第65話 一夜城VS一夜城 前編
ロンディ城塞都市を攻略した翌日。
俺達は元モルティ王城の作戦立案室とやらに集められて、軍評定が開始されていた。
この部屋は特に何もないのが特徴だ。大きな机が真ん中に置かれているだけで、窓もないし扉もひとつだけ。
盗聴などの間者対策ということだろう。
「アーガ王国が旧モルティ国の国境付近に集まっているらしい」
「あれだけ破れてまだ侵攻してくるであるか!」
「随分と動きが速いですね……学習能力ないのでしょうか」
アーガ王国のめげなすぎる姿勢に、バルバロッサさんもエミリさんも辟易している。
ここまで速く動く奴と言えば間違いなくバベルだろうなぁ……あいつの行動の速さだけは超天才的だったし。
「現時点で何かされるのは厄介ではある。まだ我らが旧モルティ国の掌握をしていない間に仕掛ける……戦略的には間違ってはいない。奴らが惨敗を繰り返してダメージを負っていることを想定しなければだが」
アミルダ様も少し呆れているようだ。
アーガ王国のズタボロ具合を考えれば、他国に手を出すよりも己を省みるべきと言外に言っている。
「集まっているということはやはり攻めてくると?」
「いやおそらく違う。間諜からの報告によると兵士ではなくて土木職人が多く、戦支度は最低限と聞いている」
「土木職人……城でも建造するつもりでは?」
バベルが今の地位に上り詰めた最大の要因。
それは敵の眼前で一夜にて城を作り上げて敵を降伏させたことだ。
巨大な城が目の前に建てられたことで、技術力や物資力の差を目に見える形で見せつけた。
敵に勝ち目がないと思わせて戦意喪失させたのだ。
その経験があるバベルならばまた狙うのではないだろうか。純粋に城は拠点としても優秀だからな、国境付近に置けるなら誰でも欲しい。
「私もそう予想している。ここで奴らに国境付近に城を建てられると厄介だ。バベルには一夜城を建てた実績もある。故に建築されてしまう前に攻める必要がある……だが」
アミルダ様は俺をまじまじと見つめてくる。
「そもそも奴らは一夜で建てられるのか? アーガ王国の驚異的な力はだいたいが貴様に起因している。なら今の奴らに一夜城は無理なのではと思っているのだが」
「無理ですね。バベルやアッシュに可能とは思えません」
即座に断言する。無理だ、無理に決まっている。
バベルが一夜城を建てた時はリーズが凄まじく尽力したのだ。
更に言うならそれでも一夜で完全に城が完成したわけではない。
あくまで一夜では外堀とか外のガワ部分しか造ってない。中の細々した防衛施設とか城の内部はかなり雑であった。
外側しか見れない敵に対して、目視される部分だけ造り上げた。ようは一夜で完成させたと思わせただけだ。
実際には残り二日ほど内堀とか城の内装とか作業してたぞ。
無論、リーズの力ならば一夜で城を完璧に建設することも可能だ。ただそれには必要素材をほぼ全て用意してもらう必要がある。
バベルは半分にも満たない量しか揃えなかったので、一夜と二日間かかってしまった。
それを全てアミルダ様に話すと、彼女は額に手を当てて呆れた顔をしている。
「つまり一夜城はほぼ貴様が建てたと」
「そうですね。一応は城の壁とか造り上げた後、バベルの兵士たちに組み立てさせてましたが」
イメージ的にはプラモデルの顔とか胴とか造り上げて、最後に合体させるのは任せたという感じだろうか。
魔力を少しでも節約しないと足りなかったので、非効率ながらもやらせていた。
「……なら逆に言えば素材があれば一夜で城が建てられると?」
「可能です。何なら多少不足していても行けます。あの時は毎日の激務で常時魔力枯渇状態でしたので、今のほうが遥かに余裕があります」
「…………私の中でバベルやアッシュの評価は、クズから無能の極みに落ちたな」
「ご安心ください。その評価は極めて正しいですので」
アッシュやバベルはどう言い繕っても無能だ。
何せリーズを追い出したのだからな。俺が奴らならどんなことをしてでも逃がさなかっただろう。
本人の能力が多少あったとしてもこの大失態を覆すなど不可能なのだから。
「ふむ。ならばいっそ奴らを利用してモルティ国を掌握させてもらうか」
アミルダ様は腕を組みながら少し愉快そうに笑みを浮かべた。
「と言いますと?」
「アーガ王国軍の目の前で城を建築して、奴らが失敗すれば民の心はこちらに傾くと思えないか? それに奴らに対しての防衛設備も必要だからな」
「……すごく面白そうですね」
俺も思わず笑ってしまった。
意趣返しとはまさにこのことだろう。バベルたちがどうせ築城に失敗した上で、俺達の建てた城が立派にそびえたつ。
想像するだけですごく愉快だな。近辺の民たちもどちらにつけばよいか一目瞭然だ。
「是非やらせて頂きたいです! 資材なしでも魔力を振り絞って一夜で完璧な城を建ててみせましょう!」
今の俺ならばやる気で魔力も補ってみせる! それくらいの気概を持って叫んだのだが、アミルダ様は首を横に振った。
「建築資材ならある。お前は資材を使って城を建てればよい」
「え? どこにそんな物が……」
城を建てるとなれば綿密な準備が必要だ。
本来ならば数年以上かかる代物なのだから、事前準備もなしに資材を集めるなど不可能。
木は周囲の森で何とかなるとしても……岩だけでも凄まじい量が必要だ。
城の壁に石垣に……いくらあっても足りない上、重いので持ち運んで建築予定地に集めるのすらかなりの手間とコストがかかる。
「資材ならあるだろう。先日に崩壊したロンディの壁が」
「……あ」
……そういえばあの城壁も立派に素材になるなぁ。俺なら小さな瓦礫を組み合わせて、巨大な壁にすることだって容易だし。
「何なら壊れてない壁も取っ払っても構わんぞ」
アミルダ様はそんな大胆過ぎることを提案してくる。
「い、いいんですか? 城塞都市がただの都市になりますが……」
「その方が民たちも理解するだろう。もうモルティ国は壁と共に完全崩壊したのだと。それにな、実はこの都市は規模の割に手狭に思える。城壁を一度取っ払って拡張したいのも本音だ。そうだろう、エミリ?」
「そ、そうですね。作った当時はこの壁で囲った土地で足りたのでしょうけど、今は住人の数も増えて不足です。でも城壁のせいで広げられないので困っていると、住民たちから意見が出ていたようです」
なるほど。城壁都市は堅牢な壁で囲ってしまうので拡張性が皆無に近いのか。
仮に城塞都市を大きくしようとしたら、壁を崩して建て直す必要があるのか。開閉式ドームみたいに動かすなんて不可能だろうしな。
「そんなわけでこの城壁を使って一夜城を建てよ。城壁都市の壁はその後にゆっくりと魔力で造ればよい。それまでは兵を駐屯させて民を守る」
「承知いたしました! 必ずや立派な城を作り上げてみせましょう!」
資材をしっかりと揃えてくれるアミルダ様の元で、ゴミクズ上司だったバベルに身のほどを教えてやれる。
こんなに心躍ることはない!
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