第127話 ボルボルの内政


「アッシュ様! ボキュがアーガの経済を回復させる妙案を考えて来たんだな!」

「あらぁ!? それはまたすごいわねぇ!?」


 ボルボルはボラスス教皇を連れて、アッシュの私室に押し掛けた。


 本来ならばボルボルの提案など無視するべきだ。だが今の彼はボラスス神聖帝国からの貢物。


 下手にぞんざいに扱うと彼の国から支援を打ち切られる恐れがある。


「今のアーガ王国は借金が多すぎるんだな! お金がないと流石のボクも何もできないし、民も税を払えないんだな!」

「そ、そうね! 確かにお金がないと何もできないわ!」

「なので借金無効の令を出すんだな! それで借りた金をチャラにするんだな!」

「あ、あら……思ったよりマトモ……」


 借金無効の令。日本で言うならば徳政令として、様々な時代で実施された政策だ。


 金貸しの持つ債権を無効にして、借金の取り立てを禁じる。


 そうすることで庶民や兵士の困窮を救うのだ。債権を無効にされた金貸しはたまったものではないが。


 なお徳政令はかなりうまくやらないと、むしろ国に対して大ダメージになりかねない。


 確かに短期的に見れば借金無効なので財政が助かる。


 だが貸しても返ってこないなら誰も貸さなくなるので、長期的に見ると資金繰りに困りかねない。


 そしてボルボルはそんなリスクのある策に対して、自信満々に説明の続きを行う!


「それで借金無効にしてから、また借金するんだな!」

「えっ? せっかく借金がなくなったのに?」

「それでまた借金無効の令を出すんだな! そうすればまた借りた金の分だけどんどん儲かるんだな! 何度も繰り返せば完璧なんだな!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。流石にそれはマズイような……」

 

 論外である。


 借金を貸す側も無限に資金を持つわけではないので、そんなことをしたら商人は全員破産するだろう。


 もしくは誰も金を貸さなくなるので、経済が大停滞してどうしようもなくなる。


 更に言うならただでさえ泡沫のアーガ王国の信用が、無に帰することにもなってしまう。


 ボルボルは商人の金が無限だと思っているのだ! ゲームならバグ技でいけそうなレベルであった。


「素晴らしい考えだ! ボラスス教皇として賛成いたそう! さあアッシュ殿、ここはやるべきでしょう!」

「い、いや待ってください! いくら何でも……」


 必死に否定しようとするアッシュに対して、ボラスス教皇は愉悦と笑みを浮かべた。


「おや? まさか貴女はボルボル殿を信用できないと?」

「そ、そんな!? あんまりなんだな!? ボキュが一度でも自分の失態でやらかしたことがあったんだな!? ないんだな!」

「し、しかし……」

「これではボラススとアーガの間の信頼関係にヒビが入りそうですな。せっかく常勝軍ボルボルを蘇らせたのに!」


 ボラスス教皇の脅しは効果てきめんであった。アッシュの顔がみるみる内に青くなっていく。


 アーガの経済を優先するか、ボラススの支援の継続か。彼女にとって究極の二択!


 なお元から経済はボロボロであり崩壊気味。なのでこの状況でボラススの支援を失ったら詰みである。よく考えたら実質一択しかなかった。


「わ、わかりましたわ……ボルボルの案を採用いたします」

「ありがとうなんだな! これでアーガ王国にはお金が戻るんだな!」

「アッシュ殿、貴女はすばらしい選択をいたしました!」


 こうしてアーガ王国は多額の借金をつくった後、借金無効の令を出して帳消しにした。


 そして更に商人に金を借りようとすると、当たり前だが死ぬほどバッシングを受ける。


「お断りします! 貸しても返ってこないではないですか!」

「我らは慈善事業じゃないんだ!」

「……貸さないなら殺すわよ!? なに自分だけ被害者ヅラしてんのよああ!?」


 アッシュはとうとうやけくそ気味に、逆らう商人たちを国家反逆罪で全員捕縛。


 全ての財産を徴収していき、国庫は一時的に少し潤った。


 改めてアッシュの私室で彼らは狂喜乱舞していた。


「やったんだな! ボキュのおかげでアーガ王国にお金が戻ったんだな!」

「流石はボルボル殿!」

「…………あははは」


 喜ぶボルボル、愉快なボラスス教皇、壊れた笑みのアッシュ。


 三者三様の笑いの中、アーガ王国の経済は終わりを告げた。


 もはや金を持っていた商会は全て他国に亡命した。更に商人たちはこぞって廃業して農民などになっていく。


 そしてアーガ王国の貨幣の大半は、アッシュたちの元に集まって市場に出回っていない。


 こうなれば市井の者はどうやって生きているのかというと……物々交換になっていた。


 物々交換自体はおかしな話ではなく、お金の価値が凄まじく暴落したりすれば起こりうることだ。


 日本でも第二次世界大戦中や負けた後、物々交換での闇市などが公然と行われていた。


 だが金貨や銀貨はそのものに価値が保証されている。


 なので本来なら物々交換は起こりづらいことなのだが、そもそも国に貨幣が出回ってないのでそうせざるを得なかった。


 この状況を発生させるのは、ボルボルの才能とも言えるだろう。


 当然ながらこの状況に耐えられない民の一揆なども勃発するが、そこは兵士を差し向けて鎮圧している。


 ボラススの支援にとって兵糧は豊富であった。兵は食べられるので逆らわなかった。


「これでお金がかなり集まりました。後は軍備増強も、物資の更なる充実も思いのまま! ご安心を、我がボラススが責任を持ってお売りいたしますとも」

「ありがとうなんだな! これで完璧なんだな! ハーベスタ国を攻め滅ぼせるんだな!」


 和気あいあいとする教皇とボルボル。


 しばらくフリーズしていたアッシュは、それを見て頭をかきむしった後。


「そ、そうよ! 勝てばいいんだわ!? ハーベスタ国に勝てばあそこの経済とか全部奪える! そうすれば何とでもなるのよ! そうよ!」

「当たり前なんだな! 負ける前提なんてあり得ないんだな!」

「くぷぷ……失敬、そうですとも!」


 アーガ王国は背水の陣となって、ハーベスタ国と戦うことになったのだった!


 なおボルボルはこの後にも色々とやらかしていく。

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