第28話 侵攻計画
俺達は屋敷に集まって月初めの評定を行っていた。
先月はアーガ王国からの侵攻がなく、ようやく一息つけたというところである。
「アーガ王国に対しずっと守っていてもこれ以上は好転せぬ。ずっと攻撃されてはいずれは限界が来るので反撃を行いたい」
「反撃……アーガ王国に侵攻をかけるということですか?」
「そうだ。今の国土の広さでは千の兵士が限界だが、領地が増えればより多くを徴兵できる」
つまりは反転攻勢ということだ。
今までは敵軍との数の差から迂闊に攻められなかったし、流石に勝っても攻勢までは無理と思っていた。
だがこれまでの二戦は予想に反して圧勝だった。
なら次はアーガ王国内の領土の一部を占領し、わが国のものにすることも可能なはず。
「元々、アーガ王国の領土の何割かは我が国のものだった。それを十年たらずでほぼ奪われたのだ。本来我が国の領民たちが重税と略奪で苦しめられているのは見てられぬ」
「……略奪されてるんですか」
「見事にしている。敗残兵どもがこぞってアーガ王国の村に寄って、食べ物を根こそぎ奪いつくしていると隠密から報告を受けた」
ひ、ひでぇ……流石はアーガ王国だ。悪い方の期待は全く裏切らない……自国内での略奪とか最低過ぎるだろ。
民衆は飢えるし国力は減るしでよいことなしだろ……。
「これまでのように圧勝できれば攻め入ることは可能なはずだ。おそらく敵にも後方部隊がいるだろうが所詮は主力が壊滅した後の予備兵力、勢いのままに噛み砕けばよい」
「おおおお! 吾輩、みなぎって来ましたぞぉ! とうとうあのアーガ王国に一矢報いることが!」
バルバロッサさんが感極まって咆哮して空気が震える。
俺としても少し小躍りしたい気分だ。ようやくアーガ王国に反撃ののろしをあげることができる!
「だが攻めるとなれば我が軍の優位は減る。アーガ王国内で戦うならば敵にも土地勘があるからな。元々は我が領地だったので我々にもあるので一方的に不利にはならないが」
土地勘、それは戦争においてすさまじく重要な情報だ。
現代でこそ世界各地の地図が容易に手に入るが、昔の地球では地図は重要な戦略情報であった。
例えば敵が進軍する時に狭い一本道があるとする。
そこで我が軍が待ち伏せれば容易に挟み撃ちが可能だ。狭い道では一度に戦える数が限られるので大軍も意味をなさない。
他にも伏兵を忍ばせそうな場所とかもあるし、何せ土地勘というのは極めて重要な情報だ。
「なので侵攻してきた敵を撤退させるのではなく、壊滅させなければならない。敵の領土での戦いを極力避けたい。これまでの二度と同じ勝ち方であれば問題ないが、次回は追い返すだけでは微妙と思って欲しい」
「一戦目のようになるべく敵を囲んで逃げ場をなくし、完全に軍を瓦解させて散り散りにさせるのが理想ということですね」
「そうだ。二戦目はほぼ全員が後ろに下がって逃げたので、あれだと軍を再編成される可能性がある」
なかなか難しいな。
敵軍はまた大勢で攻めてくるだろうから、囲んで潰すのは結構大変なのだ。
でもここでうまくやってハーベスタ国の領地を増やせば……!
「リーズ、貴様は兵士たちに鉄の盾を配備して欲しい。盾があれば敵が弓を用意しても脅威でなくなる上、白兵戦でも更に有利になる」
「わかりました」
そもそも何で今まで盾を用意していなかったという話だからな。
いや全身金属鎧のほうが盾よりも優先すべきだったからだけど。これに盾が加われば我が軍は盤石の軍になる。
クロスボウに重装騎士の軍団……装備だけならば無双の軍勢だろう。実際は兵たちが農民兵だからそこまで強くはならないが。
「ではこれで……む?」
急に部屋の中にシャランと鈴の音が響き渡った。
そして気が付くとアミルダ様の前にひとりの女の子が立っていた。
背が低いので十二歳くらいだろうか? 踊り子のような服装で露出度が高い。
少しの間彼女が纏った薄幸な雰囲気と可愛らしい容姿に目を奪われるが……はっ!? アミルダ様が危ない!?
「く、曲者!? バルバロッサさん!」
俺は即座に手元に瓶を作成する。この中には身体に触れるだけで痺れる薬がある!
これかければ……! だが他の皆は特に身構えてすらいない。
「あー、そういえばリーズはまだ知らなかったであるな。この者は我が軍の間者である!」
か、間者? ……アーガ王国に潜らせているスパイか。
たまにアミルダ様が情報源として言っていたが……。
「この子はスイちゃんです。小さいけど凄腕なんですよ」
エミリさんもニコニコと笑っている。
まじかよ、いつも情報を仕入れて優秀な間者と思っていたが……こんな幼い少女だったとは……。
スイちゃんと呼ばれた少女はアミルダ様の前で跪いた。
こんなかわいい子が間者とは……。
「アミルダ様、緊急のご報告があります。ルギラウ国が四国同盟を破棄しアーガ王国と同盟、わが国に侵攻を計画しています」
「…………なに?」
「すでに彼らの間で話し合いは終わっており、一月後に我が国に攻め入ると同時にそれらを宣言する予定です」
スイちゃんの言葉はこの場を凍り付かせた。
え? ルギラウ国が寝返った?
いや待って、それってつまり我が国が前後から挟撃されて侵攻されることに……。
「……スイ、その情報は真か?」
「会談の場に潜り込んで聞いておりました。間違いありません」
「そんなバカなのである! 一方的に同盟を破棄するばかりか、攻めてからそれを宣言するなどもはや国ではないのであるっ!」
バルバロッサさんの言う通りだ。
ただでさえ宣戦布告する前に攻める時点で、ヤバイ国であると周辺国からの信用を一気に失う。
しかもそれが同盟を組んでいる最中の国ともなれば、もはやあり得ないという次元ではない。
そんなことをすれば周辺国はルギラウ国を、国家としてすら認めなくなるだろう。
あの国は言葉の通じぬ蛮族の集団であり、奴ら相手にはどんな手段を講じても許されると。
「……バカな。ルギラウ国がアーガ王国と組む利点などないはずだ」
流石のアミルダ様も困惑しているようで、平静を装っているが動揺を隠せていない。
だが……俺は何となく、奴らがこんなことをした理由に思い当たる節がある。
先日のルギラウ王のアミルダ様への視線、それは……ボルボルたちと似たものを感じた。
妄執と色欲、つまり……アッシュにとって恰好の的だ。
「ルギラウ王はアーガ王国のアッシュとシャグに篭絡されました。あの男の狙いはアミルダ様です。この国を滅ぼしてアミルダ様を嫁にし、自分の好きなように染め上げると」
「……奴はバカか! この状況でルギラウ国がハーベスタ国を飲み込んだとしても、その後に確実にアーガ王国に侵略されるぞ! しかも何故私をそこまで欲しがるのか理解できぬ!」
理屈や損得で考えればあり得ぬ行為。だからこそアミルダ様は理解できないのだろう。
だが俺はそれを心のどこかで納得していた。
ルギラウ王のごとく欲深き潜在的クズを刺激して、理性や倫理を破壊し暴走させる。
それはアッシュたちの超得意分野、アーガ王国を狂わせたのと同様の手口。
ルギラウ王は絶好の標的であったのだ。
そして……アミルダ様はご自身の魅力を欠片も理解していない。だからこそこの事態を全く予想できなかった。
「マズイ。千しかいない我が軍を二つに分けて迎撃など不可能に近い……同時に攻められれば……迎撃は困難を極める! それに仮に一度は撃退できたとしても、波状のように攻められてはどうにもならぬ!」
アミルダ様が珍しくすごく狼狽している。
「ルギラウ国の兵士は三千はいるはずですぞ! 我が軍よりも数は多い!」
この状況を簡潔に言うと……ハーベスタ国が絶体絶命の危機に扮したということだ。
いやこれ無理では? 兵力負けてる上に挟撃って詰みでは?
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