第124話 エミリさん叱られる


 エミリさんは白竜城の玉座の間に呼びつけられて、アミルダから叱られていた。


 それを俺とバルバロッサさんは何故か見物させられている。


「エミリ、私はお前に色々と不自由な思いをさせてきた。それに何だかんだでやることはやってきたので、あまりこういった風に叱るのはよくないと思っている」

「……はい」

「だが最近は目に余る。いくら何でも砂糖に毒され過ぎだ」

「…………はい」

「民からもそこまで働いてないのに高級な砂糖を貪っている、と言われる始末だ。私としてはお前が働いてないとは言わないが、やはり世間体というものだがな」

「すみません……」


 平謝りするエミリさん、あまり怒りたくないといった態のアミルダ。


「吾輩としてはエミリ様が幸せならよいのであるが……ハーベスタ国が豊かになった証拠なのである!」

「分かります。俺もつい餌付けを」


 エミリさん何だかんだで可愛いから……お菓子食べてる姿がすごく幸せそうでやりがいがあるというか。


「周囲の我らが完全に孫を扱うムーブなのもよくなかったな。砂糖が好きなのはよいし、ほどほどに食べるのはよい。白竜城に盗みに入るのも警備の強化につながるのでよいが、程度は弁えろということだ」

「気を付けます……」


 しゅんと落ち込むエミリさんに対して、アミルダは頭を優しくなでた。


「分かればよい。誰だって失敗はするものだ、お前は何だかんだで役に立つし今後も励めばよい」

「はい!」


 アミルダは俺達の方にも顔を向けてくる。


「お前たちも必要以上にエミリに餌付けせぬようにな。特にリーズ、お前はエミリに甘すぎる……少しくらいは私にも」

「ん?」

「何でもない! とりあえず今後は全員気を付けるように! それで今回の議題だがせっかくエミリが砂糖令嬢と言われているので! ここはその名を活かそうと思う!」


 顔を赤くしてすごく早口で叫び始めるアミルダ。


 なんか自分にも甘くしてくれみたいなこと言ってたような……いや気のせいか。


 アミルダはむしろ甘えて欲しいタイプだろ、たぶん。


「名を活かすとは?」

「エミリご用達の砂糖菓子商店を造って、その話題性でより多くの客を期待したい。汚名も悪名も有名であることには違いないのだ。砂糖令嬢がこよなくおススメする逸品となれば、興味を持つ者も出るだろう」

「た、確かに……」


 俺も毎日バカみたいに食べてるグルメ野郎の、特に美味しかった食べ物なら少し興味は出る。


 エミリさんの悪名を逆手に取るということか! これで商品が売れれば彼女の名声も上がるだろう、砂糖令嬢なのは変わらないが。


「とはいえ売るのだから、自分が美味しければよいという物でもない。当然ながら自分で独占もダメだ……エミリ、やれるな?」


 アミルダの質問に対してエミリさんは力強く頷いた。


「……は、はい! やります! 汚名挽回してみます! ……あれ? 汚名返上でしたっけ?」

「エミリさん、汚名返上です。迷ったら名誉返上か名誉挽回かで考えて、違う方を汚名につければよいです」

「それなら混乱しませんね!」


 名誉返上してどうするということになるから名誉挽回。そうなれば汚名返上と考えればよい。


 なおアーガ王国は前者で正しい物とする。

 

「エミリ、お前が散々砂糖を食べて来たのを民らは無駄と考えている。それをひっくり返してみせろ。だが売るのは食べるほど甘くはないぞ」

「はい!」


 こうしてアミルダの命によって、エミリ商会が開かれることになった。


 以前にエミリさんが砂糖を買い占めようとした時に、エミリ商会をやるとか言ってたけど……まさか本当にそうなるとは。


 まあとにかくだ。彼女を手伝ってあげることにしよう。


「あ、エミリさん。お菓子ならいくつか案が」

「いえ私ひとりで考えます! 私の名で売るお菓子ですし! あ、でも味見役はお願いできますか?」


 エミリさんが燃えている。怒られたの結構気にしてそうだなぁ。


 まあそれなら今回は裏方役に徹するか。


「わかりました。バルバロッサさんは……」

「やめておくのである。吾輩、甘い物は好かぬのである。それにエミリ様の造った物なら何でも美味いと言いそうである……真剣なことに水を差しかねないのである……」


 バルバロッサさんが珍しく寂しそうである。


 孫と遊びたいけど邪魔になりそうでできないおじいちゃん……。


「そんなわけでお菓子を作ってきます! 完成したら持ってきますね!」


 エミリさんはそう言い残して走り出そうとするが……正直な話、美味しくて新しいお菓子を作るのは難しいと思う。


 彼女は菓子の専門家ではない。いや専門家だったとしても、新しく美味な菓子を作るのは簡単ではない。


 ……ちょっとだけ助言しようかな。


「エミリさんだからこそ造れる物を、造ればよいと思いますよ。制約にこだわらずに」

「はい、頑張ります!」


 今度こそ彼女は走り去っていった。







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「できました! ケーキに卵をいれてまろやかに!」


 あれから三日後。


 エミリさんは白竜城の外堀補強中の俺に対して、試作品のケーキを籠にいれて持ってきてくれた。


 ちょうど休憩にしたかったので、近くに設置した休憩用のベンチに座って籠を開く。


 中からあまったるい匂いの切られたケーキ。それを手づかみで食べる。


「……めちゃくちゃ甘いですね」


 暴力的な甘さだ。もう飴とかそんな砂糖の塊を食べてるみたいな。


 ……ケーキの意味がないなこれ。


「甘いほど美味しいですから!」

「うーん……ダメですね。これでは色々な意味で売り物になりません」

「そんな!?」


 明らかに驚いた顔でショックを受けているエミリさん。


 本人としてはすごく必死に頑張ったのだろうが、ここは心を鬼にして全部言うべきだろう。


「まずコストです、これ作るのに砂糖ぶっかけたでしょ。どれくらいの値段で売れば儲かるんですか? 次に砂糖に慣れたエミリさんは甘いほどよいのでしょうが、普通の人はそこまで甘い物に慣れていません。甘すぎるのはキツイ」

「そ、そんなぁ……」


 打ちひしがれるエミリさん。


 だが俺はとしては物凄く褒めたいことがある。彼女がこのケーキを自分で食べずに、俺に持って来たことだ。


 いや普通の人なら当たり前なんだけど、彼女からすればすごく偉いというか……砂糖中毒者が砂糖を前にして我慢してるのだから。


「ま、まあもう少し甘さを減らせば美味しくはなると思います。ただ……それだと今度は普通のケーキとあまり変わりませんね」

「む、難しいです……試食してもらってありがとうございます……」


 トボトボと足取り重く去っていくエミリさん。


 ……やっぱり厳しくない? エミリさんはお菓子狂いだけど、常日頃から自分で作っていたわけではない。


「よし、やはりここは俺が手を差し伸べて」

「ダメだ」

「!? アミルダ!?」


 い、いつの間にか俺の後ろをアミルダが取っているだと!?


 彼女は腕を組みながらエミリさんを見つめている。


「エミリが作るまでいかなくても、案自体はあいつが出す必要がある。そうでなければエミリ自慢の逸品ではない」

「そ、そうかなぁ……」

「そうだ、それに私はエミリを信じている。あいつはやればできる」


 信じる心は美しいのだがやっぱりアミルダは厳しい。彼女はS気があると思う。






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「思いつかないよぉ! えーん!」


 思わず調理台に突っ伏してしまう。


 試作品一号から十日間、ずっと白竜城の調理室に籠って料理をしていた。


 あれから何度もリーズさんやセレナにお菓子を持って行ったが、全部ダメと言われてしまった。


 まず甘すぎる。なら砂糖を抜いたら甘さが足りない。足したらまた甘すぎる。


「なんで甘い方が美味しいのに……美味しいのに……」


 すぐ隣に置かれている砂糖の山を見る。


 普通に舐めるだけでも甘くて美味しいのに……お菓子は、いや食べ物は甘いほどよいと思うのに。


「またつくったけど……どうしようこれ」


 べっこう飴をのせたケーキを見ながら呟く。


 リーズさんもセレナも笑って味見してくれているが、甘さに飽き飽きし始めているのを隠してるのはわかる……持っていきづらい。


 かといって私が食べても客観的な評価は下せないし……やっぱり無理なのかなぁ。


「うう……味見役が欲しいです……」

「なら自分達が頂きますよ」

「え?」


 後ろから声をかけられて振り向くと、ベルべさんや白竜城警備隊の人たちがいた。


 な、なんでこの人たちが……迷惑かけてた自覚はあるんだけど。


「エミリ様が調理室に引き籠ってると、警備に張り合いがなくていけねぇ」

「先日もアミルダ様から怒られましたよ。『エミリが盗んでこないから腑抜けているぞ』ってさ。いやー否定できなかったです」

「皆さん……」

「陽炎を捕縛できたのは、エミリ様との戦いで鍛えられたからこそです。なら次は我々が。それに……貴女は若い身で戦場に何度も出て、危険をおかしてハーベスタ国のために戦ってくれました。そこらの貴族と違って決して口だけではない」


 ベルべさんが警備隊を代表するように優しく告げてくれた。


「うえーん! ありがとうございます!」

「それに砂糖食えるの役得だよな」

「それな、しかもあのエミリ様の前でこれ見よがしに食べれるんだ。なんか優越感やばくね?」

「……全部終わったらまた調理室に侵入しますね! パワーアップした私の全力をお見せしますよ!」 

「「「手加減してください」」」


 こうして白竜城警部部隊の人たちと協力しあって、更に色々と砂糖を使って試行錯誤した。


「うーん、塩が欲しくなるよな、これ。菓子を食事にするのは贅沢だけど少しものたりねぇ」

「そうだな。俺達はいつも汗かいてるし、砂糖だけじゃなくて塩もとらないと弱っちまう」

「砂糖だけじゃダメ、お菓子をご飯もダメ……あっ、なら砂糖を普通の料理に混ぜてみます! 叔母様が売って欲しいのもお菓子じゃなくて砂糖でしょうし! 甘い食事は美味しいに決まってます!」

「「「えっ」」」  


 こうして色々と紆余曲折の後、肉に砂糖とか酒とか色々混ぜた料理が完成。


 エミリ商会改めエミリレストランは、それを目玉にして大売れしました。

 食べた人からも好評で。


「いやあ、砂糖令嬢だけあって砂糖の使い方が派手だ。料理に砂糖をぶっこむとはなぁ」

「砂糖無駄に食べてただけじゃないんだな」


 商品名はリーズさんが「これすき焼きもどきですね」と言ったので、すき焼きになりました。


 叔母様の期待に応えられたのでよかったです。後は……。


「エミリ様が出たぞぉ! 陽炎も一緒だぁ!?」

「あの人とうとうタッグ組むこと覚えやがった!? ズルいぞ!?」

「相手がズルしたからって警備抜かれたらダメですよ!」

「然り、敵が強かったから警備できませんでした。などと許されるわけがない」


 叔母様に依頼されてる白竜城のお菓子泥棒は、陽炎さんとタッグを組むことにしました。


 でも今までのように毎日は流石に警備も疲れるでしょうし、少し頻度は減らすことにしました。


 でも昨日来たから次の日は来ないと油断されても困るので、たまに連日仕掛けたりもします。



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とうとう諜報タッグが白竜城警備部隊に牙を剥く……!

真面目に警備部隊はエミリがいなかったら、全員クビにされてもおかしくなかったです。

陽炎が調理室に忍び込むまで発見できなかったの結構ヤバい……最終防衛ライン(バルバロッサ)が抜かれることはないでしょうが。


それとすき焼きって最初は農具の鋤で、肉を焼いてたのが由来らしいですね。



新作の宣伝です。

『転生したらゴーレム魔法の才能があったので、成り上がってハーレム目指します! ~ゴーレム魔法は存在価値がない? ないのは工夫だよ~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330647666694560


現在九話まで投稿中で、本日中に十話目も投稿予定です!

リーズが装備を整える能力なのに対して、こちらはゴーレムの兵士を揃える魔法です!

読み頃の文字数になってきましたので是非見てください!


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