第142話 舌戦?
アーガ王国の交渉を受けることになった。
バルバロッサさんがアッシュたちを、俺達の布幕の本陣の中へと連れてきた。
やって来たのはアッシュ、ボルボル、シャグ、ボラスス教皇、そして謎のフードを被って顔を隠している者。
最後の奴は護衛だろうか。
すでに長机や椅子は用意していて、話し合いの準備は万全なのだが……。
「頭が高いわよ! この私がわざわざ出向いてやったのに!」
「早く頭を地面にこすりつけるんだな!」
「銀雪華! お前は私の性奴隷だろうが! この裏切り者が!」
アッシュたちはいきなり意味不明な言葉を吐き続ける。
……この場でスパッとやれたら楽だろうなぁ。流石にそれをしたらアーガと同じなのでなしだが。
というかこいつらある意味すごい。敵陣のど真ん中でよくこんな言葉を吐き出せるな……。
「……交渉に来たのではないのか? それとも喧嘩を売りに来たのか?」
「黙りなさいこの売女! このアーガ女王に対して敬語を使わないとはなんたる無礼!」
アミルダに対してアッシュは意味不明な物言いだ。
そもそもアミルダもハーベスタ国の女王なんだが? アッシュめ、女王になったことで傲慢さがパワーアップしてやがる……。
「リーズ! よくもやってくれたんだな! おかげでボキュは死んでしまったんだな! お前はボキュに殺されないとダメなんだな!」
「いやそもそもお前らが俺を殺したのが最初だろうが」
相変わらずボルボルはボルボルしてやがるし……。
死んだならそのまま眠っておけばよいものを。
こいつはアーガの足を引っ張るから、生きていて少し嬉しいところがあるのが複雑だが。
「銀雪華! この裏切り者め!」
「私は裏切ったわけじゃない。貴方がポーションを用意するなんて嘘をついた」
「私が嘘をついたからと言って、お前が裏切ってよい理由にはならない! この戦いが終わったらお前は私の娼婦にしてやる! 自ら私を求めるように調教してやる!」
シャグとセレナさんがバチバチに言い争っている。
……いやこれ交渉どころの話ではないだろ。互いに因縁がありすぎてそれどころではないぞ!
「貴女のせいでバベルが死んだのよ! 責任をとって降伏しろ!」
「それを言うならばだ。我が父や兄はアーガに攻められて殺された」
「バベルの命と、あんたらのゴミを一緒にするんじゃないわよ!」
「…………」
あ、アミルダが無言のままアッシュを睨んでいる
あれは内心めちゃくちゃ怒ってるな、そりゃそうだろうけど。
「なんですかこの人たち……」
「む!? ハーベスタ女王の妹なんだな! お前もボキュの性奴隷にしてやるんだな!」
「本当に言ってること全部意味不明です……」
エミリさんがボルボルの言葉に困惑して、視線で俺に助けを求めている。
もしかしてエミリさんがアミルダの妹と勘違いしているのだろうか……流石はボルボル、相変わらずわけがわからん。
「貴様が我が愛する息子を殺した男だな! お前は楽には殺さんぞ! お前の妻を全員寝取って、その妻たちに殺させてやる!」
「……は?」
シャグが俺に意味不明なことを言って来たので、思わず素で返してしまった。
いやこいつら本当に何なんだ。わざと俺達を怒らせる発言をしているのか?
「まあまあ落ち着いてください。今日は悪口を言い合うために来たのではありません」
恐ろしく濁った空気を切り裂くように、ボラスス教皇が笑いながら手をパンと叩く。
こんな空気感でよく笑ってられるなこいつ。
「そうね、もう滅ぶ国の奴らに言っても無意味。捕らえてから泣かせてあげるわ! バベルを殺した罪、絶対に許さない!」
「…………はぁ」
「ボキュの采配の前に恐れおののくんだな!」
「恐れおののくのはアーガ兵の人たちでは?」
「銀雪華! 忘れるな、お前は私の性奴隷だ!」
「貴方に受けた辱めは忘れていません。必ずお返しします」
アッシュたちは言いたい放題してから、ようやく交渉の椅子についた。
いやこいつら交渉しに来てないだろ……本当に何様のつもりだ?
「ふふふ、ではアーガ王国とハーベスタ国の交渉を始めましょう。仲介役はこのボラスス教皇である私が」
「其方はアーガの同盟者であって第三者ではない。仲介役にはなれぬ」
「偉大なるボラスス教皇にそんな態度を! 恥を知りなさい! ボラスス神聖帝国が仲介してくれると言っているのよ!」
机をバンバン叩いてヒステリックに叫ぶアッシュ。
……なに? 本当にこいつ何かおかしくなっただろ。
「もうよい。それでアーガよ、貴様らは何を伝えに来たのだ? 交渉というからには目的があるはずだ」
アミルダが我慢の限界なのか、少し強めの口調で告げる。
それに対してアッシュは睨み返した。
「降伏勧告よ! ハーベスタ国はすぐさま全面降伏しなさい! そうすれば兵士たちの命は保障する!」
「断る。何故均衡している戦場で、全面降伏などせねばならないのか」
「アーガがこの戦いに勝つからよ! 兵力差は歴然でしょうが!」
「今までに我々がどれだけの不利な戦を勝ってきたと?」
アミルダが不敵に笑うと、ボルボルが勢いよく椅子から立ち上がった。
「それはボキュがいなかったからなんだな! ボキュがいれば話は大きく違うんだな!」
確かに話は違うな。ボルボルが指揮官であることで、更に悲惨に負けるという意味で。
「……くだらん。誰が交渉などしようと言い出したのかは知らぬが、完全に時間の無駄だ。もう話す価値もない、お帰り願おう」
「チッ! せっかく降伏を認めてやると言っているのに! ほら見なさい、ボラスス教皇様! こいつらに慈悲の心なんて無駄と申しました!」
アッシュは激高しながらボラスス教皇に叫ぶ。
……この馬鹿な交渉劇をセッティングしたのあいつかよ。
こうなると分からなかったのだろうか……。
「ふふふ、いえいえ。実はですね、この交渉の目的は交渉ではないのですよ」
「ボラスス教皇様? それはどういう意味で……?」
「そろそろ場が煮詰まりました。もうフードを外してよいですよ」
「やっとですか。待ちわびましたよ、この瞬間を」
今まで一言も喋らなかった男は意味深に呟くと、フードに手をかけて頭から外した。
そして隠れていた顔が見える……え?
「……っ!?」
「え? え?」
「どうなっているんだな!?」
皆がフード男の正体を見て驚きの声をあげる。
当然だ、俺自身が一番意味不明過ぎて困惑しているのだから。だって……。
「自己紹介をしようか。僕はリーズ、君に全てを奪われた男だ」
そこにいたのは俺だった。
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かなりの自信作です!
プロローグでだいたいどんな話か分かるので是非見てください!
現在9話まで投稿しております!
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