第180話 絶望
「成敗であるっ!」
「ごはぁっ……!?」
化け物が丸太を振るって私を打ち据えてくる。
何とか逃げようとするがその隙もないほどに、丸太でボコボコにされて動けぬ……! この身体の強靭さがなければとっくに肉塊になっておるぞ!?
「お、おのれっ! この身体でまだポーション強化を受けてなかったなどと!?}
「黙るのであるっ!」
「おぼわっ!?」
こ、これは無理だ! ただでさえ技量では本物の方が上なのに、身体スペックまで負けては勝ち目がない! 逃げたくても隙がない!
バカな!? リーズにこんなことはできなかったはずだ! こんな化け物を更に強化するポーションなど、造れるならとっくに私が飲んでいたはずなのにっ!?
いやそもそも空飛ぶ船もおかしい! そんなものを造れるなんて聞いていない!
卑怯だ! 私は真面目にアンデッドを蘇生して戦っているのに、敵は無限のように物資を揃えて圧倒して来る! 挙句にこんな理不尽な魔王までいるなど!
「おのれぇ! 私の覇道を! 世界征服の邪魔をするなぁ!」
「やかましいのである!」
「ごふえっ!?」
魔王は丸太で私の腹を突いてえぐってきた……! ふざけるな! 貴様らさえいなければこの世界は私が支配していたのにっ!
「トドメである! 悪よ、去るがよい!」
化け物の渾身の丸太振り下ろしが頭蓋に近づいて来るのが見えた。このまま私は死ぬ、だが構わない。すでに万が一に備えて準備はしてある。ボラスス教は死んでからが本番なのだと教えてやる!
私は絶対に負けないのだ。反則どもに教えてやる! どんな姿になろうが必ず世界を…………。
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バルバロッサさんの必殺の一打にて、偽バルバロッサさんこと教皇の身体が押し潰れた。ポーションで強化された彼の一撃には、耐え切れなかったようだ。
勝った……と思った瞬間だった。周囲から生き残っていた信者たちの声が聞こえてくる。
「「「偉大なるボラスス教皇よ、今ここにお蘇りください。蘇生の力、秘術をここに……」」」
潰れたボラスス教皇の周囲に魔法陣が出現して、教皇の身体に闇のようなものが発生していく。彼の目がぎょろりと動いて俺達を睨んだ。
し、死ぬほど……いや死んでからもしつこい! こんなことならS級ポーションもふりかけておけばよかった!
「グハハハハア! 我はフメツ! アンデッドになればいくらでも! そして再び力を真似れば、今の我が最大の強敵の力を得る! すなわち強化された貴様の力を!」
「ええいっ! 本当にしつこいのである! ならば次は粉砕して浄化してやるだけであればっ!」
アンデッドになったならS級ポーション散布で倒せるか!? でもバルバロッサさんの身体となると、アンデッドだろうがポーション程度では死なない気もする……!
バルバロッサさんは再び教皇に向けて丸太を構えようとしたが、急に顔を他の方向に向けた。その先にいたのは……。
「きょ、教皇! 大丈夫なんだな!?」
ボルボルだった、奴は教皇のもとへと走り寄っていく。
予想外の人物の登場に、俺達も教皇すらも唖然として時が止まる。
「ぼ、ボルボル殿!? 何故ここに!? 地下室にいたはずではっ!?」
「教皇を助けてハーベスタ国を倒すため、色々と頑張っていたんだな! ボキュがいれば必ず勝てるんだな!」
ボルボルが力強く宣言すると、教皇の顔が青くなっていく。ボルボルが頑張った……足を引っ張ってそうな予感しかしないな。
「ち、ちなみにどんなことを……?」
「兵士たちにS級ポーションを配ろうとしたんだな! 失敗して地面にこぼしちゃったけど仕方ないんだな! 他にはアッシュ様を助けようとしたんだな! S級ポーション飲ませようとして失敗したけど!」
ボルボルの言葉で教皇の目が見開き、わなわなと震え始めた。
「ば、バカな……! 貴様のせいでっ……貴様のせいで私の切り札たちが使用不能になっていたのか!? いくらなんでもおかしいと思ったのだ! ハーベスタ国の暗部が優秀だろうが無理だろうと!?」
「教皇!? どうしたんだな!? ボキュが来たことで安心したんだな?」
「ああああああ!? 貴様を利用しようとした私が愚かだった! 貴様など金輪際味方ではない、消え失せろ!」
「そ、そんな!? あんまりなんだな!?」
打ちひしがれるボルボルを睨みながら、教皇は勢いよく立ち上がる。
「道理で! 道理で何もかもがうまくいかなかったはずだっ! だがもはや原因はなくなった! 次こそ私が勝つ! 勝つのだぁっ! その魔王の力をわが物にぃっ……!」
ボラスス教皇の身体が、バルバロッサさんの姿を真似た時と同様に変貌していく。ゴキゴキと音を鳴らしながら、太った脂肪の塊へと……あれ?
「ぐはははは! これで私は強化した魔王の力を得たんだな! ……ん?」
ボラスス教皇の語尾がおかしい、いや見た目もおかしい。何故ならその姿はバルバロッサさんではなくて……ボルボルだったからだ。
「ぼ、ボキュが二人!? こ、こんなの最強過ぎるんだな! これなら絶対にどんな敵にも負けないんだな!」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
興奮するボルボルと発狂するボルボル。ここにボルボル教皇が爆誕してしまっていた。
「……ふんっ!」
「「ぼきゅぅ!?」」
ボルボルは二人まとめてバルバロッサさんの丸太でぶたれて、無様に地面に崩れ落ちるのだった。
「リーズよ。さっさとポーションをかけて浄化してしまうのである」
「どちらをですかね?」
「両方でよいのである。片方は身体が腐っていて、もう片方は性根が腐っているのであるがゆえ」
「オジサマ。性根は両方とも腐ってると思いますよ」
「いっそ浄化しないで封印してもよいのでは? また下手に蘇ったら面倒ですし、それならいっそずっとボルボルアンデッドにしておけば」
ここにボルボル教皇は朽ちた。
死んでなお厄介だった教皇は、生きる無能になってしまったのだ。
「ところで何で教皇はボルボルの姿になったんでしょう?」
「おそらくですが、最大の敵は無能な味方ってやつじゃないですかね……たぶん」
教皇は最強の敵に変貌する。だがあの瞬間、教皇にとって最大の敵はボルボルになっていたのかもしれない。
「ところであそこに転がっている人、どこかで見たことあるような」
エミリさんが指さした先、そこには無様に地面で転がる……アッシュがいた。
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自分に死者蘇生かけさせてのゾンビアタック、発想はすごくよかったんですけどねぇ……。
ちなみにアッシュはボルボルが連れてきてました。回収して頑張って逃げようとしてたみたいです。
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