第149話 譲れぬもの


「お前……! よくも僕の前にのうのうと姿を現せたな!」


 リーズは俺を見て顔を歪ませる。


 本当にどうしようもなく嫌われてしまっている。だがこれではとても話し合いなどできそうもない。


「待て、お前は誤解をしている」

「誤解? そんなわけあるか! お前が僕の身体を奪ってハーベスタ国にいて、アーガをズタボロにしてるだろうが!」

「確かに俺がお前の身体で動いているのは否定しない。だがそれ以外はまるで違う!」


 俺はリーズの言葉を力強く否定する。


 彼の言っていることは概要としては正しいだろう。だが詳細があまりに違いすぎるのだ。俺はリーズの身体を奪ってなどいない。


 そこを勘違いされたままでは、俺の全ての行いは否定的にしか映らない。


「何が違う! お前のせいで僕は死んで! アーガ王国は酷いことになって!」

「俺がここにいるのと、お前が死んだのはまったく関係が……!」

「そんな者の言葉に耳を貸してはいけません!」


 俺の叫びをかき消すようにボラスス教皇がその姿を現す。


 やっぱりこいつだ。俺がさっきリーズに真実を伝えようとした時もこいつが口を挟んで邪魔してきた!


「リーズよ! その悪魔こそが貴方から全てを奪い! アーガ兵を殺したばかりか、民間人まで盾にして! 更に交渉と嘯いてアッシュ殿たちを暗殺しようとした卑劣漢!」

「それ全部アーガ王国のことだろうがぁ!」

 

 俺は思わず素で突っ込んでしまう。その悪行は全てアーガ王国が行って来たことだ!


 だがリーズは俺に対して憎悪の目を向けてくる。


「このクズめ! お前みたいな奴の言葉を誰が聞くものかっ! 僕の身体を奪っておいて!」

「だから奪ってなど……!」

「悪魔の言葉に耳を貸す必要はありません! リーズよ、速やかにその男を殺しなさい!」


 ボラスス教皇がなおも俺の言葉をかき消してくる……!

 

 ダメだこいつがいたらまともに話ができない! 何とかしてこの場から引きはがさないと……。そう思った瞬間、竜巻がボラスス教皇を襲っていた。


「ひ、ひえええええぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

「やかましいのである! リーズの魂の叫びを邪魔するなである!」

「バルバロッサさん、ありがとうございます!」


 バルバロッサさんの巻き起こした竜巻が、ボラスス教皇を遥か彼方へと吹き飛ばした!


 少し離れた場所でアーガ兵をじゅうり……戦っているバルバロッサさんが、俺に対してガッツポーズをしてくる。


 俺は改めてリーズを睨んで息を整えると。


「リーズ、聞いて欲しい」

「黙れ! お前の言葉など聞く必要はないっ! 僕はお前に殺されたんだっ!」

「……殺してなんていない! 俺はお前が死んだことで、身体の所有権を譲られたに過ぎない!」


 俺が力強く宣言するとリーズは目を見開いた後、鬼のような形相でこちらを睨んでくる。


 負けるものか! ここで引いたら来た意味がない!


「嘘を言うな! 僕は聞いたんだ! ボラスス教皇から全てを! 事実としてお前は僕の身体を使って、敵対国であるハーベスタ国に力を使い! 嫁までもらって幸せに生きてる!」

「それは騙しの常套手段だ! 真実の中に嘘を混ぜ込むことで、全てを信じさせようとするやつだよ! 思い出してくれ! 俺がお前の身体を奪ったなら、その時の記憶があるはずだ!」


 俺がそう叫んだ瞬間、リーズはピタっと停止した。


 顔も無表情になって声も出さずにただ茫然と立ち尽くす。


「僕は覚えていない? おかしい? いや違う……ボラスス教こそ絶対……偉大なるボラスス神のために……だから些事はどうでも……! いや僕は……ああぁぁぁあぁぁぁ!」


 リーズは自分の顔や髪の毛を強くかきむしり始めた。


 更に気味の悪い悲鳴をあげて、どう考えてもまともな精神状態ではない! やっぱり……ボラススに洗脳されていたんだ!


 リーズは魔力を持っているから洗脳魔法はきかない。だが魔力を持ちいらずに洗脳教育を施す分には通用するのだから! なら俺のやることはひとつだ!


 俺は手元にS級ポーションの入ったガラス瓶を出現させて、リーズに肉薄するために走る。


「させん!」


 いきなりリーズの影から生えるように、黒装束の男が出現した!? 


 こいつきっと陽炎とかスイちゃんみたいな魔法使いだ! リーズほどとなると特別な護衛くらい用意してるかっ!


 だが……邪魔だっ! 俺はS級ポーションの瓶を放り投げると、【クラフト】魔法でを取り出す。


 すでに矢も装填済みだ! 俺は別に戦えないわけじゃない! 戦わないように命じられていただけで戦場には常に出てたんだ、舐めるな! 


 両手でクロスボウを構えて、引き金を引く。発射された矢は黒装束の男の腹部を貫いた。


「がっ……ば、かな……」


 黒装束の男は倒れる。俺だって魔法使いだ、決して戦えないわけじゃないんだ!


 そもそも自由に武器を出現させられる魔法なんだから、普通に考えてそこまで弱くないだろ! 今まで戦ってこなかっただけで!


 改めてS級ポーションの入った瓶を作り出すと、リーズに肉薄しようとする。


「く、くるな、来るなぁ!?」


 するとリーズが逃げ出した!? くそっここで逃げられるとすごく面倒なことに……俺は一瞬迷ったがクロスボウでリーズの足を打ちぬいた!


「ぎ、ぎやあああぁぁぁぁあぁぁ!? あ、足、僕の足がああぁぁぁぁあぁぁぁ!?」


 もだえ苦しんで倒れるリーズ。


 悪いが手加減する余裕がなかったんだ許せ! 大丈夫だ、S級ポーションで治る!


「目を覚ませ! お前はそんな……アーガに忠誠を尽くしていた奴じゃないだろっ!」


 S級ポーションの瓶の飲み口を、リーズの口に突っ込んだ!


「!?!?!?!?!?」


 目を白黒させながら喉を鳴らすリーズ。


 飲んだな? S級ポーションを! 身体の病気などはもちろん、滋養強壮睡眠改善、治癒機能の強化による全体的な改善。更には……精神の異常すら治す伝説の秘薬を!


 今さらながらヤバイなS級ポーション! アミルダが常飲してるのちょっとよくないかも!


 S級ポーションの瓶が空になったのを確認して投げ捨てる。


 リーズはすでに動きを止めていて、俺の方を見ていた。もう睨んでいない。


「げほっ……げほっ……うう……僕は……」


 その目にすでに怒りは狂気の類はなく、ただ困惑しているリーズがそこにいた。


 足のケガも完全に治癒されていてもはや痛みもないようだ。

 

 彼は周囲を見回した後に俺に対して頭を下げて来た。



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譲れぬもの(身体)。

冗談はともかくとして、S級ポーションにクロスボウに魔動車と最初期で活躍した道具ばかりですね。


新リーズがクロスボウで旧リーズを打ちぬいたのは是非もなし。

もし逃げられたら本当に困るからね……また無限物資相手にするのはちょっと……


それと現在隔日投稿ですが、三日に一度になるかもしれません。

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