の魔法をどう使えばよいかの想像力や発想力の高さ。


 今回もそうだ。そもそも馬鹿では氷の階段という発想が出てこない。


「というかさ、僕思うんだけども。この魔法、普通に戦場で使えるよね?」

「それな」


 チャムライに同意を示す……この氷の階段、かなりヤバイ魔法だと思う。


 例えばだがこの氷の階段を敵軍の上にかける。


そして兵士を上に登らせて落石でもすれば……上空から一方的に攻撃できるぞ。セレナさん、恐ろしい人だ。


「ただいま戻りました。リーズ様、どうですか!」


 セレナさんが俺のすぐ側まで駆け寄って来る。


 ……なんか距離近くない? 50cmくらいしか離れてない気がするんだけど。


「ありがとうございます、セレナさん。流石は銀雪華の異名持ちですね。あ、活躍したので何か褒美を渡さないとですね」


 セレナさんは俺の直属の部下だ。なので勲功に対する褒美も、アミルダではなくて俺が支払わなければならない。


 この人が喜びそうな物って何だろうか? ……よく考えたら俺ってあまりセレナさんのこと知らないんだよな。


 女の子の喜びそうな物……砂糖の入った木箱進呈? いやそれは女の子じゃなくてエミリさんが喜ぶ物だな……。 


「褒美でしたら……頭をなでて欲しいのですが」

「え?」

「い、いえ何でもありません。頂けるなら何でも嬉しいです」


 セレナさんは焦ったように取り繕う。


 俺もビックリしたよ、頭をなでてどうしろというのだろうか……ハーベスタ国には上司が部下をなでる文化でもあるのか? あったっけ?


「はい! 箱いっぱいのお菓子がよいと思います!」

「ずばりお酒と美食だね!」

「君たちには聞いてない。また落ち着いたら渡しますね」

「すごく期待しています!」


 2バカコンビは無視しつつ、セレナさんの件は後回しにしておく。


「それで第三王子。門が開いたがこのまま王都内に進軍するんだな?」

「そうだね。ビーガン兵や第四王子の直轄兵は王城に詰めているらしいから、僕たちはひとまず広場に陣取ることにしよう。それで第四王子が不当に王城を占領していると広めた後は……」

「後は?」

「第四王子が頭を下げて来ればよし。そうでなければ……王城内で内紛を起こさせるか、第四王子を暗殺するか、王城を攻め滅ぼすしかないねぇ。まあひとまず凱旋を装って王都内を行軍して、僕らの力を見せつけようじゃないか」


 やれやれ……どう転んでも血なまぐさいことになりそうだな。


 ただ第四王子側が無茶苦茶やってくるからどうしようもないか……。


 奴らには民に被害を出さないなんて思考が欠片もないからな。

 

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今の王都、阿鼻叫喚過ぎて地獄。

他国の軍同士がにらみ合っている王都……歴史でもあったりするんですかね?

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