第103話 完全に進軍な件について
俺達はセレナさんを拾って、タッサク街から出た後。
クアレールとの国境付近にやってきて、既に準備されていた二千の軍と合流。
そこで軍を率いていた高校生くらいの男がいたのだが、なんとバルバロッサさんの息子らしい。
バルバロッサさんに息子がいたとは……いや貴族だから跡継ぎがいない方が問題なのだが……。
「お初にお目にかかります! 白竜城警備部隊長、ベルべ・ツァ・バベルダンと申します! 一名を除いて初めましてですね! いつも父がお世話になっております!」
鎧姿のベルべさんはビシッと敬礼をする。
体格は結構よいが、熊顔負けガタイのバルバロッサさんには到底及ばない。
見た感じだとバルバロッサさんのような一騎当千ではなさそうだ。
いやまあそれくらい強いなら、たぶんこれまでの戦に帯同してるだろうしな……戦場に出さない理由がない。
なお初めましてで除かれた一名はエミリさんのことのようだ。
何故かベルべさんが親の仇のように、エミリさんを睨んでいるからな。
何でだろう……ああ、白竜城の警備隊長だからか。
エミリさんは白竜城のコソ泥令嬢なので、警備隊なら常時敵対しているようなものだ。
「では軍の指揮はお任せいたします! 私はすぐに白竜城に戻らねばなりませんので!」
「えっ、誰が指揮を?」
「クアレール第三王子殿が総司令官とお聞きしております! では失礼いたします!」
元気よく走り去っていくベルべさん。
まじか、第三王子が二千の軍を率いるのか……ベルべさんもついてきてほしかった。
いや確かに第三王子が軍を率いるべきなのだが、満足に指揮とかできるのだろうか?
俺もエミリさんもセレナさんも大軍の指揮なんてできないので、経験ある人に残っていて欲しかった……。
「はっはっは! 僕を甘く見ているね? これでも五千の兵を統率したことがあるから心配ご無用! まあまともに戦ったことはないけどね!」
すごく自信満々に叫ぶ第三王子が不安過ぎる……。
ま、まあ戦いに行くわけではないから大丈夫か……たぶん。これ以上考えても不安が増すだけなので思考を変えよう。
「エミリさん。ベルべさんってバルバロッサさんくらい強かったりします?」
「そんなわけないじゃないですか。精々二十人くらい倒せれば御の字だと思いますよ? ついこないだ成人したところなので、まだ実戦に出たことない人ですけど」
「け、結構強いですね……やはりバルバロッサさんの血を引いてるようで」
「あの人、叔母様の評価だと指揮官向きだそうですよ。いずれは名軍師になり得る逸材だとか……卑劣な手ばっかり使うのでかなり疑わしいですけどね!」
バルバロッサさんで感覚がマヒしているが、二十人倒せるほどの武勇も相当のはずなんだが。
しかもそれだけ強いのに指揮官向きとは……人材が育ってきているハーベスタ国の未来は明るいな!
「あっはっは! では進軍を開始しようか! 名代殿、魔動車を出してくれたまえ! あれに乗って威張りながら凱旋する! きっと民衆は目を丸くして驚いて、僕の威光に頭を下げる!」
「威光に頭を下げると言うより、異様に視線を落とすの間違いでは?」
「あっはっは! 目立てば何でもいいよ! あ、屋根とか外せない? どうせなら顔見せながら行きたいんだけど」
呆れながらも魔動車をマジックボックスから取り出し、【クラフト】魔法で姿をオープンカーへと変更する。
エンジン部分などは簡単には作り変えられないが、ガワがただの鉄の塊なので形を変えるくらいは楽勝だ。
「おお便利! では出発だ!」
第三王子はさっさと魔動車に乗り込むと、俺達に向けて指示し始めた。
---------------------------------------
クアレール国の王宮の玉座の間。
そこでは少し太っている以外に特徴のない平々凡々の顔の男――第四王子がわが物顔で玉座に座り込んでいた。
「まだあの兄は見つからないのか! 早く暗殺者に殺させなければ、万が一生きていたら面倒だぞ!」
イライラを隠さぬ第四王子の叫びに対して、側近と思しき老人たちが頭を下げた。
「目下捜索中でございます。奴は国内のどこかに隠れているでしょうから、いずれ見つかるやと……」
「遅い! その間に第一王子や第二王子の支援貴族と接触されたら、結託して余に逆らってくるやもしれんのだ! 早々に殺すのだ!」
顔を歪めて不機嫌そうにする第四王子。
足でどんどんと床を鳴らして、玉座の手掛け部分を何度も指で叩いた。
「まあまあクアレール王。貴方が王位につくのはもう決定のようなものです」
「当たり前だ! 兄三人のような無能よりも、私の方が遥かに優れているのだから!」
「その通りでございます! 奴らは義などとくだらぬことを口にして、大局を見誤るクズ共! 決して王になってよい者ではありません!」
「そうですとも!」
「その通りだ!」
第四王子の腰ぎんちゃくたちが一斉に口をそろえる。
彼らはクアレール国で不遇の扱いを受けていた貴族たちだ。
義とは水と油の者たち……ようは不義を働いて元クアレール王から嫌われていた。
つまり第一王子や第二王子の派閥に入ることを許されず、今後のクアレール国でよい立場になることは期待できなかった。
そんな彼らが考えることはひとつ。自分達がのし上がれるように、邪魔者の排除を画策することであった。
「分かっているならば早々に兄を見つけよ! 奴が生きていたらどうなるか分かるだろう! 私が王位につくのに逆らう者たちが、第三王子の元に一致団結するぞ!」
第四王子派閥はその成り立ちから、第一王子と第二王子の両方の派閥と敵対している。
故に第一王子と第二王子の派閥からすれば、第四王子がクアレール王になるのは断固として認められない。
そんなことをすれば自分達が冷遇されるのは明らかだし、そもそもハーベスタ国と敵対するなどあり得ないと考える頭を持っている。
だが今の彼らは纏まりがない。トップである第一王子と第二王子を失ったことで、取りまとめる者がいないためだ。
そうであれば烏合の衆。誰が頭になるかで喧嘩して瓦解していくだろう。
だが第三王子さえ生きていれば、彼らは一致団結して第四王子に歯向かい始める。
第四王子がクアレール王になるよりはよほどましだと。
そんな折、玉座の間にひとりの兵士が飛び込んできた。
「ほ、報告します! 第三王子が発見されました!」
「おお! 即座に首を跳ねよ!」
これでもはや敵はいないと、第四王子は自分の輝かしい将来を想像して舌なめずりした。
だがその妄想は次の一言で簡単に消し飛ばされる。
「そ、それが……軍を連れております! しかもハーベスタ国の旗を掲げた軍を!」
「…………は?」
「迂闊に手出ししてもよいのでしょうか!? クアレール王!」
「い、いやそんなはずが……だがもし本当ならマズイぞ!? まだ地盤を固めていない現時点で私がハーベスタ国に喧嘩を売ったら、従う者も従わなくなる……!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます