第179話 チートに強化を


「お、オジサマを強化ってどうするつもりですか!?」

「バルバロッサ様に武器を渡すつもりですか? でも用意できる物はすでにポシェットにいれて渡しているのでは」


 俺がバルバロッサさんを強化したいと話したら、セレナさんとエミリさんは疑問を告げてきた。


 今までバルバロッサさんに対しては、弓、剣、馬など様々な武器を与え続けてきた。だがまだ渡していないものがある。不要と思っていたので用意していなかったものが。


「……バルバロッサさんはまだ、俺の強化ポーションを飲んだことがありません」

「「あっ」」


 そう、俺はバルバロッサさんに対して強化ポーションを渡したことがない。彼にとっては多少の強化など誤差程度で、強さはすでに過剰だったでの意味がなかったから。あの人に対抗できる戦力などあり得ないとまで思っていた。


 実際に今の彼に普通の強化ポーションを渡したところで、教皇との戦いでの有効打になり得ないだろ。ただし……俺がリーズから託されたポーションに近い性能ならば話は別だ。


「俺をすさまじく強化したポーションを少し劣化した程度のもの、S級を超えるポーションをバルバロッサさんに飲ませれば……今のバルバロッサさんでも目に見える強化を施せるはず!」


 リーズが造った物は真似できない。あれはあいつが命を捨てて作成した劇薬なので、今の俺であろうと製造するなら死ななければならない。


 それはできない。俺にはアミルダやエミリさんやセレナさんと、今後も生きて行くと誓っている。


 なので作成できるのはあの時の劣化ポーションにはなるが……それでもバルバロッサさんの強化は可能なはずだ。


「確かにそれなら大丈夫そうですね! 敵が今のオジサマの力を模したなら、強化してしまえば勝てますし!」


 エミリさんは俺の意見に同意してくれた。


「……でもどうやって飲ませるつもりですか? あの戦いに割って入れるとは思えません。下手にバルバロッサ様の隙をつくれば、私たちが狙われてしまいますよ?」


 セレナさんはバルバロッサと教皇の戦いを見ている。相変わらず巨大な丸太が棒きれのように振り回せて、おぞましい音と衝撃波が鳴り響いている。


 下手にポーションを渡そうと割って入ろうものなら、間違いなく彼らの戦いの余波で死ぬ。更に教皇の狙いはアミルダなので、バルバロッサさんがポーションを飲む間にアミルダが殺される恐れまである。


 なにせ敵はバルバロッサさんのコピーだ。一瞬の隙すら命とりになる。


 実際に教皇には超ロングレンジでのバリスタ射撃がある。さっきはうまく防げたが次は対策してくる可能性もある。


「確かにバルバロッサさんと教皇の強さは同等かもしれません。ですが教皇には俺達の知識はありません。そしてバルバロッサさんは俺達の戦い方を知っているので……耳を貸してください」


 二人にしか聞こえないように作戦を説明すると、彼女らは納得してくれたようで頷いてくれた。


「よし。ならSS級ポーションを作りますね……今の俺でもかなり魔力を使うので、複数は用意できません。一発勝負です」


 俺は【クラフト】魔法を発動させて、虹色に光る液体の入った瓶を作成する。SS級ポーション……の劣化品だ。このひとつだけで俺の魔力の大半を使ってしまったので、もう大規模な魔法は使えなさそうだ。


 それと共にエミリさんにも魔力回復のS級ポーションを手渡す。


「じゃあやりましょうか」


 俺は二人に微笑みかけて作戦が開始されるのだった。





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「ええいっ! なんと言う怪物か! ボラスス神の力をもってしても勝負がつかぬとは!」

「うるさいのである! 成敗してやるのであるっ!」


 私は化け物の力を手に入れて、化け物とやりあっていた。


 信じられない力だ。目の前にいる男はまさに世界最強の肉体を持っている。


 だが私が勝つのは確定だったはずなのだ。なにせ今の私は、。ボラスス神によって得たこの肉体に対して、我が魔法で強化を行っている。


 この複製魔法が私の最後の切り札である理由。それは敵の最強の力をコピーするからではない、それならば最後の切り札としては弱い。敵の最強の力を上回る力を得るから、最後の切り札となり得るのだ。


 だが目の前の男は……自分より強いはずの相手をいなしてくる。パワーもスピードも私の方が上であるはずなのに!


「この化け物め! 何故私の方が強いはずなのに勝ち切れぬ!?」

「吾輩の力を肉体だけと思うなである! 我が武の猿真似になどに!」


 私の渾身の丸太の一打を、奴は力をいなすように同じ丸太で受け止めて防いだ。この魔法を使った時点で勝ち確定と思っていたが、予想外にこれでは埒があかんな。


 だが構わない。私の勝利条件はこの男を屠ることではない。ハーベスタの女王の首をとること。


 そうすればハーベスタ国は間違いなく瓦解する。あの国はアミルダ女王のカリスマで成り立っているからだ。お菓子令嬢が継いでも絶対に統治できない。


後はひたすら逃げて逃げて、目の前の男が寿命で死ぬまで逃げればよい。ボラスス神の身体を得た今の私は不老、こんな愚かな人間どもに合わせて戦う必要はないのだ。


「オジサマ! 今から私の必殺の一撃を放ちます! その隙にリーズさんからもらってください!」


 お菓子令嬢が私の正面、怪物から遠く離れた後方から何か叫んでいる。だがくだらぬ、私の隙を作らせるためのブラフだ!


 私に通用する攻撃など、あんな者が放てるわけがないのだから! 私は目の前の怪物だけ注力しておればいい!


「承知したのであります! 全力でかまして問題ありませぬ!」

「くだらぬ! この私がそんなことに騙されると思うな! 私こそが最強なのだ!」


 怪物に対して更に丸太の連打を繰り出していく。奴はその全てをえぐるような角度で丸太を受け止めて防いできた。ええいっ、膂力では間違いなくこちらが勝っているというのに!


「オジサマ、行きますよっ!」

「うむっ!」

「こけおどしを! 私の集中を乱すつもりだろうがそうはいかぬ!」


 いっそお菓子令嬢もついでに殺してしまおうか。そう思って一瞬睨んだ瞬間だった。少女の目の前には……巨大な氷の膜が出現していた。


「今必殺の……超、エミリ、フラッシュ!」

「なあああぁぁぁぁぁぁっ!?」


 私に対して巨大な光の線が襲い掛かって来る!? し、しまった…………目がっ!? その瞬間、私は何かに当たって吹き飛ばされた。


「お、おのれぇ! だが効かぬ! 貴様らの攻撃など効かぬのだっ! 私の強靭過ぎる身体には、例え怪物の一打だろうが殺すことはあたわず……!」


 もはや私は最強なのだ。あの怪物をも上回る身体なのだから、奴の攻撃すら致命傷にはならない。奴らがどんな小細工をしようが、私の負ける可能性はゼロ!


 すでに視力も回復していく。この肉体を殺せるものなどどこにも……。


「待たせたのである。改めて吾輩も戦わせてもらうのである」


 怪物が私の方へとゆっくり向かってくる。だが先ほどと同じく負ける要素はない、ないはずなのに……何故か私は、一歩後ずさっていた。


 な、なんだ……!? 何故か分からぬがこの男に恐怖を感じる……!? 


「行くぞ。我が一撃、受けてみるのであるっ!」


 怪物は丸太を振りかぶって俺に振り下ろしてきた。先ほどと同じようにこちらも丸太で受け止めると……互いの持っていた丸太が粉々に粉砕して、その衝撃で私は吹き飛ばされた!?


「ぐわあああぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 地面にたたきつけられて大穴を作りながら、怪物に視線を向ける。や、奴も武器がなくなったならば互角……。


「バルバロッサさん! 新しい丸太です!」

「うむっ!」


 怪物はリーズが足もとに出現させた丸太を拾って、私に向かって構えてきた!? それはズルいだろ!? 


「このバルバロッサの武勇、邪神すら滅ぼしてくれよう!」


 奴は丸太を頭の上で回転させて雷を纏った竜巻を作りあげていた。


 ……え? 魔法? あの化け物、魔法は使えないはず……。


「初めてポーションを飲んだがこれはよいものであるなっ! 竜巻に雷がついたのである! 吾輩もとうとう魔法使いに! このポーションには魔力付与まであったとは!」


 いや違う!? あの竜巻は魔力など帯びていない! 純粋なる回転が雷を作り出している!? 竜巻によって周囲の建物の残骸が空へと舞い上がり、上空の雲が吹き飛んだ……いやおかしいだろあれは!?


「たぶん魔法じゃなくて静電気とかなんかだと思います……まあいいか」

「覚悟せよ。悪しき権化よ、この吾輩が叩きのめしてくれよう!」


 こ、こんな……!? こんなことがあってよいはずが……!? 


 に、逃げるか!? こいつに正面から戦う必要はないのだからっ!?



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敵の力をコピーして強化する能力でも、武までは真似しきれなかったようで。

不利になったら即座に逃げる判断する教皇は、ゴキブリみたいな厄介さはあるかもしれない……。


リーズが自分で戦っていませんが、元からそういうキャラなのでね……。

私のイメージではリーズはずっと生産チート、更に言うなら戦略SLGの物資編集チートです。

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