第66話 一夜城VS一夜城 後編
俺はアミルダ様の命により、アーガ王国との国境付近に築城することになった。
せっかくなので姫路城みたいな立派な城にしたい……が一夜で建てなければならないので諦めた。
普通の和城で我慢するとしよう。
そんなわけで城を建築するための素材として、ロンディの城壁を【クラフト】魔法で小さな石にして鞄型アイテムボックスに詰めていくのだが。
「お、オラたちの壁が……」
「うう……」
「仕方ないよ、俺達は負けたんだ……」
集まった民衆の悲しみの声が聞こえてくる……き、気まずい。
また後で作り直すから勘弁して欲しいと思いながら、全ての壁を取っ払って行った。
そうして俺はエミリさんとバルバロッサさんを呼んで、築城予定地であるアーガ王国との国境付近に魔動車で向かっている。
「リーズさん。アーガ王国との国境は結構長いですけど、どの辺に築城する予定なんですか?」
「あ、この辺です」
俺は片手でハンドルを握りながら、ポケットに手を突っ込んで築城予定地に〇をつけた地図をエミリさんに渡した。
│ボラスス神聖帝国
クアレール │────│───
│ビーガン│
│─│ │
───────│ │─────│ アーガ
周辺諸国ズ │ │
───────│ハーベスタ 〇│
商業国家パプマ│ │
======= ──────│===
海
この城は今後のアーガ王国への侵攻の拠点にしたい。
なのでアーガ王国と国境を面している場所の中央部分に建築する。
ちなみにだが我が国はアーガ王国の領土の一部を奪うことに成功していた。
以前にバベルが民の盾をしたことにより、周辺の民衆が完全にハーベスタ国の側についたのだ。
あんな非道なことをすれば民たちが従わなくなるのも当然だ。
仮にあの時に俺達に勝っていたならば、民たちはそれでもアーガ王国に従う以外の選択肢はなかっただろうが。
ハーベスタ国の国境からあの周辺の村は隣接しなくなるので、無理やり言うことを聞かせる予定だったのだろう。
だがあいつらは完敗したからな!
エミリさんはしばらく地図を見て、うんうんと頷いた後。
「ちょうど国境線のど真ん中に建てるんですね」
「そこに建てれば国境全てに睨みをきかせられますからね」
「我が国も大きくなったである! これもお主の力の賜物である!」
感激の叫びを放つバルバロッサさん。
本当にハーベスタの国土広がったな……最初の八倍くらいになってるぞ。
そうして雑談している間にアーガ王国との国境付近の平野、先日バベルとの戦場となった場所に到着した。
野戦築城をした場所に今後は本物の城を建てるとは因果だなぁ。
魔動車から降りてマジックボックスにしまうとバルバロッサさんが。
「あっちの方にアーガ王国軍が集まっているのである!」
バルバロッサさんが指さした先はひたすらに平原が広がっている。
「え? どこに……?」
「吾輩の指さした方向である!」
……やはり平原しか見えない。
エミリさんに視線を向けると彼女も首を横に振った。
以前に作った双眼鏡を使って眺めてみると…………国境を挟んで向こう側、かーなり遠いがアーガ王国軍が集結していた。
……バルバロッサさん、どうやら視力も怪物の類らしい。
「うわ本当にいる……なんか工事してるっぽいですね」
人夫が岩を運んだり木を切っていたりと、明らかに土木工事を行っている。
兵士もいるが明らかに護衛の類だな。こちらに攻めてくるような気配はない。
「うむ! 敵兵の表情などを見ても気を立ててないので、明らかに侵攻する気がないのである!」
「つまり向こうもお城を建ててると……叔母様の予想が当たっていたんですね。でもオジサマ、よく兵の表情で攻めてくるか判断つきますね」
「いやエミリ様、誰でも分かりますぞ。奴らはあれだけ惨敗したので、もしまた攻めてくるなら死んだような顔してるはずである!」
ごもっともすぎる。俺だって一兵卒ならそんな状況で攻めるの嫌すぎる。
今でアーガ王国って俺達に何連敗してるっけ……四連敗くらいか。
プロ野球でも徐々にお通夜ムードになってくる頃だな! ついでに言うなら四試合連続完封負けでもあるぞ!
「では奴らの黒星を更にもうひとつ増やしましょうか。早速ですが城を造り始めますね。バルバロッサさん、近くの樹を集めてきて欲しいのですが」
「任せるのである! あ、ちなみに樹はへし折ったり引き抜いた物でもよいであるか?」
「……どうぞご自由に」
「うむ! ではいざゆかん!」
バルバロッサさんは意気揚々と近くの森に入っていき、天変地異から逃れるように鳥たちが一斉に空に飛び立つ。
……用意した斧が完全にムダになったな。
「ところであの……私は何で呼ばれたんですか?」
「夜間作業になるので光ってください」
「……そんな気がしてました」
エミリさんは松明よりよっぽど明るいからな!
そんなこんなで夜になるのを待ってから、【クラフト】魔法を使って築城を開始した。
「リーズさん、どんなお城を建てるんですか?」
「少し変わった城にしようと思います。ジャンルとしては平山城でしょうか」
「平山? 城?」
「丘などの上に建てるお城です。それと既存のデザインとはだいぶ変わった物になります」
今回建築するのは和風の城だが、実はそれにも三つほど種類がある。
その三つとは山城、平山城、平城だ。
山城は険しい山に建てる城で、山の崖や高さなどの自然を利用した要塞と化している。
周囲が際立った崖であれば、敵は大軍で一気に攻め込むことすら困難になる。正門から攻めることを強制されかねない。
平城は平地に建てるので防衛力は一番低い。その代わりに経済的な中心地としては最も都合がよい城。
対して平山城は山城と平城の中間みたいな位置取りになり、防衛力は山城>平山城>平城だ。
そして俺が今から建てるのは平山城に決めている。
「この平地に建てるということは、防衛だけでなくて将来的には周辺に人を住ませる予定であるか?」
「将来的に人を住ませるのは正解です。ただ今から土を盛って丘を造ります。その上に城を建てます」
バルバロッサさんの言葉に首を横に振る。
平山城は防衛においてはデメリットが大きいが、他の点で優れたメリットがあるのだ。
例えば山城は切り立った崖が天然の要塞となるが、逆に自分達が城から攻める時も出兵がしづらいのだ。
なにせ山に建っているのだから交通の便が悪い。
また防衛拠点としては優秀だが、土地を用意しづらく政治に適した城にするのは難しい。
平城は平地に建てるので経済の要所にも築城できるが防御力に難がある。
対して平山城は双方のデメリットに対してある程度の解決策を出していた。
丘に建てるために高さを利用した防衛施設を用意しやすく、城下町を築くことで経済要所にすることも可能。
ただし山城の方が防衛力は高いし、平城なら街のど真ん中にも建てられてより政治には使いやすい。あくまで双方の折衷案であり、いいところ取りというわけではない。
有名な安土城や姫路城は平山城であり、江戸城は……平城か平山城かで人によって意見が分かれるそうだ。
「早速作り始めますね」
マジックボックスの鞄を近くの地面に置いて、【クラフト】魔法を発動。
まず城本体である天守閣を建てて、その周囲に城壁、そして地面に穴を掘って堀を作りあげる。
アッと言う間に城の形が作られていき、壁が地面から生えるように出現し、巨人が手で抉ったかのように堀ができた。
更に屋根や壁が白くなっていき、堀に水を貯めようとしたが用意してないのに気付いて諦めたり。
そうして夜通しの作業が行われ、見事に一夜にて城が完成した。
ちなみに三階建てである。姫路城みたいな大天守閣六階は時間がね……。
少し離れて遠くから確認のために城を眺めようとすると、朝日と共に純白の城郭が照らされて幻想的な姿を醸し出していた。
「完璧ですね!」
「……まさか本当に一夜で城を建てるとは」
「見たことないデザインですけど綺麗ですね!」
「個人的には夕日もすごく綺麗ですよ」
興奮するエミリさんに激しく同意する。
白城は日本の美という感じで美しいのだ。屋根まで真っ白に染めた城って、海外にあるのだろうか? 俺は知らない。
そんなことを考えていると、バルバロッサさんがアーガ王国軍の方を向いて叫んだ。
「む。あちら側も立っているのである!」
俺もそちらに視線を向けると、確かに城……ではないけどなんかよく分からない長方形の木造建造物が建っていた。
「……なんですかあれ? 巨大な墓石? そういう軍事建築物があるんですか?」
「ないのである! というかグラついてないであるか?」
「あ、言われてみればなんか揺れているような」
「……あえて揺れることで丈夫にする建築物を聞いたことがあります」
双眼鏡で謎建物を確認してみると確かに少し左右に揺れている。
日本には五重の塔という建物がある。その塔は地震などが起きた時、揺れることで衝撃を逃して倒壊を防ぐという高等技術だ。
……でも今は特に地震なんて起きてないんだよな。
「じゃああれもそんな凄い建物なんですか?」
「いやとてもそうには……」
俺が答えようとした瞬間だった。
少し強い突風が吹き荒れてエミリさんのスカートがすこし浮く。
「きゃっ!? なんですか今の風……は……」
エミリさんも俺も、そしてバルバロッサさんですら目の前に光景に言葉を奪われた。彼女の下着に目を奪われたのではない。
アーガ王国の謎の建築物が……崩壊していくのだ。長方形の謎建築物は一瞬の間にその姿を消してしまった。
双眼鏡で建物の周囲を確認すると、アーガ王国の兵士たちが瓦礫に巻き込まれていたりで地獄絵図となっている。
「…………何だったんですか今の」
「きっと夢だったのである。一夜の夢だったのである」
ある意味すげぇよバベル……よく一瞬だけ聳え立つ建物を造れたものだ。
城を守る兵を手配した後、俺達はロンディへの帰路につくのだった。
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