第31話 二正面作戦


 ルギラウ国が攻めてくると知ってから一ヵ月が経ち、屋敷で月の初めの評定が行われている。


「ルギラウ国はこっそりと国境付近に兵を集め終え、すでに我が国に向けて進軍を始めている。仕掛けてくると分かっていたから気づけたが……数日もすればハーベスタの国境にたどり着くだろう」


 アミルダ様は難しい顔をしている。


 やはり攻めてくるか……こんなことしてもアーガ王国が漁夫の利を得てほくそ笑むだけなので、過ちに気づいて止まって欲しかった。


「それと共にアーガ王国からも兵士約八千が我が国に出陣した。奴らはおそらくだがそのうちの二千ほどが国境付近に寄り付き、残りの六千は後方に控えるはずだ」

「我が国がルギラウ国の迎撃に使える兵士を減らすためでありますな! 我が軍を東西の二つに分けさせて!」

「そうだ。なので仮に我が軍が全てアーガ王国の迎撃に向かえば、奴らは攻めてこずに国境付近に居座るだろう。無論、こちらがまともな迎撃兵を出さなければこれ幸いと侵攻してくるが」


 ……本当にアミルダ様が先月の評定で言っていた通りになったな。


 アーガ王国は俺たちとルギラウ国が潰しあう方が都合がよく、あまり好戦的ではない。


 かといって防衛しなかったら嬉々として攻めてくるけど。


「リーズ。貴様の希望通り、受け取った金で傭兵をほぼ千揃えた。兵舎で待機させている」

「ありがとうございます。傭兵とエミリさんでアーガ王国軍を必ずや撃退します!」


 先月に宣言した通り、金をアミルダ様に渡して傭兵を用意してもらった。


 短期間で千人集めるの大変だっただろうに、そんなことはおくびにも出さないのは流石はアミルダ様である。


 ちなみに金については金貨を【クラフト】魔法で造った。


 ズルい? これくらいやらないとこの兵力差を覆せるわけないだろ!?


 いくら無限に金があろうが兵士や軍備を揃えられなきゃ意味ないんだよ! 


 そもそも魔力に限界あるから所持金∞は無理だし! 


 仮に所持金が無限にあったとしても購入する術がなければ、金貨はただのキレイな平たい石だし。


 ゲームならいくらでもショップで同じ物買えるけど、現実だと大量に物資を売ってもらうのも大変なんだぞ!?


「では出陣します! 敵を撃滅できたら俺だけでも援軍に向かいます!」


 そう告げて部屋から出て行こうとすると、アミルダ様が呼び止めてきた。


「待て、ひとつ命令がある。アーガ王国の敵兵だが倒すのは攻めてきている二千だけにしろ。後方部隊は放置しておけ」

「……前方部隊を壊滅させて、かつ後方部隊も無傷で倒せそうだとしてもですか?」

「そうだ、私に策がある。奴らは残しておいて欲しい」

「わかりました」


 アミルダ様がそこまで言うなら何かあるのだろう。


 アーガ王国兵って単純だし寝返らせて本国に攻めさせるとか……いや流石に無理があるか。


 ……でも味方にはつけて欲しくないなぁ。略奪強姦大好きの最悪軍隊だし。


 改めて俺は部屋を出て行った。




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 リーズとエミリが出て行った後、残る二人が会話を続けていた。


「伝えなくてよいのですぞ? モルティ国が我が国との国境付近に兵を集めていて不穏な動きがあると」

「…………不要だ。ただでさえ余裕のない戦で更に心配を持たせたくない。それにモルティ国がもし攻めてくるとして、狙うのは漁夫の利で間違いない。我らとルギラウ国、そしてアーガ王国で戦闘して潰しあってからしか仕掛けてこぬ」

「ですがリーズに言っておけば何らかの手段を弄じてくれるやも」

「ならぬ、私も少しは働かなければな。実はな、あの馬鹿の馬車の残骸から面白い物を見つけてな……」


 アミルダは少しだけ愉快そうに笑う。


 なお彼女は内政や軍備の関係で三日ほど寝ておらず、S級ポーションを飲んで頑張っている状態だった。


 この世界でエナドリのような物を飲んでまで働くのは彼女くらいである。




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 俺達は千人の傭兵引き連れて国境付近の草原へとやって来た。


 すでに遠くの方ではアーガ王国軍が布で陣幕をつくっている。


 陣の規模を見る限りでは敵軍二千人ほどだな、アミルダ様の言う通りだ。


「お、おい……敵のほうが多そうじゃね……?」

「ヤバイって……逃げるか?」

「いや待て、流石に戦う前からはマズイ。一当たりして劣勢なら即逃げよう」


 ……後ろの傭兵たちからそんな話が聞こえてくる。


 うわー、本当にこいつら酷い……金払ってるのに命賭ける気は一切ないのね……。


 いやそりゃ無理な命令して死んで来いってのはクズだけど、傭兵って戦争で戦う職業なわけで……危険なら即逃げはどうなの……。


「どうします? バルバロッサオジサマの言っていた通り、傭兵は頼りにならないですねこれ。それに彼らの装備もあまり質がよくないですし……本当にこんな状態で二倍の敵に勝てるんですか……?」

「大丈夫です、こちらにはエミリさんがいるから」

「いやあの本当に私、光る煙突が相応しい程度の魔法使いなんですけど……セレナのほうが絶対強いですよ!?」


 いかん、エミリさんが徐々に不安になってしまっている。


 俺としてはエミリさんの光の力で無双する予定なのだが……彼女にどうしてもらうかは一切伝えていないしぶっつけ本番だ。


 理由はこの作戦を隠すためだ。もし敵に情報が漏れたらこの作戦の効果は微妙になってしまう。


 壁に耳あり障子に目あり。シャグが屋敷のメイドを買収したりもあったので、とにかく情報を秘匿するのを優先した。


「大丈夫です、俺を信じてください!」

「信じてなかったらここまでついて来てませんよ! でも心配なんですぅ!」

「リーズ様。エミリは普段は猫をかぶってますが、実は少し面倒な性格なので気にしないでください」

「あ、実は知ってます」

「えっ!?」


 エミリさんは驚いているがたまに素が出てますよあなた。


 それに最初に彼女がアミルダ様と会話してたのを聞いてしまった時も、明らかにキャラが違ってたし……。


 まあいいや、エミリさんはやるべき時はやってくれる人だ。


 俺は喉を軽く鳴らすと傭兵たちに向けて大きく叫ぶ。


「皆! これから作戦を教える! 今から夜までここで待機して、その後に敵陣に攻撃を仕掛ける!」

「夜襲か、それなら数で負けていてもいけるか」

「いや待て、俺達寄せ集めだぞ? 連携なんて出来ないし下手したら同士討ちするのでは?」


 俺の言葉に対して傭兵たちはざわざわと騒ぎ始めた。


 夜襲、よく寡兵で大軍を破った時に聞く戦法。


 すごく強くて簡単そうに聞こえるが実際は難易度が高い。 


 ほぼ真っ暗の中で軍の統制を維持し、かつ敵軍にバレずにというのは難しいのだ。


 暗くて見えづらいから同士討ちの可能性だってあるし。


 そんなのを寄せ集め連携部隊、しかもまともに軍を指揮できる者もいないのにできるわけない。


 いや本当この軍ヤバイんだよね……だって隊長の俺がまともな指揮経験ないし。


 アミルダ様やバルバロッサさんいないから、まともに軍を運用できる人がいない!


 正直愚連隊かヤンキーの集まりとあまり変わりがない!


「これは夜襲だが夜襲ではない!」

「「「「?????」」」」


 いかん、傭兵たちがみんな首をひねっている。


「えーっとだな……夜に進軍するだけで不意打ちの類ではないんだ。ガンガン松明焚いて片手に持って進軍する感じだ」

「それって敵に丸見えでは……」

「うん、単純に夜に攻めるだけだから」


 困惑するエミリさんに答えておく。


 全員が訝し気な顔で俺を見てくるが言えるのはここまでが限界だ。


 これ以上のことを教えるとアーガ王国軍に伝えられて、作戦が察せられてしまう可能性が高い。


 この千人の寄せ集め傭兵の中に、アーガ王国の間者が混ざっていないわけないし。


「安心してくれ。形勢不利と感じたら逃げていいから! それに……最後まで残った奴には金属鎧をやる!」

「「「!?」」」


 傭兵たちは目を大きくして驚いている。


 当然だろう、金属鎧はものすごく高価だ。全身覆えるほどの鉄の塊が安いわけがない。


「き、金属鎧だって!? そんな高価な物をくれるのかっ!?」

「そ、それなら少しくらい残っても……!」


 よし、これで戦う前から軍が瓦解することはなくなったな!


 そんなこんなで傭兵たちを無理やり納得させて、夜まで待って作戦を決行することになった。



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