第36話 褒賞……うーん
俺達はルギラウ王を倒した後に進軍を続けて王都タッサクへと入った。
そしてタッサクからハーベスタの勝利を国中に宣言して、バルバロッサさんと五百の兵を置いてひとまずハーベスタに戻って来た。
ずっとハーベスタの内政を放置しておくわけにはいかないからな。
いやまあ、ルギラウ国の領土ももうハーベスタ国なんだけども。
バルバロッサさんは治安維持……という名目で、アミルダ様に反逆する者が出ないように睨みをきかせる役目だ。
そして戻るとすぐさま屋敷で評定が開始された。
「ここにいないバルバロッサ含め、全員見事な働きだった。今後のことを相談する前に褒賞をとらす。エミリ、お前には以前から欲しがっていた宝石をやろう」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
エミリさんが目を輝かせて喜んでいる。
よかったですね、これで更に輝けますね! ……って言ったら怒るかなぁ。
「そしてリーズ、お前への褒美だが……この国の土地の半分をくれてやる」
「……へ?」
アミルダ様は何を仰っているのだろう。そんな某大魔王みたいなことを。
「……あ、旧ハーベスタ領の土地の半分ということですか? ルギラウ国の領土を接収するなら、わが国の総領土の六分の一くらいには」
「違う。現時点の元ルギラウ国の領土も含めた土地だ。そのうちの半分が貴様への恩賞だ」
「ははは、そんなまたご冗談を」
「こんな場で冗談は言わぬ」
……嘘ですやん。
それってマジでハーベスタ国の半分をくれてやる! ってことでは!?
いや流石にそれはないだろう! どこの世界に配下と土地を半分こする人が……そういえば日本にいたなぁ。
関ヶ原西軍の大将であった石田三成だ。
彼が豊臣秀吉の部下として出世途中であった時に、様々な有力大名から仕官要請を受けた島左近という武将を雇った。
当然ながら石田三成よりもよい仕官条件の者もいた。その中で島左近が三成を選んだのは……なんと三成は持っていた石高(土地)の半分を渡したというのだ。
その心意気にうたれて島左近は三成の忠臣として仕えた。
この話はこんな言葉で言い伝えられているくらいだ。『治部少(三成)に過ぎたるものが二つあり。島の左近と佐和山の城』と。
俺は別にアミルダ様に過ぎたるものではないけども。
「以前に貴様に相応しい褒賞を渡すと言ったな。今ならば接収したルギラウ国の土地を渡せる。これでも貴様の働きには不足かもしれないが、今の私が渡せる精いっぱいだ」
アミルダ様は真剣な表情で俺を見つめてくる。
そりゃそうだ、国の半分を臣下に渡せる王なんてそうそういない。
それこそ俺がもしアミルダ様に反旗を翻せば、うまくやれば勝ててしまう力を与えてしまうことになる。
……つまりアミルダ様はそれほど俺を評価して下さっているのだ。
ならば俺も忠義を以て返さねばならない! ……のだけれど、正直な話を言うとだな。
「ありがとうございます! ですが土地は結構でございます」
「……不足か」
「いえ! むしろ過分な評価に感激しております! ですが私は土地を頂く喜びよりも、内政を行う手間が増えるのが嫌なのです! 私はあくまで人に使われる立場が向いていると考えております!」
俺の目的はあくまでアーガ王国を倒すことだ。
それを達するためには俺の力は今までと同じように使うのがよいはずだ。
土地をもらったら長として色々な仕事が増えてしまって、純粋にハーベスタ国の強化ができなくなってしまう!
…………それとだな、本音を言うとアミルダ様みたいに睡眠時間削って働くのはキツイ!
だって俺がもらい受ける土地って占領直後の元ルギラウ国の領土だぞ!?
絶対様々な問題を抱えていて、それの対応しまくらないとダメじゃん!?
そんなの俺には無理だ! ここはアミルダ様に押し付けよう!
これ以上彼女の仕事を増やすのもどうかと思うが、俺にはそんな内政を行えるような能力はない!
「…………そうか。ならば無理に渡すわけにはいかぬな」
アミルダ様は少しだけ寂しそうな顔をして、褒賞を取り下げてくれた。
「しかしそうなると貴様への褒賞がなくなってしまう。何か欲しいものはあるか?」
「そうですね……今後もアミルダ様の謀略をもって、アーガ王国に痛手を与えて頂ければ幸いでございます」
結局、これが俺の嘘偽りのない本音だ。
大抵のものは【クラフト】魔法で造れるので、褒賞で受け取る必要がない。
だからこそアミルダ様もそうそう造れないだろう土地を渡そうとしたのだろう。
「アーガ王国が滅んだら貴様は……いや今話しても意味なきことか。わかった、なれば今後も我が元で励むがよい。今日の評定はこれで終わりにする。また翌日に行うので今日はゆっくりと休むがよい」
そうして評定は終了した。
いやー、アミルダ様がすごく評価して下さってありがたいことだ。
今後も頑張ってお力にならないとな!
さてセレナさんにも後で報告して…………そこで俺はヤバイ事実に気が付いた。
彼女は俺の配下である。なので俺が恩賞を渡さないとならない。
本来ならアミルダ様から頂いた褒美の一部を、セレナさんに分けるべきである。
でもたった今、それを断ってしまった!? ヤバイ!?
でも今さらやっぱり土地を少しくださいなんて言えない…………ほ、宝石でも渡して誤魔化そう!
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評定が終了してリーズが部屋を去った後、アミルダとエミリは密談を行っていた。
二人は真剣な面持ちで、それこそ国の命運が決まるかのような雰囲気だ。
「……エミリ、正直何も成せていないように見えるが一応聞こう。首尾は?」
「…………無理です! だってリーズさん、全然私に興味持ってなさそうなんだもん!?」
「何を言うか、お前の見た目は間違いなくよいのだ。もう少しうまくやってあいつを落とせ。例えば夜這いを仕掛けるとか」
「それ失敗したら物凄く気まずくなりますよね!? 提案してる叔母様はできるんですか!?」
「……このままではマズイのだ。リーズがハーベスタ国に仕える理由がない。いつ出て行ってもおかしくないのだ、何としても我が国にいる理由を作らねばならない」
アミルダはリーズに対して危機感を抱いていた。
リーズが満足する褒美を渡せていないので、いつか出て行ってしまうのではないかと。
それこそハーベスタ以外の国でもアーガ王国と相対することはできるのだから。
例えばリーズが他国の女と結婚し、その者が母国で暮らしたいと言えばついていきかねない。
報酬も払えていないアミルダにはその時に止める権利がない。
「お前とてリーズは条件に合致するはずだ。あの者はいくらでも富を生み出せる、性格も顔も悪くない」
「そう言われても向こうは私のことを眼中にいれてませんよぉ……むしろ叔母様がアプローチかけるとかは……」
「何度も言わせるな。私が男ならばこんな勝気な女より、間違いなくもっとおしとやかなお前を選ぶ。必要な物があれば用意する、何としてもリーズと婚姻できるように働きかけろ」
「ふえーん! いくら言われても無理ですってばぁ……!」
アミルダは他人の力量の把握が得意で、無茶ぶりは割とするが無理な事は命令しない。
そんな彼女にしては珍しく無理難題を放り投げているのだった。
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