腐った既得権益 ベルガ商会編
第37話 汚職、癒着、賄賂のフルセット
俺を含めたアミルダ様御一行は、元ルギラウ国の王都であるタッサクに改めてやって来ていた。
王都の有力者たちと顔を合わせて俺達に臣従させる必要があるからな。
しっかりとルギラウ国を掌握しておかないと。
だがアミルダ様はまずは街の様子を確認したいと仰ったので、お忍びで少し都市内を歩いているのだが……。
「どうかお恵みを……」
「お願いします……もう二日も何も食べておりません……」
路地横にはだいだい五メートルごと間隔に座り込んだ物乞い達。
歩いている町民たちも服が普通よりもかなり汚いし覇気がない……やせ細っていて頬もこけていた。
まるで長い間籠城してボロボロになった都市みたいだ。無血開城したはずなのに。
「な、なんだこの値段は!? このパンひとつが銀貨一枚であるか!?」
「この街ではこれが普通なんだが? まさか俺達ベルガ商会に文句があるのか? あんたをこの街で何も買えなくするなんて造作もないんだぞ?」
バルバロッサさんが露店のパン屋に激怒していた。
……俺も少し確認したがすさまじく質の悪いパンだ。普通なら銅貨一枚とかのレベルだろう。
質のよいパンならともかく、あんな真っ黒なカチカチパンを銀貨一枚で売っても誰も買わないだろうに。
しかも他の露店を確認しても塩などもすごく高いし……全体的に物価がインフレしてるのだろうか。
いや待て、インフレなんてあり得ないはずだ。この世界の金は紙幣じゃなくて金貨とかだぞ!?
お金そのものが素材分の価値がある以上、黄金がゴミクズにでもならない限りインフレなんて現象は起きないだろ!
じゃあなんでこの街はこんな異常事態になってるんだ……。
他にも治療院らしき場所の前で、主婦らしき人が店員に頭を下げていた。
「お、お願いいたします……娘が熱を出して、薬を売って頂きたいのですが……」
「金貨十枚だ。払えないならわかっているな?」
「はい……治り次第、娘をベルガ商会様に奴隷として支払います……うぅ……」
「やれやれ、じゃあ入れ。薬をくれてやる」
……なんだこの街!? なんか慣れたようなノリで病院で人身売買!?
病院での人身売買とか倫理的にダメだろ!? 私の内臓と薬を交換みたいなものではないか! 悪魔かこいつら!?
「おい、そこのお前! 見た目がいいから抱いてやる! さっさとこっちに来い! 俺はベルガ商会の重鎮だ、逆らえば分かってるへぶぅ!?」
「……申し訳ありませぬ。つい手が出てしまったのである」
謎の男がアミルダ様のほうに寄って来たのだが、バルバロッサさんのビンタでぶっ飛ばされていた。
大丈夫だ、肋骨の数本くらいは折れずに残っているだろう。
「……酷いな。想像していた以上だ」
「アミルダ様、こんな状態を予想されてたので……?」
「…………風聞でよくない噂を聞いてはいた。だが自分の目で見るまでは信じがたかったのだがな」
流石のアミルダ様も遠い目をしていた。
近くで気絶してるバルバロッサさんにぶっ飛ばされた男、本当にギルティなのでこっそり顔が腫れる毒粉撒いておこう。
「お、おい……あいつら何てことを……」
「明日の広場に死体で晒されてるのはあいつらだろうな……」
これ以上ここにいると危険そうなので、元ルギラウ王の城へと戻ることにした。
「おいおいおい。よくも幹部をやってくれたな! お前ら生きて帰れると思うなよ!」
「俺らに逆らったんだ。見せしめに広場で処刑しないとな」
「女は捕らえろ! 売り物になる!」
帰る途中でベルガ商会名乗るガラ悪い男が十人ほど囲んできたが。
「やかましいのである! 失せるのである!」
「「「「「「「ぐええええええええええ!?」」」」」」」
バルバロッサさんが男のうちの一人の足を掴んで、ジャイアントスイングして全員吹き飛ばした。
……本当にロクでもねぇ。アーガ王国にも劣らんぞ……。
そして何とか王城に戻って今は玉座の間にいる。
無駄に豪華な家具や絨毯などで彩られた部屋で、この国の有力者を呼び出して顔合わせをしていた。
「我が名はアミルダ・ツァ・ファリダン。このハーベスタ国の王だ」
アミルダ様が玉座に偉そうに座って宣言する。
かなり傲岸不遜な態度だがこれは演出だ。王たるもの舐められてはいけない。
そんな彼女の前に頭を下げて跪くのは三人の男たち。
その中でも特に豪華というか、華美な宝飾などをつけた太っちょオッサンが顔を上げた。
「アミルダ陛下、お目にかかれて光栄でございます。私はベルガ商会のガーヴと申します。以後お見知りおきを……これはお近づきの印でございます」
ガーヴに目配せをされた後ろの男が立ち上がった。
……ベルガ商会ってさっきの人身売買のアレじゃん。
彼はアミルダ様の傍に立っていたバルバロッサさんに近づき、宝石が散りばめられた小箱を手渡す。
「むぅ、これは……」
「ほんの心ばかりの品でございます」
バルバロッサさんは嫌そうな顔を隠さずに、アミルダ様にその小箱を差し出した。
彼女は箱を開いて中身を見た……うわ、宝石ゴロゴロと詰めれるだけ詰まってる……。
街がここまでボロボロなのに何でこいつは金を持ってるんだよ。
「これは賄賂というものか?」
「いえいえ。これからのアミルダ様にはご入用と思いまして……ですが無料でもらうのは心苦しいでしょう。なので私に今まで通りタッサクの商業は全てお任せくださいませ。ルギラウ王からも任されていた身ですので」
……いや物凄い真っ黒な賄賂じゃん。
賄賂自体は状況によっては許される。例えばアミルダ様がやったように進物として堂々と渡すなどだ。
国同士なら進物の交換など日常茶飯事だしな。
でもこの場合は完全にアウトな賄賂だ、要求もやば過ぎる。この街の商業関係を全部自分に掌握させろとか……。
しかもルギラウ王からも任されてたとか言ってるが、それが事実なら元ルギラウ国が腐り切ってる匂いしかしないんだが。
確かにこの世界では商人ギルドとか、冒険者ギルドとかそういった自助組織が多い。
その団体が権利を独占していることはよくある話だ。
でも個人の商会が王のお墨付きで幅広く独占商売……それは流石にない、独占禁止法も真っ青である。
「なるほど、だがこの箱は受け取れぬ。これから其方も色々と大変だろうからな」
「いえいえ……むしろより大変になることを期待しております。アミルダ様の御力になれるのなら、艱難辛苦とて甘き汁となりましょう。それに大商会たる我らの手助けなしではルギラウ国の掌握は困難でしょう」
艱難辛苦とて甘き汁……なんか謎に詩的な表現だが、ようはこれに乗じてもっといっぱい甘い汁吸わせてください! ってことだろ。
「特にこの国の麦などの独占売買権に関しましては、我がベルガ商会が今後十年はそれを約束されております。契約書もしっかりとありますので、アミルダ様もお守りくださりますよう」
「……残念だがルギラウ王から聞いていないのでな。真偽を確認してから返答させてもらう」
「構いませぬ。ですがこれは正当な契約でございます。これを破るということは、我らベルガ商会との信用を失うことをご理解ください」
ガーヴは下卑た笑みを浮かべる。
いや待て、麦の独占売買!? しかも十年だと!?
いやふざけんなよ!? 麦と言えばこの世界の主食であり最重要食料だぞ!?
食事と言えばパン、パンと言えば食事の世界だぞ!?
それを全て握られていたら誰もこいつらに逆らえないじゃん!?
「……ルギラウ王は随分と豪胆だったようだな。麦の独占売買を商人に許すとは」
「これも私のベルガ商会の信用の賜物でございます」
信用じゃなくて賄賂の賜物だろ。
いやこれ酷すぎるだろ。汚職、癒着、賄賂の三点豪華セット……。
こうして会談は終わったが……ルギラウ国が最低だったことが判明しただけだった。
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「……はぁ。ルギラウ王め、まさかここまで腐っていたとはな」
「想像より数倍は酷かったですね……」
「何という無茶苦茶な! アミルダ様、あんな者たちの言うことを聞く必要はないのである!
ベルガ商会との会談が終わった後、玉座の間で俺達はため息をついていた。
何せ凄まじく酷い会談だった。
ベルガ商会はルギラウ国のほぼ全てを握っていて誰も逆らえない状態。
小麦だけでなく薬や武器、更には井戸の水をくむ権利まで奴が握っていた。
さっき見たこの街の惨状はベルガ商会のせいと見て間違いない。奴が物の値段を釣り上げて民衆を飢えさせている。
「無論そのつもりだ。だがそれらの特権を取っ払っても、ベルガ商会は国に対して絶大な権力を持っている。何とかせねばならぬ」
「攻め滅ぼすのですか! このバルバロッサにお任せを! 雁首揃えて広場に並べてやるのである!」
「違う。仮にも商人相手に武力で根こそぎ金を奪えば、世間からの評判の低下は免れない。特に他国の商人が我らを商売相手と見なくなってしまう、いくら奴らが酷くてもな」
「そんな……じゃあどうするんですか叔母様!? まさか様子見とか……」
「している間にも民が苦しみ死んでいく。ベルガ商会の権力を奪うなら奴らの土俵で戦えばいい、奴らの商売を成り立たなくする」
なるほど。
商売人に対して武力や力で財産没収はご法度だが、こちらが商売敵になる分には問題ないと。
それで負けて没落してもベルガ商会の商才がなかっただけになるしな。
「リーズ、エミリ。お前たちで仲睦まじく協力し、ベルガ商会の力を弱体化させよ。こやつらをのさばらせておいては、元ルギラウ国はどうにもならん!」
「ははっ! お任せください!」
「は、はい。頑張ります!」
俺としても是非受けたい命令だった。正直胸糞悪いしな。
貧しい人の弱みにつけこんでるクズ共だ。是非とも叩きのめしてやりたい。
……でも仲睦まじく協力ってなんだ? 何か言外に知らせてるのか?
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表紙依頼しました! 納品されたら公開しますのでお楽しみに!
(私が一番楽しみにしているでしょうが)
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