第165話 決戦初夜


 白竜城玉座の間。そこでは出陣前の最後の話し合い、いや確認が行われていた。


 主要メンバー全員が集まってからアミルダが腕を組んで告げる。


「全員に告ぐ。明日の出陣でボラススを壊滅させる。覚悟はいいな?」


 俺達は全員が頷いた。


 ボラススとの決戦はとっくに分かっていたことだ。アーガ? もうあいつらは敵ではない。ほぼ全兵士がアンデッドした上に、アッシュという一応のトップを失ったから酷いことになっている。


 流石に放置するわけにもいかないので、この戦いが終わったらアミルダが占領しに行く予定らしい。俺としてはアーガは嫌いだが民に罪は……ないとは言わないが多少しかないから。


 アミルダは俺達ひとりひとりに視線を投げかけ始めた。


「陽炎、スイ。お前たちは敵の内情を探り、混乱させて破壊工作を試みよ」

「「ははっ」」


 暗部コンビが跪いて返事をする。


 陽炎は要人暗殺が得意で、スイちゃんは情報収集が専門だ。エミリさんは盗みに特化してるのでバランスの取れた暗部と言える。


 何かがおかしいかもしれないがもう気にしないことにした。


「セレナ、魔法部隊の隊長として指揮を任せる。お前は軍の要だ」

「わかりました」


 セレナさんが頷いた。彼女は我が国でナンバー2の魔法使い、新設された魔法部隊の隊長としてこれ以上ない人事だ。


「バルバロッサ、お前は状況次第で突撃させる。存分に戦場で暴れるがいい」

「任せるのであります! 我が武、今ここで使うために鍛え上げてきたと思っておりますゆえ!」


 バルバロッサさんが大声で叫んで空気が震える。


 彼ほどの戦場を覆す切り札は、我が軍どころかこの世界でもそうそう存在しない。ばん馬を得たバルバロッサさんは、まさに一万の大軍に匹敵する。何なら軍の勝利とか何も考えなければ、この人が突撃したらボラスス教皇の首は取れると思う。


「エミリ、お前は……」

「はい!」

「遊ばせておくから好きに動け」

「叔母様!? 私だけ投げやりじゃないですかね!?」


 悲鳴をあげるエミリさん。だが彼女の運用方法としては正しい。


 この人は戦場においていつどこで何時役に立つか分からない。光魔法が多才で姿も消せて便利、かつ攻撃力がないためによくも悪くも事前の作戦に組み込みづらい。


 生き物のように動く戦場においては、下手に役割を固定しない方が輝ける。それがエミリさんだと思う。雑用係とか遊兵とか言わない。


「そしてリーズ、お前はこの戦いの要だ。分かっているな?」

「ああ」


 今の俺はチートでもはや工兵なんてなまぬるい存在ではない。


 巨大な土ドームすら一瞬で生み出せるのだから、一騎当千の魔法使いである。まさに状況を打破するゲームチェンジャーになれると自負している。ちなみにバルバロッサさんはゲームブレイカー。


「それと皆に事前に言っていたこれを渡しておきたい。ギリギリですまないが間に合うか分からなかった」


 俺はみんなに対して小さなポシェットを配っていく。これはアイテムボックスだ、見た目とは裏腹に大型トラックほどの積み荷を入れられる。


 優秀な皆に渡しておけば戦争においてもきっと色々と有用なはずだ。すると陽炎がこちらを見てきた。


「リーズ様、これは死体も入るのか? なら暗殺した亡骸を入れて隠したいのだが」

「入るけど凄い使い方するなお前」


 まさかいきなり死体隠しに使われるとは……まあ有用に使ってくれれば何でもいいよ。


「ポーションを入れておけば魔法を連発できますね」

「え、えっと私は何を入れようかな……何かよいものありませんか叔母様?」

「頼るな、自分で考えろ」


 皆思い思いにアイテムボックスに入れる中身を考えている。


「吾輩は武器である! 矢を大量に入れれば吾輩も魔法部隊のごとき活躍が可能である! 後はばん馬ももう一頭なのである!」


 バルバロッサさんが豪語している。とうとう爆誕してしまうのか、FA(フルアーマー)バルバロッサさんが。最終決戦仕様ってだいたい火力重視になるよな。


「ではこれにて解散とする。各自英気を養って明日に備えよ」

「「「ははっ!」」」


 号令と共にみんなが部屋から出て行き始めた。やはり明日が決戦だけあって緊張もあるし、やり残した大切なことがあるのだろう。


「暗器を研いでおくか」

「私は魔法を撃っておきます」

「軽く素振りしておくのである!」

「街で新作のお菓子が発売してるから急がないと……」


 さて俺はどうするかな、やはりここは身体を休めて……。


「リーズ、この後何もないなら私の部屋に来い」

「ん? 別にいいけど何か用か?」

「まあな。まだ私もやることがあるので、もう少し日が暮れてから来てくれ。」


 俺は少し自室に戻って休んでから、アミルダの寝室の扉の前へとやって来ていた。もう慣れ親しんだ場所だ、何度も彼女とは一緒に眠った。互いに忙しいし疲れもあるので本当に睡眠取っただけだが。


 ノックをして中に入り、俺は中の光景に唖然とした。


「……来たか。待っていたぞ」


 ベッドに座り込んだアミルダがいた。ただしその姿は普段の服でもなければ寝間着でもなく……下着姿で髪を降ろしていた。これではまるで……。


「アミルダ、お前その恰好は……」

「…………お前の死ねない心残りを増やそうと思ってな。この戦いに勝てばもう後は事後処理の類だ、数か月経ってから私が動けなくなっても問題はない。だから……いや待て、女側にここまで言わせるな」


 アミルダは口をとがらせる。俺はそんな彼女に覆いかぶさった。



------------------------------------------

アミルダが「この身体が欲しいならばそれも許す」と言ってから長かったですね。

言ったの11話なので154話も経ってる……というか今さらですが、少し恥ずかしいだけで顔から火が出るのに言う辺り。


私の全作品の今後の投稿予定を記載しています。

興味ありましたらご覧ください。

なおこの作品に関しましては大したことは書いてません。

今章が最終決戦であることに変わりはありません。


https://kakuyomu.jp/users/clon/news/16817330652253336182

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る