四国同盟編
第25話 同盟国に賄賂を贈ろう
兵士たちを強化するための武器を考えるため、練兵場で訓練を見物していた。
うーん、やはりというか何というか。
……ハーベスタ国の兵士は練度がかなり低い。
実はこの国にまともな職業軍人はほぼおらず、全軍が実質農民兵なのだ。
「これやばいよなぁ……アーガ王国が本腰いれて攻めてきたら……」
プレートアーマーやクロスボウなど装備の質で誤魔化してはいたが、平均的な兵士の質はアーガ王国のほうが断然上だ。
今までの奴らは俺達を舐め腐っていたので微妙な兵で攻めてきたが、今後は弓兵部隊や騎馬隊などの精鋭を率いてくると思われる。
そうなると今まで数の差を装備などの質で補ってきた我が軍が、その質でも圧勝はできなくなるわけで……。
やはり更なる兵士の強化が必要だ。プレートアーマーに盾を持たせたり……でもそうすると盾の訓練も必要なんだよなあ。
まあ盾なら素人が構えてるだけでも最低限役には立つけど……。
新しく武器を作りました! すぐ使ってね! と手あたり次第に渡すわけにはいかないのが難しい。
「プレートアーマーだから弓は何とかなると仮定しても……騎馬相手は無理では?」
とりあえず特にヤバイのは騎馬隊だ。
騎馬隊は一般兵からすると恐ろしい存在だ。
馬に乗った人間の頭の高さは2mを超えるし馬もデカイので、物凄く速い速度で自分よりはるかに大きな巨人が襲ってくるようなもの。
我が軍の練度の低い兵士たちだと、下手したら接敵した瞬間に瓦解しかねん……。
恐るべき事実に戦々恐々としていると、アミルダ様が俺の方に歩いてきた。
「アミルダ様、こんなところにどうされましたか?」
「リーズ、A級ポーションを三樽ほど作成することは可能か?」
「それくらいなら余裕ですが……怪我人でも出ましたか?」
「いや違う。周辺の同盟国に配って関係を強化しようと思ってな。アーガ王国なら我らの関係を壊そうとしてくるだろうし」
なるほど。A級ポーションを贈り物にして友誼を深めると。
つまりは賄賂みたいなものか。A級ポーションはかなり高いし軍事的利用価値も高いので、無料で配るのはもったいない気もするが……。
「ふむ、そういえば貴様は周辺国の状況について知っているか?」
「アーガ王国が全方位に喧嘩売ってることだけは」
「なるほど。ならば簡単に説明しておいてやる」
アミルダ様は懐からペンみたいな棒を取り出すと、地面に図を描き始めた。
……もしかして地面に書く用の道具を常に持ち運んでいるのだろうか。
ボラスス神聖帝国
│────────│─────
│ ビーガン │
│───│ │
│ │────│───│
│ ルギラウ │我が国│アーガ王国
│────────│───│
モルティ │
──────────│
「これが大まかな周辺国だ。大雑把に描いたので配置は微妙だが。南側は現状ではあまり関わっていないので省いた」
「……ハーベスタ国、小さくないですか?」
なんか国同士の間に間違って挟まった都市みたいな感じだ……。
他国の侵攻のついでに滅ぼされる感じの。
「我が国土は大半がアーガ王国に奪われたからな。もはや国というより一領地に近い。知っていて仕えたのではなかったのか?」
「そこまで酷いとは知りませんでした……」
ハーベスタ国だいぶ詰んでる状態だったんですね……言われてみれば国なのに兵士が千人しか用意できない時点でおかしい。
「ボラスス神聖帝国を除いた四国で同盟を組み、アーガ王国と相対しているのが現状だ」
「でも援軍送ってくれませんでしたけど」
「……同盟と言いつつ実質的には不可侵条約だ。四国とも自国の防衛に精いっぱいでとても他国に援軍など送れぬ」
「それだと同盟無意味なのでは……」
助け合わない同盟とはいったい……だがアミルダ様は首を横に振った。
「そうでもない。不可侵条約を結んでいるからこそ、わが国の戦力を全てアーガ王国に向けられるのだ。もし条約がなければ周辺国への備えが必要なので、全軍で侵攻を迎撃するなどできなかった」
「あー……周りから攻められる心配がないというメリットがあるんですね」
「そうだ、それだけでも助かっている。もしアーガ王国になびいて同盟脱退国でも出たら、わが国はどうしようもない。アーガ王国と挟み撃ちにされてしまう」
アーガ王国だけでも精いっぱいなのに、二正面作戦なんて無理に決まっている。
アミルダ様も同盟維持のためにA級ポーションでも差し出すわけだ。
この同盟が崩れたら、アーガ王国に攻められている我が国は絶望的な状況になってしまう。
仮に全軍をもってアーガ王国を撃退しても、その間に他の国が攻めてきて滅びました! なんて未来が見える……。
「我が国、かなりヤバいバランスで成り立ってますね……」
「まあ見た目ほどではない。アーガ王国の脅威と信用のできなさは他三国も知っているので、同盟を破棄することはないだろう」
「アーガ王国が暴虐非道で欠片も信用できない国なのが幸いしてるとは……」
まさかあいつらのクズさが役に立つことがあるとは。
「なのでA級ポーションを各国に一樽ずつ送りたい。A級ともなれば王族の病を治すのにも使える。それに負傷兵も即座に回復できるので、強力な兵器ともなりえるからな」
A級ポーションならかなりの重傷でも即座に治せる。
なので倒れた負傷兵にぶっかければすぐに戦闘に戻れるわけだ。
問題は戦闘中にポーションの瓶を取り出して、倒れている味方の兵士にかけるなど現実的ではないことだが。
それに即死してたら高級ポーションの無駄遣いになる。
敵が目の前にいる状況で、倒れている兵士に息があるか確認してポーションかける……うん、無理。
戦闘終了後じゃないと使えないよな。戦況に影響を及ぼせるというよりは、勝った後の状況をよくする兵器だ。
「A級ポーションですが、なんならその十倍でも余裕で造れますが」
「……相変わらずおかしいな貴様。そこまではいらぬ、いくら同盟を組んでいても他国だ。必要以上に物資を送ってもよいことはない。いつか敵になる可能性もある」
アミルダ様は少し複雑そうな顔をしている。
恐るべき脅威に対しての同盟でも、何の軋轢もなく協力し合うのは無理なようだ。
もう一度地図を確認しつつ少し気になることがある。
「あの、これってルギラウ国だけアーガ王国と接してないんですよね。この国だけ現状アーガ王国の脅威がないので、他の国より少し危険なのでは?」
他の二国はアーガ王国と隣接しているので、常に奴らに対しての備えがいる。現状での我が国への出兵は難しいだろう。
だがルギラウ国だけはアーガ王国と隣り合っておらず、わが国に攻め込むことも不可能ではない。
「そうだな。だがルギラウ国の王は矮小で臆病だ。我が国が落ちれば今度は彼の国がアーガ王国の脅威に晒されると考え、大胆な行動など起こしはしないだろう」
「なるほど……」
「なのでA級ポーションを頼むぞ。友誼の品として送る」
……我が国、かなり薄氷の上で成り立ってたんだなぁ。
もっと軍の強化しないとヤバイな、真剣に色々と考えよう。
ないとは思うがもし他国が裏切って攻めてきたら詰みかねないし。
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