少しばかりの内政編

第123話 復活の詔を受けて


「ぼ、ボルボルが復活!? そんなバカな!?」


 アミルダが白竜城の玉座の間に緊急招集をかけて、俺達はすぐに集まった。


 そこで彼女から伝えられた衝撃の事実に、俺は思わず驚きの声をあげてしまう。


「それだけではない。ボルボル神聖、じゃなかったボラスス神聖帝国の教皇。奴がアーガ王国に常に入って政治や軍事に協力している」

「叔母様、なんかボルボルとボラススって似てますよね」

「紛らしい名だ、国名に似た名前をつけた愚か者の顔が見たい」

「シャグだよ」

「そうだったな」


 アミルダとついくだらないやり取りをしてしまうが、わりと一大事ではないか!


 なんでボラスス神聖帝国とアーガがそんなに仲良くなれるんだよ!? 


 いくら同盟組んだとは言っても、あいつらアーガと対立して国境付近で争ってたのに!


 昨日の敵は今日の友とは言うが、それでもそこまで密接にはならないだろ普通!


「ボルボルについてだ。ボラスス神聖帝国が友誼の証として、秘伝の魔術でボルボルを蘇らせたのだ。ボラススには死者蘇生の秘術があるとは噂されていたが……まさか本当にあるとはな」

「ボルボルが蘇ったのは嘘という線は?」


 ボルボルは腐っているが常勝将軍という偽りの名を持っている。


 奴が蘇ったとなればアーガ王国の兵は意気軒高……になるか? むしろ奴の指揮下に入ったことのある奴なら意気消沈しそうだな。


 とはいえ死者の蘇りなどそうそう信じられない。確かに死者蘇生の魔法は存在するとは聞いていたが、もはや失われたロストテクノロジーかと。


「私の間者が確認した。あの無能具合は本人でなければ出せないと」

「いきなり何かましたんですかあいつ」

「輸送や戦に使う馬を兵糧にあてがうらしい」

「それはボルボルだな間違いない」


 ボルボルめ、相変わらず足を引っ張ることにおいては天才だな……。


 馬はそれこそ現代地球では戦車かつ輸送機みたいなもの。


 つまりは戦でも経済でも必須のすさまじく貴重で重要な物、それを兵糧にしてしまうとは凄い。


 常人ではそもそも考えはしないし、よしんば思いついても実行に移さない。


 仮にその戦いで成功したとしても、次以降で馬使えなくなるのに……。


「それにボラスス神聖帝国の支援だが、恐ろしい報告が入っている。すでに我が国との国境付近に大量の兵糧を、万を超える軍勢を養えるほど揃え終えたとな。予兆もなくだ」

「なっ!? そんなバカな!? そんな大量の食料、輸送時に物凄く大掛かりな動きになる! 予兆がないはずが!」


 万の軍勢を養える兵糧なんて、いったいどれほどの馬車や輸送兵をうごかす必要があると思ってるんだ!


 そんなの予兆なく揃えるなんて、俺のクラフト魔法みたいなものがなければ不可能だぞ!?


「というかそれ、兵糧が揃ったならすぐに大軍が攻めてくるとか……!」

「いやそれは無理だな、アーガは兵士を集める動きを見せていない。兵糧は腐らないパンなどだから、ボラススが先に移譲しただけだと思われる」


 アミルダは少し訝し気な顔で呟く。


 彼女としてもアーガ王国の動きが不気味なのだろう。


 ここまで電撃的に兵糧を揃えられるなら、兵も集めておけば我が国に一気に攻め込めただろうに。


「とにかくこの状況は厄介だ。兵糧が足りるのならばアーガは四万や五万の大軍を率いてくる。ボルボルが蘇ったことの弱体化が幸いか……」


 流石のアミルダも少し不安そうだ。


 俺達ハーベスタ国もだいぶ大きくなったが、それでも出せて一万の軍。


 それもクアレールの援軍なども考慮してだ。


 ハーベスタの揃えられる兵数が少ないのもあるが、それ以上にアーガが異常なのだ。 


 アーガの土地は元々は豊かな穀倉地帯だったので、国土の広さに対しての人口がかなり多かった。


 対してハーベスタが増やした土地は……まあ控え目に言ってあまり収穫高の多い土地ではない。


 食料があまり取れない場所では人が増えないので、ハーベスタは国土の割に人口は多くない。不毛地帯とまでは言わないが……。


 昔の日本では土地の広さではなくて、~万石の土地と米の取れる量で大名の力を表現していた。


 それはいくら広い土地でも食料が取れないのでは、あまり価値がないからというのもある。


「ボルボル一人でどれくらいの影響が出るんだ?」

「敵軍の戦力が最低でも一割以上は下がるな」


 五万の大軍だったらボルボル一人で五千人分以上か……あいつ逆バルバロッサさんみたいなことやってんな。


 何でボラススもよりによってボルボルを蘇らせたのか。アーガの足引っ張ろうとしてるようにしか見えないぞ。


 それはそれとして他にも気になっていることがある。


「ところでボラススは援軍を出さないのか? それだけの兵糧を支援したのに」

「そのようだ、そこも含めてボラススの動きが不気味過ぎる。奴らめ、何が狙いだ……?」


 アミルダの懸念はもっともだ。


 ボラススが何を考えているのか分からない。以前のクアレールの外交パーティーでも教徒と会ったが、よく分からなかったからなぁ……宗教は厄介だ。


 あいつら損得とかじゃなくて、教えに従って常人とは違う思考で動くから……歴史的に見ても訳の分からない動機で、宗教の事件とかいくつも起きてるからな。


「とはいえ怯えていても仕方がない。アーガはまだ兵を集める動きはないようなので、その間に我々も力を蓄える方針に変わりはない」

「そうなると少しでも軍備を強化せねばならないでありますな! 吾輩も兵士をもっと鍛え上げるのである!」


 アミルダの方針に対してバルバロッサさんが豪語する。


 そうだな、結局やることに変わりはないのだ。ならば出来ることを粛々とこなすに限る。


 俺も自分のできる最大限のことをして、何としてもハーベスタ国を勝たせなければならない。


 もし負けたらアミルダやエミリさん、セレナさんたちもアーガの毒牙にかけられてしまう。


 それに大勢のハーベスタの民が苦しんで死ぬのだ、そんなことをさせるわけにはいかない。

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