第26話 ルギラウ王


「むぅ。軍を強化するにはどうすればよいかであるか?」


 俺は練兵場でバルバロッサに相談をしていた。


 やはり軍事と言えば軍隊長であるこの人が適任……かは微妙だが、他に尋ねられる人がいない。


 アミルダ様ならこの話題にも明るいのだろうが、あの人は超絶忙しいからな……。


「やはり武芸を鍛えて全兵士が吾輩のようになれば」

「それ以外でお願いします」


 全兵士がバルバロッサさんになったら怪物軍隊だ。もう人間国家が持ってよい軍じゃなくなる。


 それに不可能にもほどがある。それならまだ戦闘機を造ってパイロットを養成して、航空部隊を用意するほうがいくらか現実味がある。


 ちなみに俺が【クラフト】魔法で現代兵器を造らない理由だが、純粋に魔力がかかりすぎるというのがある。


 俺の能力は大きくて細部が精巧な作りの物ほど作成に魔力が必要だ。


 機械のような精密な道具は作成に恐ろしく魔力を食うのだ。


 ましてや戦闘機は大きい。作ろうとしたら数か月分の魔力全部費やすくらい必要かもしれない。


「ならばやはり兵を増やすことだな。我が軍は純粋な兵数が少なすぎるのだ」

「そうですよねぇ……もう少し徴兵できないのですか?」

「無理であるな。これ以上の農民を徴兵すれば、農作業の手が足らず次の作物の収穫が減ってしまうのである!」


 我が軍、全員農民兵だもんなぁ。


 彼らを徴兵するということは畑などが放置されるわけで。


「なら傭兵とか」

「金がないのである! 仮にあったとしても奴らは形勢が不利ならすぐに逃げるのである! 我が軍と敵軍の兵数差を見れば下手すれば戦う前に逃亡する!」


 バルバロッサさんの言うことは正しい。


 傭兵は決して死ぬまで戦ってくれたりはしない。


 むしろ自分の身体と命が最も大事なので、少し危険と感じるや否やすぐに逃げる。


 ハーベスタ国の兵士が逃げないのはここが自分達の国、守らなければ! という意識があるからだ。

 

 士気の低い兵士の軍がどれだけ悲惨かは、アーガ王国軍の無惨を見ればよくわかる。


「逆に言えば傭兵が簡単には逃げられないようにすれば、ということですか」

「そうであるな。足に鎖をつけるとか」

「それはそれで戦えないのでは……」


 やはり兵力不足は簡単には解消しないのである。いやしない。


 数だけ揃えても役立たずじゃ意味ないしなぁ。


「む? リーズにバルバロッサか、ちょうどよい」


 そんなことを話しているとアミルダ様が声をかけてきた。


 何故練兵場にいるのだろうか。しかも隣には若い貴族風の金髪男もいる。


「おお、アミルダ様。それに横にいらっしゃるのはルギラウ国の王ではありませぬか」


 バルバロッサさんが深々と頭を下げて礼をとった。


 え? なんで他国の王様がここに!? 何も知らされてないんだけど!?


「急にお忍びで来られてな。私もいらっしゃるまで知らなかったくらいだ」

「ははは、アミルダの顔を見たくなってね。いつになったら私と結婚してくれるんだい?」


 ルギラウ王は笑いながらアミルダ様に冗談を……いやあれは本気っぽいな、目が笑っていない。


「何度も言っているが私はこの国から出る気はない。貴殿と婚姻を結べば、貴殿の国に嫁ぐことになるだろう」

「いやほら。私と君の婚姻でルギラウ国とハーベスタ国を統一すれば……」

「またいつもの冗談を。ハーベスタ国は私がお父様から守り通すと約束した国だ、なくならせるわけにはいかない」


 ルギラウ王は軽く説得しようとするが、アミルダ様は完全に意に介してない。


 彼女は俺が思っている以上にハーベスタ国に愛着があるようだ。


「そんなことよりも貴殿に紹介したい者がいる。ここにいるリーズという男だ、この者の働きによってアーガ王国の大軍を追い返した」

「へえ、それはすごい」

「しかも兵たちの戦勝祝いを少ない予算で開くなど素晴らしい働きをする。この者がいれば我が国は安泰、まさに我が国の要となった。故にアーガ王国は恐れるに足らず、貴殿も安心できるだろう」

「ず、随分と褒めるね」


 ……なんかルギラウ王がこちらを睨んでくるんですが。


 めちゃくちゃ挨拶しづらいんだけど、紹介されたらせざるを得ないか。


「リーズです。アミルダ様から過ぎたお言葉を頂きましたが、そこまで優れてはいません」

「は、ははっ。そうだろうね、流石に……」

「過言ではない、事実をそのまま話している。この者がいなければ我が国は滅んでいただろう」


 物凄く賞賛されてなんか嬉しい。


 ルギラウ王はアミルダ様の言葉を信じていないのか、引きつった笑みを浮かべている。


「そ、そうか。それはすごいな。ところで私も先日、国の剣術大会で優勝してね!」

「そういえば貴殿の剣の腕前はなかなかだったな」

「そうなんだよ! それで今から私の剣捌きを……」

「すまぬが時間がない。アーガ王国に二度も攻められたのだ、色々とやることもある」


 そりゃそうだ。


 むしろルギラウ王はアポもとらずに急にやってきて、アミルダ様からすれば本来大迷惑だろう。


 ただでさえ忙しくて睡眠時間を削りがちなのに、謎ムーブで来るなよと思ってしまう。


「あ、あはは……そうだね。そろそろ帰らせてもらうよ……」


 形勢不利と見たかルギラウ王は去っていく。


 あの人、さてはアミルダ様にホレてるな。でもアミルダ様のほうは眼中になさそうだけど。


「やれやれ、ルギラウ王は何の用事で来たのやら」


 アミルダ様は離れていくルギラウ王を見て小さくため息をついた。


「えっ? 物凄く分かりやすいと思うのですが」

「婚姻の件ならば奴のいつもの冗談だ。たまには他にも話のタネを増やせばよいものを。四国同盟が成り立っている状況だぞ。わが国とルギラウ国が合併などすれば、他二国とのバランスが崩れてどうなるか分からん」

「…………」


 俺が無言でバルバロッサさんのほうを見ると、彼は小さく首を横に振った。


「アミルダ様はその、ご自身への好意に対してはすさまじく疎いのである……」

「バルバロッサ、お前はまたそんなことを。あの者のどこに私への好意があるのだ。奴は私に対して好きの一言すらないのだぞ」


 アミルダ様ならもし好きな相手がいれば、しっかりと好意を伝えるんだろうなぁ……でも普通の人ってわりと恥ずかしがり屋なんですよ。


「そもそもこんな気の強い、飾り気もなく化粧もロクにしない女を欲しがる男がいるものか。私が男ならエミリやセレナのほうがよいに決まっている」


 アミルダ様もそうとう見た目よいんですけどね。


 性格もかなりキリッとしていて魅力的だとは思うのだが……女としての自己評価が低すぎる。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る