第24話 モロコシ無双の戦勝祝


 山に生えていたイネ科の植物を【クラフト】魔法でトウモロコシにして、戦勝祝の食材にすることに成功した。


 屋敷の料理人を使って料理を作らせたり、俺の力で色々作って準備をして……無事に戦勝祝を開くことになった。


 アミルダ様の屋敷の庭に兵士千人が集まっていて、アミルダ様が設置した檀上に立つ。


「アーガ王国の二度の侵攻、よく防いでくれた! 今後も奴らは攻めてくるだろうが案ずることはない! 奴らの弱さは貴様らも骨身に染みただろう! 次もまた完膚なきまでに叩きのめしてやろうぞ!」

「アーガ王国なにするものぞ! あんな奴らただのザコだ!」

「アミルダ様万歳! ハーベスタ国万歳!」


 兵士たちはアミルダ様の宣言にすごくテンションをあげている。


 いや本当に戦力差十倍の相手に死者ゼロという、前代未聞の圧勝劇だったからなぁ……。


 俺の力もかなり大きいだろうが、正直ボルボルの貢献もかなりでかかった。


 マジであいつが率いた軍で助かったよ。他の奴ならここまで完勝は無理かもしれなかったし。


「我々はアーガ王国の常勝将軍を屠った! だが決して油断はならぬ! 敵もここからは本気でくるだろう! ここからが本番と思ってくれ! とはいえ気を休めるのも必要だ。ささやかだが戦勝祝を用意したので好きに騒いで欲しい!」

「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」


 兵士たちから今日一番の喜びの声があがる。


 そして戦勝祝が始まった。


 いくつものテーブルを外に設置してバイキング形式にした。


 テーブルの上の皿にのせている料理を、各自取り皿に取って自由に食べてもらう。


 兵士たちは一斉に料理を取ろうとして、皿にのっているものに困惑している。


「なんだこりゃ? 見たことない作物だが……豆を焼いてるのか? 香ばしい匂いがするが」

「真っ白だがなんだこれ?」

「えらく薄いパンだなぁ」


 焼きトウモロコシ、ポップコーン、トルティーヤを見て困っている兵士たち。


 いきなり知らない食べ物を出されても困るよな普通。


 何も考えずにかぶりついたバルバロッサさんが異常なのだ。


「これは焼きトウモロコシという食べ物だ! 肉と同じような感じで、周囲の豆っぽいのだけ食べてくれ!」


 俺は兵士たちに見せつけるように、焼きトウモロコシを横にしてかぶりつく。


 うん、【クラフト】魔法で作った醤油タレがよい味付けになっている。


 ちなみに塩や醤油は俺が魔力でつくった。調味料ならそこまで量もいらないし一日の宴会分くらいなら問題はない。


「この白いのはポップコーンというのである! こう食べるのであるっ!」


 バルバロッサさんが豪快に皿のポップコーンをつかみ取ると、全て一気に口に放り込んで口を膨らませて咀嚼する。


「……そこまで一度に食べるものではないですよ!? 一粒ずつ味わって食べてください!?」

「がはははは! 細かいことはよいのであるっ! 塩味がきいていてこれも美味いのであるっ! 酒がすすむ!」


 バルバロッサさんはポップコーンを飲み込むと、すぐにバケツと見まがうような大きさの木のグラスでウイスキーを飲み始めた。


 いや待て、あれはグラスじゃない! 馬のエサをいれる飼葉桶だ……! 


 なんでそんな物で酒を飲んでいるんだろう……。


 なおウイスキーもトウモロコシで造ったものである。


 というか祝勝会の料理は一品除いて全てがトウモロコシ原料のものだ。


 予算がないからなっ! 本来なら同じもの食材の料理ばかりでは文句が出かねないが、焼きトウモロコシとポップコーンとトルティーヤが同じ素材と分かりはせんだろ!


「うむ! このパリッとしたやつも美味いのであるっ! これまた酒が進むっ!」


 バルバロッサさんはトルティーヤを揚げて、塩などで味付けしたトルティーヤチップスをバリボリ貪っている。


 そして巨大グラスで一杯乾杯……まるで鬼の晩餐みたいだなぁ……。


 なおこのバケツグラス、ウイスキー瓶三本分くらい入っている模様。


「う、うめぇぞこれ!? 甘辛い新感覚だ!」

「本当に塩味きいててこりゃ酒が進むなっ!」

「パリパリしてていいなこれ」

「てかこの酒が美味いぞ」


 兵士たちにもかなり評判がいい。


 よかったよかった。彼らの味覚が地球人と大きく違っていてマズイとか言われたらどうしようかと。


 あ、ちなみに普通のトルティーヤはあまり人気がないです……薄いパンなだけで物珍しさに欠けるのだろう。


 実際、本来なら肉とか載せたりするしな。今度はピザみたいにして出そう。


 そんなことを考えていると、トルティーヤを片手に持ったアミルダ様とエミリさんがやってきた。


「リーズ、よくやった。まさかあの予算でここまでの食材を揃えるとはな」

「本当にびっくりしました……結局手伝えなくてすみません」

「いえいえ……ところでアミルダ様たちは何故トルティーヤを? 他の料理のほうが美味しいですよ」


 トルティーヤは兵士たちが濃い味付けが合わなかった時の保険だったので、生地自体にもあまり味がなくて無難な出来なのだ。ようは普通のパン。


 みんな他の料理を気に入っているので、トルティーヤは今回はお役御免というか……後日ピザにでもするべきだろう。


 決してトルティーヤが料理として劣っているわけではなく作りの問題だ。


「余っているからな。この宴会は兵士たちの慰労だ。ならば彼らに好きな物を食べさせて、私は人気のないものを食べるべきだろう」

「アミルダ様……」


 この人、結構兵士のことを気遣っているんだよな……。


 以前に俺が激マズポーションを造った時も、アミルダ様が率先して味見したからなぁ。


「素晴らしいお考えだと思います。ですがこれは戦勝祝、この勝ちは兵士だけのものではありません。アミルダ様にもお楽しみ頂きたいのです」

「なるほど、一理あるな」

「なのでまずはお酒を一杯どうぞ」


 俺はテーブルに置いてあるウイスキーの瓶を手に取り、グラスに注いでアミルダ様へと差し出す。


 アミルダ様はそれを受け取って口つける。


「よい酒だ」

「美味しいですね。このお酒、外に売り出しませんか? 儲かりますよ!」


 エミリさんが食い気味に提案してくる。


「実は俺も考えてます。トウモロコシをこの国で栽培すれば特産品にできるのではと」

「ふむ、一考の余地はあるな。我が国は目立った特産品もない、大量に栽培ができるならばの話だが」

「いいですね! いっぱい儲けて荒稼ぎしましょう! あははははははははは!」


 壊れたように高笑いするエミリさん、いつもの落ち着いた様子とはまるで違う。


「……エミリさん?」

「さっきから酒を飲みまくって酔っているのだ……忘れてやってくれ」

「嫌ですねぇ! 私全然酔ってませんよぉ! あ、光ります?」


 …………完全に酔っている。何故光ろうとするのか。


「そういえばセレナはどうした? あいつの紹介をこの場でしようとしたのだが」

「セレナさんならそろそろ……あ、来た」


 噂をすればセレナさんがリアカーを引いてやって来た。


 リアカーには大きな氷の塊が乗っかっている。


「リーズ様、氷を大量に作って来ましたが……このまま配るんですか?」

「いえいえ。これはこうして……っと」


 俺は近くのテーブルから茶碗型の皿を手に取ると、【クラフト】魔法を発動した。


 すると皿に山もりのかき氷が出現する。そこに事前に用意していたイチゴシロップをかけてセレナさんへと渡す。


「兵士の皆! 今日から新しく仲間になるセレナさんだ! 銀雪華という名で言えばわかるだろ!」


 俺は兵士たちに向けて叫んだ。


 すると彼らはセレナさんに視線を向けた後、ひゅーひゅーと口笛を鳴らし始めた。


「あの銀雪華? そんな大物が仲間になったのか! すごいな俺達の国!」

「てっきりバルバロッサさんみたいな化け物を想像してたが、普通に可愛いじゃん!」


 兵士たちの評判も上々だ。やっぱり可愛いは正義である。


「それでセレナさんが自己紹介代わりに、皆にスイーツをふるまってくれるぞ! かき氷という物だ! 欲しい奴は並べ!」

「えっ……? 作ったのはリーズ様では……」

「いいからいいから。俺がカップに氷の山を作るので、シロップかけていってください」

「え、あ、はい……」

 

 言われるがままテーブルの前に立ち、俺が造ったかき氷にシロップをかけていくセレナさん。


 そして兵士たちにひとりずつ手渡していく。


「氷なんて王侯貴族の物をもらえるなんて……ありがとうございます!」

「か、かわいい……! 彼氏いますか!? 俺立候補しちゃおうかなぁ……って(チラッ)」

「よろしくお願いします! これから頑張りましょう!」


 氷はこの世界ではかなり貴重なので、兵士たちもすごく喜んでセレナさんに挨拶する。


 それに対してセレナさんは徐々に顔を俯けていく。


「で、でも私は……その、皆さんと……敵対して……」

「あ、アーガ王国の卑劣な策で騙されてたんですって? そんなの気にしなくていいですよ。なあ?」

「おおともよ! あいつら本当にクズなんで! それに被害なかったですし!」

「アーガ王国め! こんな美少女を利用するなんて許さんぞぉ!」


 セレナさんを励ますように兵士たちは口々に言葉を返す。


 ……彼女は俺達と敵対したのを気にしていて、兵士たちとまともに話せていないのだ。


 だがそれはアーガ王国に騙されて利用されたに過ぎない。


 自分のみならず妹の命まで人質にされてはどうしようもないだろう。


 なので彼女と兵士たちの仲を取り持つために、氷魔法を宴会で使わせてもらうことにした。


 そもそも彼女は気にし過ぎなのだ。敵対していたというなら俺だってそうだ……というか俺のほうがよほどアーガ王国に貢献してしまった。


 奴らが増長した大部分は俺のせいだからな……何としても叩き潰さないと。


 むしろ彼女が脅される原因となったA級ポーションも、元々はリーズが造ったものだからな……あいつは決して悪くないが。


 セレナさんは少し俯いて感極まったように震えた後。


「……あ、ありがとうございます」


 涙を浮かべながら笑っていた。


 ……これでわだかまりも消えて、少しは兵士たちとも話せるようになるだろう。


「リーズよ、よくやった。兵を祝うだけでなくセレナのわだかまりも消すとはな……ところで貴様、セレナとエミリではどちらが好みだ?」

「えっ?」

「おおっとアミルダ様! 実は吾輩、ちょっと相談したいことが!」


 アミルダ様はバルバロッサさんに担ぎ上げられて拉致されていった。なんだったんだ。


 戦勝祝は無事に成功し、ハーベスタ国の士気は大きく上がったのだった。


 そして翌日の朝に評定を行うために集まったのだが。


「あれ? アミルダ様とエミリさんは?」

「二人ともダウンしているのである!」

「あれ? エミリさんはともかくとして、アミルダ様はお酒ほぼ飲んでなかったような」

「アミルダ様は酒に弱いのである! 少量でもきつい酒なら酔うのである!」


 …………アミルダ様って下戸なのか。



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