第181話 アッシュの最期


 アッシュは無様に地面に転がされていた。


 衣装も奴隷みたいな簡易な物な上にボロボロだ。ボラスス神聖帝国に来てからの扱いはよくなかったようだが当然か。なにせこいつの利用価値なんてほとんどないのだから。


 むしろボラススはよくこいつの亡命を認めたものだ。俺だったらこんな奴は絶対に入国認めない。シロアリみたいに国を内部から腐らせるからな。


「リーズよ、どうするのであるか? 望みの復讐相手がやってきたのであるが」

「うーん……正直言うと俺個人としてはもうどうでもよいんですよね。生かしておいてよいことはないので、殺すべきだとは思うのですが」

「じゃあ叔母様に相談しましょう! きっとよい案を考えてくれますよ!」


 エミリさんがパンと手を叩いた。確かに彼女の言う通りだ。


 アッシュはこれでもアーガ王国の実質トップだったから、何かしらの使い道はありそうな気がする。


「じゃあ叔母様を迎えに行きましょう。飛行機が降りて行ったところにいるはずです」

「よし、行くのである!」


 バルバロッサさんは丸太を使って、器用にアッシュを持ち上げた。そしてそのまま丸太を担いでアッシュごと運ぶようだ。更に近くで気絶したボルボル教皇とボルボルも胴体部分を丸太に引っ掛けて、三人まとめて運搬しだしたのだ。


 まるで洗濯物が干されているかのようだ。


「なんか丸焼きにされた豚がつられてるみたいですね」

「こんな奴ら直接触りたくないのである! アーガがうつるのである!」

「でもバランス悪いから落ちるのでは?」

「別に落ちても構わないのである!」


 こうして俺達は飛行船の元へと歩いて行った。もはや周囲は建物物の壊れた壁などが乱立する廃墟になっている。まるで昔に滅んだ遺跡のようだ。


「ああ……ボラスス神は我らを見捨てたもうたのか……」

「明日からどうやって生きていけば……」

「ひいぃぃ!? 大魔王じゃ! どうか命だけは……!」


 周囲にたむろした信徒たちが口々に呟いている。もはや俺達に抗う気はないようだな。当然か、この惨状を見れば歯向かう気も失せるよな……。


「なんだあの三人は? 二人はまったく同じ顔だぞ」

「あんな豚よりも教皇様じゃ。あのお方はどこに行かれたのじゃ……」


 教皇様ならイカレたぞ、ボルボルになったことで。教皇はもはや信者にすら気づいてもらえなくなったのだ、こうなると哀れだな。


 しかし本当に派手にやったな。もうこの総本山は捨てた方が良いレベルに、建物が崩れ去って崩壊している。瓦礫の撤去考えると、ここに居つく理由ない気がするなぁ。


「リーズさん、この人たちの家は直してあげないんですか? リーズさんなら直せますよね?」

「様子を見てからですね。ここを直すとまた以前と同じボラスス教として復活する可能性もありますし。アミルダに任せたら大丈夫かもですが」

「あ、飛行船が見えましたよ」


 こうして俺達は飛行船の元へたどり着いた。


 無事に着陸できたようで飛行船は特に故障などはしていない。


「リーズ、大丈夫か!」


 地上で兵を指揮していたアミルダが俺の元へ駆け寄ってきた。


 だが流石と言うべきか、洗濯物になった三人組を見て納得の表情を浮かべる。


「勝ったようだな。……何でボルボルが二人いるのかは知らないが。双子の兄でもいたのか?」

「いや実はこいつはボルボル教皇、じゃなくてボラスス教皇なんだ。えっと……」


 先の戦いを説明したところ、アミルダは呆れたように苦笑した。


「ならもうこの教皇には大した力はないな。永遠に閉じ込めておけばよいと」

「そうだな。アンデッドなので簡単には死なないし、個室にでも閉じ込めておけば自殺もできない」


 ボラスス教皇はとりあえず牢獄に封印することになった。いずれはポーションでの浄化も考えるが、下手に解放して蘇生されても困るからな。


「それでアッシュについてだ。アミルダの方でうまく使って欲しい」


 俺は無様に干されているアッシュに視線を向ける。奴はさっきから目が開いているのだが、まともに動こうとすらしない。おそらく魔法か何かで身体を封じられているようだが、都合がよいので放置している。


「……いいのか? お前にとって三バカへの復讐が、元々この国に来た目的だったはずだが」


 アミルダは怪訝な顔で俺を見てくる。


 確かに俺がハーベスタ国にやってきたのは、ボルボルとバベルとアッシュへの復讐。そしてアーガ王国を滅ぼすためだった。


 だが今の俺にはもう些細なことだ。


「構わない。俺にはアミルダたちがいるからな。こいつらを存分に利用して、少しでもハーベスタ国の役にたてて欲しい」


 もう俺にとっては復讐心など些細なことだ。


 まあアーガ王国はもうほぼ崩壊しているし。ボルボルとバベルは死んだ、そしてアッシュは動けもしないのだが。


「……そうか。ありがとう」


 アミルダは小さく微笑んだ。だがすぐに表情をキリッとした顔に戻すと。


「ではしばらく後、アッシュの公開処刑を行う! ボルボルについては痛めつけた上で国外追放だ!」

「ボルボルは殺さないんだな」

「こいつは下手に殺すよりも、私たちに恨みを持たせて敵対国に送りつけた方がよい。おそらく敵の足を引っ張ってくれるだろう」

「確かに……」

「では地上部隊と合流して、総本山を占領する。兵たちには目を光らせておけ、騒ぎにかこつけて略奪に走る愚か者がいるやもしれぬ」


 流石はアミルダだ。破壊だけして放置はしないらしい。


 こうして俺達はボラスス総本山を占領して食事を用意した。そして飛行船でハーベスタ国の王都ギャザへと戻る。勝利宣言とアッシュの処刑のために。


-------------------------------------------------

次回投稿は28日になるかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る