第29話 攻撃は最大の防御


 評定は物凄く白熱していた。


 何せルギラウ国とアーガ王国から挟撃されるという、冗談抜きで我が国存亡の危機である。


 いやアーガ王国の侵攻も十分に脅威だったけども……。


「兵を二つに分けて迎撃をするしか……」

「エミリ様、それは無茶である! 五百ずつの軍では流石にできることが少なすぎて負けてしまうのである! こうなれば吾輩が単騎にてアーガ王国軍を打ち破り……!」

「オジサマ! それも無茶だと思うのですが!?」

「よいアイデアでは!? バルバロッサさんなら!」


 ……バルバロッサさんなら頑張れば出来るのでは!?


 流石に敵兵全部倒しきるのは無理でも、敵軍を追い返すくらいなら……一騎当千だし。


「リーズ、それは無理だ。バルバロッサは確かにうまく運用すれば一騎当千。だがそれはあくまで、敵がバルバロッサから逃げないようにせねばならない。計算式を教えてやる」

「計算式」

「まず敵軍との最初の当たりで敵兵を二百から三百屠る。だがその後は敵もバルバロッサに迂闊に近づかず距離を取るので一分ごとに敵兵二人。一時で百二十人ほどのスコアになる。体力を考えると戦えるのは六時間ほど。なので合計するとだいたい千人だ」

「……結構具体的に考えて一騎当千だったんですね」


 ノリで言ってるものとばかり思ってたが、まさかDPS(ダメージパーセコンド)みたいな理論値を出しているとは……。

 

「当たり前だ、戦力の数値化は基本だろうが。そんな曖昧な戦力計算など指揮官失格だ。ただしそれは敵が逃げない前提だ。バルバロッサは馬のようには動けぬので、敵兵が立ち向かってこなければどうしてもな」


 なんだろう。言ってることはその通りなんだけど全く納得できない。


「くっ……吾輩が馬に乗ることができれば……! 一時間に三百は消し飛ばせるものを……!」


 バルバロッサさんは口惜しそうにしているが色々とおかしい。


 というかすごく違和感があるのだが。


「バルバロッサさん、馬乗れないのですか? てっきり武芸百般に通じる猛者かと……」

「いや吾輩は馬に乗れるが乗れる馬がないのだ」

「???」


 禅問答か何か? 困惑しているとアミルダ様がため息をついた。


「バルバロッサの巨体を乗せて運べる馬がいない」


 あー……クマのような巨体だもんな、バルバロッサさん……。


 昔の戦国武将でも身体が重すぎて馬に乗れず、輿に乗って移動していたデb……猛者がいるらしい。


 そういえばバルバロッサさんが暴れた戦は、敵を挟み込んで逃げ場をなくしていたなぁ。


「仮にバルバロッサがアーガ王国に相対しても、おそらく散開されるなどで対応される。敵に打撃は与えられようが、わが国に敵兵の侵入を許してしまう」


 無敵のバルバロッサさんも万能ではないようだ。


 あれか。兵科的にはあまりに強すぎる歩兵みたいな感じ。


 歩兵に比べて騎馬は上位互換に思えるが、城攻めが苦手などの弱点がある。


 同じようにバルバロッサさんも無双できない場所があるのだ。


「そうなるとやはり兵を割るしか……」

「傭兵を使いましょう! 数を埋めれば……アミルダ様?」


 アミルダ様は俺達の議論に入らずに、目を閉じてしばらく黙り込んでいた。


 そして何かを決意したかのようにカッと瞼を開く。


「……ルギラウ国が宣戦布告する前に、我が軍はルギラウ国に逆に侵攻をかける! 敵はすでに同盟国である我が国の国境付近に兵を集めていて、誰がどう見てもすでに侵攻を仕掛けている! ならばこちらが攻める理由は十分だ!」

「「ええっ!?」」


 アミルダ様が壊れた!? ただでさえ兵が少なくて守りも厳しい状況で、更に防衛より不利になる攻勢を仕掛けるだって!?


「叔母様!? 寝不足ですか!? 寝言は寝て言ってください!」

「違う! このまま敵に挟まれた状態が続けばわが国に未来はない! アーガ王国とルギラウ国が連携すれば、我が軍はろくな休養もとれずに疲れ果てて瓦解する! なれば余力がある間に仕掛けるしかない!」


 ……アミルダ様の話は確かに筋は通っている。


 もしアーガ王国とルギラウ国が連携し交互に軍を動かしてくるとする。

 

 わざわざ交互に動かしてくるならば意図があり、それは俺達の兵を疲れさせるための策でおそらく敵軍はまともに攻めてこない。


 攻めるフリをして兵を国境付近に待機させて、俺達に軍を動かさざるを得ない状況にするのだ。


 そしてここで兵力の差が出る。敵兵は仮に二千を常に国境付近に配備しても、たまに兵を入れ替えて休ませられる。


 対して俺達は……常に全軍を動かさざるを得ない。つまり兵は全く休養をとれずいずれ限界が来る。


「り、理屈は分かりますがルギラウ国に攻めるのは無茶では……」

「……ルギラウ国もあまり強くない。兵士の数はおおよそ三千だがほぼ農民兵だ、騎馬や弓兵はまともにいない。我が軍が全力で攻められれば圧勝を狙えるはずだ」


 アミルダ様は真剣な顔をしている。


 確かに我が軍は金属鎧にクロスボウ、更に金属盾まで用意しようとしている。


 敵はまともな装備のない農民兵が主力ならば、兵の数で劣っていても装備の差で圧勝を狙えるであろう。


 ただしそれにも限度がある。千VS三千ならいけるだろうが、五百VS三千だと……厳しいのではないだろうか。


「……ルギラウ国に攻めるにしても兵数が足りないと思います。アーガ王国への備えも考えると」

「そうだな。その上でリーズ、貴様に無理を命ずる。我が軍の兵士をロクに使わずにアーガ王国を追い返して欲しい。この策はこれまで以上に貴様の能力に期待しまた完全に依存した策だ。無理を前提としている……な」


 アミルダ様は俺を睨んでくる。


 だがその目には僅かに自嘲と懇願の色が混ざっているように思えた。


 確かに無理に等しい命令だ。普通ならできませんと答えるべきである。


 ……だがそうするとハーベスタ国は滅んでしまう。


 必死に頭を回転させて、落ち着いて状況をまとめていく。


 …………アーガ王国だってこれまでの戦いは痛手なはずだ。


 おそらく今までのような万の軍を率いるのは難しいのではないだろうか。


 敵があまり数を連れてこないなら、こちらも少数の兵でも迎撃できる?


 いやそれでも二千は連れてくるだろう。最低でも迎撃に五百は欲しい。


「……アーガ王国の兵は倒さなくても、追い返すだけでよいのですよね?」

「そうだ、撃滅する必要はない。何なら敵が攻めてこれないようにするだけでもよい」


 撃滅する必要はないならば敵の気勢をへし折ればよい。


 アーガ王国軍は二連敗で兵の士気も低いはずだ。


 最初の当たりで圧勝すればまた無様に逃げ去っていくはず……だがそれでも軍が必要だ。


 流石に個人で敵軍を打ち破るのは難しい。ハーベスタの兵士を使ってはダメとなると……。


「……傭兵を雇って数を補います」

「リーズよ、以前に話したのを忘れたであるか! 傭兵は不利ならばすぐに逃げるである! あんなのロクに役に立たぬである! それに払う金も……」

「わかっています。でも逆に言えば勝っている間は逃げません。金は何とかします」

「……我が軍に鉄の盾を用意するのは必須だ。その上で可能か?」

「はい」


 盾ならばすぐに作れる。だが俺のチート能力をもってしても金を用意するには時間が足りない。


 あまり稼げないだろうから傭兵は揃えられても千人くらいだ。


 それに傭兵に上等な装備を渡すのもダメだ。それは高価な事前報酬となってしまい、貰うものを貰った傭兵は出陣前に去ってしまいかねない。


 しかも金稼ぎや鉄の盾造りがあるので、俺にはまともに物を造る時間がない。


 なので傭兵たちを超強化するという方法もとれないのだ。


 魔動車量産とかも不可能だし火薬などの量産も間に合わない。


 そんな中で…………ひとつだけ思いついた方法があった。


「アミルダ様、一人だけお借りしたいです。その人に大暴れしてもらいます」

「……私とバルバロッサは無理だ。ルギラウ国の侵攻に必要不可欠で」

「わかっています。俺がお借りしたいのは……」


 俺はエミリさんのほうに視線を向ける。


 するとエミリさんはポカンと彼女自身を指さした。


「……何だと?」

「なんとっ!?」

「……えっ!? 今の話の流れで私ですかっ!?」


 アミルダ様やバルバロッサさん、そしてエミリさん自身も驚いていた。


 だが彼女ならばルギラウ国に対する侵攻への、必須戦力には見なされていないはずだ。


 エミリさんは現状のろし係の『光る煙突』だ。いると便利ではあるが決して代用がきかないわけではない。


 いや彼女の力も悪くはないんだよ? 例えば十万の軍を指揮するとなれば、各軍の連携において使い勝手の良い合図はすごく便利だ。


 ……でも千の兵士だと正直そこまでのろしいらないよね。


「ま、待ってください!? 私は精々光って合図を出すくらいしかできませんよ!? 光る煙突ですよ!? 攻撃魔法なんて精々敵兵を数人倒せれば上々で……」

「大丈夫です! エミリさん、貴女はもっと活躍できます! 戦場で輝けます! 俺が輝かせてみせます!」


 俺の言葉にエミリさんは少し感激している。


 そう、彼女はもっと輝ける!


「り、リーズさん……ん? 待ってください、輝くって活躍できるって意味ですよね? 更に眩しくなるって意味じゃないですよね?」

「アミルダ様! エミリさんなら借りても大丈夫ですよね!?」

「……構わぬ。のろし係を用意すれば済む」

「ねえリーズさん!? 何か言ってくださいよ!?」


 現代科学においては様々な物が増幅されて利用されている。


 炎、水、風、氷など何でも色々と工夫して使っていた。


 だがその中でも特に現代と中世以前を隔絶せしめるは何かと言えば……それは電気、そして《光》の存在だ。


 光を手に入れたことで人間は大きく飛躍した。なのでエミリさんの光魔法は人類の手にした科学の結晶で強力な武器として使えるはずなのだ。


 ……まあ最初に考えつくであろうレーザー砲とかは無理だけどな! そんなの造る時間も魔力もない!

 

「リーズさん!? 私、泣きますよ!? 光り輝くんじゃなくて、活躍するって意味ですよね!?」

「安心してください。光り輝いて活躍するって意味です」

「あ、それなら安心……いや結局光るってことじゃないですか!?」





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