第23話 ええっ!? 予算一人あたり銅貨一枚で祝勝会を!?


 あのゴミ内政官を処分した翌日。


 俺達はアミルダ様にいつもの部屋に集められていた。


「アーガ王国軍だがすぐに攻め込む動きはないようだ。三月連続での侵攻はないので今の間に兵を慰労したい。戦勝祝いを開く」

「むぅ。確かに兵士たちも戦ってばかりでは参ってしまうであるが……今のハーベスタ国には余裕がないのではありませぬか?」


 俺もバルバロッサさんの意見に同意だ。


 我が軍はこの二ヶ月でアーガ王国軍の二度の侵攻で防ぐことに成功した。


 しかも完全勝利のため人的被害はないが……兵士を動かすにはすごく金がかかる。


 例え無傷で勝利しようが何なら戦わずに敵が撤退としたとしても、大勢を行軍だけでも兵糧を浪費してしまう。


 装備などは俺が用意したのでだいぶ安くすんではいるが、それでも小国である我が国には大きな負担のはずだ。


「確かに金に余裕はない。だが戦勝祝いも開かぬようでは兵士も気落ちしていく。アーガ王国軍が攻めてこない間にやるしかない」


 アミルダ様の仰ることはもっともだ。


 兵士たちはゲームのユニットではなくてひとりの人間だ。


 勝ってもご褒美のひとつもないのが続けば、士気がどんどん低下してしまう。


 士気が低下すれば無惨なことになるのは、アーガ王国軍が見事までに見せてくれたからな。


 ただ我が軍には『アーガ王国軍という侵略者から守る』という大義がある。


 士気が落ちても敵のように兵士がすぐに逃げたりはしないだろうが……それにも限界がある。


「……ちなみに予算は金貨十枚だ」

「叔母様、千人の兵士の慰安にその金額では無理では? ひとり当たり、銅貨一枚の予算に……」


 この世界での金銭価値は銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚となる。


 なので金貨を千人で割ると銅貨一枚だ。日本円に換算すると銅貨一枚は……百円だ。


 百均ショップで好きな物ひとつ買ったら終わりである。駄菓子屋なら五個くらい買えるかも。


「アーガ王国軍から回収した兵糧を使ってもよい」

「叔母様。敵はほとんど物資持ってきてなくて、まともに回収できてないです」

「…………難しいのは承知だ。だがこれ以上は出せない、予算が足りぬのだ」


 アミルダ様は俺達から顔を逸らした。


 あーうん……ただでさえ金がない国が、二度も軍を動かしてかつ今後も戦費が必要となるとそうなるよね……。


「……リーズ、何とかならぬか」


 アミルダ様が少し困った顔でこちらを見てくる。


 普段はキリッとしているので少し可愛い。


 兵士ひとりにつき銅貨一枚で、彼らが満足する量の酒と美味しい食事を用意しろか……普通に考えたら無理ゲーである。


 だが以前に近くの山で素材集めをした時に面白いものを見つけている。


 それを使えばいけるはずだ。


「あー……何とかやってみます」

「そうか、エミリとバルバロッサも手伝ってやってくれ。ひとまず宴会を最優先にせよ。それとセレナ、少しシャグのことで聞きたいことがある」

「……はい。何でしょうか?」


 アミルダ様の問いに対して、セレナさんが少し嫌そうな顔をしている。


 この人、あまり顔に感情を出さないのだが、シャグにかなり酷いことをされたんだろうなぁ……。


「シャグにされたこと、可能な限りこと細かに話して欲しい。奴の性格を知るために……正直、あまり知りたくはないが」

「……わかりました。でもその……」


 セレナさんは俺とバルバロッサさんをチラリと見た。


 ……あ、これはアレだな。男は出て言った方がよいやつか……くそぉシャグめ! こんなかわいいセレナさんに何をしたんだ!?


「男は出て行け」


 俺とバルバロッサさんは評定を強制終了されて、部屋から追い出されてしまった。


 ……け、決してセレナさんがどんなことされたか聞きたかったわけではないからなっ!


「リーズよ。本当にひとり銅貨一枚の予算で、宴会をできるアテがあるのか? 兵士たちも硬いパンひとつでは満足せぬのである! お主が出した肉まんは美味だったが、あれとて兵糧があったから用意できたのであろう」

「そうですね。前と同じは無理なので山菜を調達して料理を作ろうかと。人手はもらった金貨で用意できますし」

「むぅ……しかし山菜など味も微妙であるし、宴会で出されても盛り下がるのである……」

「そこはご安心を」


 チート生産の力の見せどころだ。


 確かに山菜は味気ない物が多いし美味な物は普段から採られている。


 なので量を集めようとすればロクなものが用意できない。だが何とかしてみせよう。


 ちなみに時間をかければ素材がなくても、魔力だけで千人分の宴会料理を用意できる。


 だが軍備を整える分の力を使ってしまうのでそれは悪手だ。


 なので山菜をとって改良してさっさと済ませるに限る。


「バルバロッサさんは獣を狩ってきて欲しいのですが。お肉とか」


 無双のバルバロッサさんなので、熊やイノシシを何頭も狩ってきてくれる。


 そう思っていたのだが彼は首を横に振った。


「すまぬ、吾輩は獣を狩れないのである。……何故か吾輩が森に入ると獣が一斉に逃げ去ってしまい……」

「自然の摂理だと思いますよ」


 完全に獣が自然災害から逃げるやつ……すごく納得してしまうけど。


「じゃあ山菜採りの指揮お願いします」

「心得たのである!」


 そうしてもらった金貨を元手に、近くの農民に協力を仰いで特定の山菜を採らせた。


 ちなみにだが彼らは雇うのではなくて、持ってきた山菜を買い取るという形にしている。


 最初からもらえる金額が決まっていたらサボる、最悪なら採った山菜を自分の物にしてしまうからな。


 そうして三日後、屋敷の庭に同じ種類の山菜が山のように積んであった。


 俺とバルバロッサさん、そしてセレナさんが合流してそれを眺めている。


「……リーズよ、食べられぬ草ばかりである! なんでこんなのを買い取ったのであるかっ!」


 バルバロッサさんが小さな緑の粒々のついた植物を手に取り叫ぶ。


 彼が持っているのはたぶんイネ科の植物だ。俺が事前にとあることを試していて、それができたので集めるようにお願いしたもの。


 普通の食べられる山菜は農民たちも普段から採るので、数を用意することは難しい。


 だが食べられない植物であるならば放置されるので多く群生している!


 しかも価値もないので物凄く安く買うこともできる! まさにお買い得ってやつだっ!


「まあ見ててください」


 俺は山菜の山に向かって、【クラフト】魔法を発動する。


「むぅ! 見た目が大きく変わった上にまっ黄色になったのであるっ!」


 バルバロッサさんが驚きの声をあげる。


 今までとても食べられそうになかった植物たちは、色鮮やかな黄色の粒々の塊を密集させた作物――トウモロコシへと姿を変貌させていた。


 俺の【クラフト】能力は、対象を『成れる可能性のある物』に造りかえる。


 つまり現時点では食べられない草でも、それが品種改良や進化などで俺の知る作物になりえるなら変えられる。


 今回集めさせた植物は、トウモロコシの元となった野生植物にそっくりだった。


 なので試しに【クラフト】してみたら見事に作り変えれたのだ!


「これなら食べられそうなのである! どれ一口……甘いのであるっ! 美味い! ……が、これだけでは宴会としては物足りぬような」

「安心してください。ここから料理とかしますので! それとセレナさんにはこれとは別に手伝って欲しいのですが」

「何なりと申しつけください、リーズ様」


 ……あ、様づけされるのなんか気分いい! これが部下を持つってことか!


 しかも美少女というのがなおいい! いやぁこれだけでも雇って正解だった!


 いかん、話が逸れたな。


 トウモロコシは色々な物に化ける、それを見せてやる!


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週刊総合ランキング、68位に上がっていました。

出来れば30位以内に入りたいので、ブックマークや☆やレビューを頂けるとすごく嬉しいです……!


(30位以内に入ったらキャラデザか表紙の依頼しようかなと考えてます)

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