第27話 アーガ王国の戦意はボロボロ
「アッシュ殿! どうしてボルボルの敵討ちに出陣しないのかっ!」
アーガ王国にあるアッシュの私室、そこではシャグが激怒していた。
彼個人はハーベスタ国に対して、内政官を潜らせるなど壊滅的なダメージを与えている(と本人は認識している)。
なのにアーガ王国軍はまるで動きがないのに不満がたまっていた。
「二月連続で惨敗したことで、兵たちの士気などが限界でして……」
「何を言うか! 卑劣なハーベスタ国に対して、我が愛息子ボルボルの敵討ちだぞ! 兵たちも意気軒高になるに決まっているだろうがっ!」
「シャグ様、士気より物資の問題ですぜ。兵糧も武器も揃えられないんでさ、ハーベスタ国が卑劣にも破壊工作をしたんです。我が国内で狼藉を働き、国境付近の村が略奪で壊滅状態で……」
怒れるシャグに対してアッシュとバベルは必死に言いつくろう。
「ぐっ……ハーベスタ国め! あのような鬼国、早々に滅ぼさねばならぬ! 来月には確実に攻め込むのだっ!」
「もちろんでございますわ、シャグ殿。それに……少々面白い策略も考えつきましたの。ハーベスタ国の周辺にある三国、どれかをシャグ様の謀略と私の弁舌で寝返らせれば……」
「おお! 挟み撃ちにできればハーベスタ国なぞ楽勝か!」
「もちろんでございます。元々彼らは兵をかき集めて千。二正面から攻められては……」
「よいぞ、すぐに仕掛けるのだ! 私も色々と準備しておく、ではなっ!」
シャグは機嫌を取り戻して部屋から去っていった。
それを見てアッシュとバベルは大きくため息をつく。
「はぁ……勘弁して欲しいわぁ。ボルボルの敵討ちなんて言っても兵たちの士気が上がるわけないじゃない」
「むしろ惨敗の原因なのでだだ下がりですね。まあ現状でもどん底ですが……」
アーガ王国はハーベスタ国に攻められる状況ではなかった。
ただでさえ圧倒的な戦力差から二度も惨敗し兵士の士気は壊滅的。
もはや兵士たちの間ではハーベスタ国に攻めても絶対勝てない、と口々に話し始めているくらいだ。
完全に負け癖がついてしまっていて、これでは勝てるものも勝てない。元から勝てていないが。
「しかも補給も無理ですよこれ……逃亡した敗残兵が我が国の国境付近の村で散々好き放題しまくりましたから」
ハーベスタ国に敗北して散り散りになって撤退した兵たち。
彼らは自国に戻ってから食料がなかったため、各自が周辺の村で略奪まがいの接収を行っていた。
これは最悪だ。アーガ王国がハーベスタ国に進軍するための補給物資は、その通り道にある村から徴発するのが基本。
一万人もの軍勢ともなれば必要な食料を馬車で運ぶのはかなり大変だ。
なにせ一日でも馬車二十台分ほど必要なのだ。数日分ならまだしずっと移送で賄うのは難しい。
なのでアーガ王国は敵対国で略奪の限りを尽くす。
敵国にたどり着くまでの自国内の進軍では、通り道の村から食料を接収するのだが……ハーベスタ国付近の村は壊滅に近く次の収穫までは食料がない。
そもそも仮に運搬の問題が解決しても、今のアーガ王国にそこまでの兵糧を用意できる余力はない。
万全の状態からの二戦連続の惨敗は、大国となったアーガ王国にも決して軽い傷ではなかった。
「どうします? 兵士たちもボロボロですし、宴のひとつでも開いてやらないと……」
「そんな余裕があるわけないでしょう! 二度の敗戦の責任を責められて、私の給与が下げられるかもと言われているくらいなのにっ! バベル、あなたのもよ!」
「は、はあっ!? 意味不明だ! なんで俺達がっ!?」
「それもこれもハーベスタ国が抵抗するからっ……!」
「……来月よ。来月にまた侵攻するわ」
「えっ、でも兵たちの士気も物資も……」
「……これ以上ボルボルの敵討ちをしなかったらシャグ殿が承知しないわ! そうすれば私たちは大貴族の後ろ盾を失うことになる! 大丈夫よ、策はある。周辺諸国に一国ほど調略できそうな国があるから何としても寝返らせて……!」
「ボルボルめ、死んでもなお迷惑をかけるのかよっ!」
天才軍師孔明は死んでなお敵軍を恐れさせて撤退させた。
逆に無能将軍ボルボルは死んでなお、味方軍を無理やり侵攻させてしまう。
まさに『死せるボルボル、生けるアーガ王国軍を走らす』である。
無能すぎる人物は死んでもなお生前のように、生きている者の足を引っ張るのである。
「それにハーベスタ国だって二度の出兵でボロボロなはずよ! ここで奴らの国を完全に侵略できればこれまでのミスは完全に帳消し!」
「た、確かにそうですねっ! 奴らも二度も大軍を動かした。いくら完勝しても兵が疲れ切って士気も落ちてるはず!」
「お金だって余裕がないのだから、奴らも兵の士気向上はできないわ。それに兵糧も不足してくる、体力勝負なら国力差で我が国が勝てる! 今度は騎馬隊や弓兵部隊も配備するわ!」
彼女らは知らなかった。
ハーベスタ国の兵士はリーズの力によって戦勝祝いを開き、士気旺盛になっていることも。
兵糧もトウモロコシなど山菜を改良などでカバーされつつあることも。
結局のところ、ハーベスタ国のダメージはほとんどなかったのである。
「しかしここまでハーベスタ国が強くなっているとは……」
「奴ら、様々な兵器を隠し持っていたみたいよ。それに兵糧も物資もどこに隠し持って……! リーズは精々が剣を造れる程度なはず……」
アッシュたちはリーズの力を過去に利用していたくせに、彼が物資を揃えたり兵器を造ったなど欠片も想像つけない。
普通に考えれば味方のチートが敵に回れば、同じことをされると容易に想像がつくだろう。
その思考が及ばないのには理由が二つあった。
ひとつはアーガ王国にいた時のリーズは、忙しすぎて新兵器などとても開発できる余裕がなかったこと。
ふたつめは……彼女らはアーガ王国の物資の大半を、リーズが賄っていたのを知らないのだ。
アーガ王国軍には物資調達部隊があり、彼女らはその隊に物資の用意を投げっぱなしにしていた。
そして物資調達部隊に仕事を押し付けられたリーズが、全てを完璧に揃え切っていた。
間に挟まった存在があったことで、アッシュたちはリーズがアーガ王国の心臓部であったと認知できなかったのだ。
もしアーガ王国に今もリーズがいれば軍に帯同させて、その場で兵糧を作り出せるので村からの兵糧徴収も必要ない。
宴会も開けるので兵の士気もある程度解決できる。
装備だって万全に揃えられるしそもそもハーベスタ国に負けることはなかった。
「くくくっ……あのすました顔の女王、捕縛したら裸にひん剥いてスラムに放り出してやる……! このアッシュ様の神算鬼謀の限りを味合わせてあげるわ!」
大国が小国相手に必死に謀略の限りを尽くす時点で無様の極みである。
本当に神算鬼謀の者ならばこんな事態にはなっていない。
「行くわよバベル。ルギラウ国の王を寝返らせて、ハーベスタ国を前後から攻めて滅ぼす!」
「へぇ! わかりやした!」
神算鬼謀とは到底言えず誰ても思いつくことだが、ハーベスタ国にとって致命的な事態が訪れようとしている。
だが……アーガ王国軍もまたかなりボロボロであった。
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