第87話 パーティー終わってから


 無事にパーティーが終わってから一ヵ月が経った。


 白竜城の玉座の間に集まった俺達は、アミルダ様から下知を受けている。


「前のパーティーの感想だが全体的には良好だ。だが一部から不評が出ている」

「えっ。あれだけ皆さん感激されていたのにですか?」


 紙を見ながら報告してくるアミルダ様に対して、エミリさんが驚きの声をあげた。


 俺も正直予想外だ。あのパーティーに参加していた者は、かなり楽しんでいたと思うだが……。


「まず一番多かった意見だが、あんな美味しい物を用意しているなら最初から言っておけ。知っていたら腹を空かせてきたのに」

「知ったことじゃないですねそんなの……」

「正直言いがかりに近いな。大方、ハーベスタなど蛮族国家なのでロクな料理も出てこないと思って、事前にある程度腹を満たしていたのだろう」

「馬鹿ですね」

「いや馬なら多少事前に食べていても、食事を貪るくらい容易なのである! 馬以下なのである!」


 確かにバルバロッサさんの言う通りだ。馬はたらふく食べるよな。


 そもそも勝手に俺達を蛮族と勘違いしたので自業自得だろう。


「次に何で白竜城に泊めてくれなかったのか。寝殿も悪くなかったが美しい城に宿泊したかった」


 そもそも白竜城は人が泊まるための建物ではない。日本の和城――本丸部分――は寝床ではなくて防衛施設なのだから。


 アミルダ様は寝室を造ってこの城で寝泊まりしているけどな! 


 まあ王族数十人程度なら寝泊りさせる部屋くらいは用意できるのは事実だが。


 この白竜城、実はすでに増設していた。三階建てだったのが五階建てになっている。


 元々三階建てだった理由は建築に費やせる時間が少なかっただけだ。改築は【クラフト】魔法でパパッと終わらせた。

 

「そこまで望んでるなら、今度から泊まらせてもよいかもですね。場所は余ってますし」

「嫌だ、ここは私の城だぞ。大勢泊まらせて汚されたくない」


 アミルダ様は腕を組んで不機嫌そうな顔をする。


 ……この人、白竜城のことになると少し面倒くさいんだよな。


「あれ? 城に泊まらせなかったのって、白竜城の価値を上げるためじゃなかったんですか? 美食家きどりの人がドヤ顔で解説してましたよ、この城は王族すら泊まれないと喧伝して価値を上げているのだと。臣下に対して、城に登れるだけで褒美にするのだと」

「そんな意図はない。臣下が功績を上げたなら、そんな誤魔化しではなくて褒美はちゃんと与えるべきだろう」


 エミリさんの言う美食家って、あのオーバーリアクション男だろうなぁ……ドヤ顔で的外れのこと言ってたのか。


 いやまあ城に泊まらせない理由が、アミルダ様の独占欲というのも少しどうなのという感じだが……。


「最後にこれはひとりだけだが。熱いスープと冷水を交互に飲むのを繰り返して腹を壊した。どうしてくれる」

「ボディブローでトドメをさしたいです」


 そういやそんなバカなことしてる奴がいたなぁ……腹壊すんじゃないかと思ったら案の定だった。


 この世界では冷たい水はかなり貴重なのは分かるが、どう考えても胃に悪いに決まっている。


 そういえば地球でサウナと冷水に入るのを繰り返して、身体が整うとか流行ってたな。

 

 でもあれも身体に悪そうな気がするけどどうなんだろ……金属ですら熱した後に冷えたら壊れるんだぞ。


「まあこういう不満が上がっていた、とだけ覚えておけ。今後はパーティーの品書きをある程度出してもよいかも知れぬな」

「でも巻き寿司とか記載しても、誰も分かってくれませんよ」

「『海藻の米巻き、更に肉巻き』、などと表記すればよい」

「美味しくなさそう……」

 

 料理名を具体的に表現すると微妙な名称になるの多そうだなぁ。


 特にうどんとかラーメンとか……どう考えてもくどい説明にしかならない。


 まあ今回の不満点は努力目標程度でよいだろう。よい案が思いついたら改善を試みるが、絶対に直さなければならない類の問題ではない。


 アミルダ様は少し笑った後、コホンと喉を鳴らした。


「さてと、空気がほぐれたところで本題に入ろう。簡潔に言うと外交パーティーの効果は絶大だった。周辺諸国は我が国に対する見る目を改めて、恭順を示し始めている。少なくとも蛮族などとはもう呼ばれないだろう」

「おお! 目的達成したのでありますな!」


 バルバロッサさんの歓喜の叫びに対して、アミルダ様はニヤリと笑って頷いた。


「完璧にな、これでパプマの策は完全に瓦解した。これで西側の国への憂いはほぼ無くなったということだ」

「……ではアーガ王国に攻勢を行うのですか!」


 思わず叫び声が昂ってしまう。


 今まで我が国が攻められなかったのは、内政の建て直しと西側国への調略のためだった。


 しかし砂糖や米や為替で経済を整えた今、文字通りに後顧の憂いがなくなったのだ!


 そんな俺の期待を否定するかのようにアミルダ様は少し顔をしかめる。


「まだだな。内政は整ったがもう少し周辺諸国に調略を仕掛けたい。それにアーガ王国の前に北のビーガン国を奪取する」

「あっ……すみません、正直ビーガンのこと忘れてました」


 ……ビーガンのこと完全に忘れてた。


 あの国はもう相手にならないだろう小国だ。兄弟国家であるモルティが滅んだ以上、大した脅威ではない。


 なんかもう勝った気分になってた……。


「リーズ、少し油断しすぎだ。それでは足元をすくわれるぞ」

「でも叔母様、正直もうビーガンは私たちよりだいぶ小さい国なので……脅威ではないのでは? 周辺の調略などせずにこのまま侵攻しても……」

「ビーガンは一年前の我が国より三倍ほど大きいぞ。小国から成り上がった我らが、小国を舐めるなどあってはならない」


 確かにアミルダ様の仰る通り。


 古来よりジャイアントキリングは存在する。信長の桶狭間が有名だが、勝利確定だったはずの戦に負けることだってあるのだ。

 

「すみません、油断していました」

「分かればよい。実際、普通にやれば現状でも勝てる相手だ。だがクアレール国王の寿命が問題だ。クアレール王が亡くなればあの国は少しごたつく。クアレール国が持ち直すまでは待ちたい」

「クアレール国が乱れた状態なら重しがなくなるので、ビーガンは我が国に戦力を集中できるからですね?」

「わざわざ敵に有利なタイミングで仕掛ける必要はない。まあクアレール国は次期国王も正式に決まっているので、一ヵ月か二ヶ月程度で少し落ち着くだろう。クアレール国が二つに割れでもしない限りな」


 どうやらもう少しだけ時を待つ必要があるようだ。


 せっかくなので俺も来るべき戦に向けて、何か切り札となり得るものを準備しておきたいな。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る