第126話 ボラススの野望
「全員集まったな。今日はボラスス神聖帝国について、情報を共有しておこうと思う」
白竜城の玉座の間に呼び出された俺たちは、玉座に腰をつけたアミルダに出迎えられた。
「ボラススでありますか。宗教国家であることしかしりませんな」
「うさんくさいイメージしかないです」
バルバロッサさんとエミリさんが口を開いた。
俺としてもだいたいそんなイメージしかない。少なくともハーベスタ国内ではボラスス教は布教されてないので、ほとんど知識を得る機会もないからな。
まあそんな機会自体欲しくもないのだが。
「ボラスス教はその名の通りにボラスス神とやらを祭っている宗教だ。自由を愛して何でも好きにやるべきという教えだ」
「何でもとは?」
「本当に何でもだ。食べたい物を食べ、買いたい物を買え、我慢は人の得た禁忌であると。獣になるのだと」
「なんか俺の知ってる宗教と違う……」
俺が知ってるのはだいたいが地球の宗教だが、大抵のものは清貧を心がけている。
少なくとも長く存続して認められている教えは、だいたいが贅沢は微妙みたいな考えのイメージだ。
仏教で肉を食べずに精進料理をとかだな。
カルト宗教とかは知らん。知りたくもない。
「そんな考えなのでな。ボラスス神聖帝国とアーガ王国は、おそらく馬が合うとは思う」
「アーガは本当にやりたい放題だもんな……でもそんな自由を推奨してて、ボラススはまともに成り立つのか? 国内が大荒れする未来しか見えないのに」
自由を推奨するということは、その分だけ民が好きに動きやすいということだ。
現代地球ですらデモとか色々起きているのに、この世界の文化レベルなら一揆とか起きまくって収拾付かないような。
俺の問いにアミルダは少し嫌そうな顔をする。
「それについてはボラスス教徒同士は助け合う、という教えらしい。獣も群れをつくる感覚か」
「……それって異教徒には何でもしてよいとかいう教えでは?」
「よくわかったな」
だいたいそんな予感はしてたよ!
地球でも宗教の考えは似通ってる。大宗教が異教徒は迫害とかしてた歴史あるもんな!
そんなことを考えているとエミリさんが元気よく手をあげた。
「じゃあアーガとボラススは何で手を組むんですか? アーガはボラススにとって異教徒では?? なんで潰し合ってくれないんですか???」
「私も物凄くそう思う。だがおそらくあいつらは馬が合うので、獣同士で協力できるのだろう」
違う種類の動物同士が群れをつくって、助け合うこともあるらしい。
もしくは相利共生という言葉がある。違う生物が互いに共生することで利益を得るという意味だ。
例えばアリとアブラムシだな。アリはアブラムシから出る蜜をエサにして、アブラムシはアリに外敵から守ってもらう。
……でもボラススってアーガと組んでメリットあるのか? どちらかというと片利共生かな?
片利共生は片方しか恩恵を受けない。コバンザメがサメに張り付いておこぼれをあずかるが、サメは損もしないが得もしない。
ボラススが獣と自称するならこの考えがしっくり……いや来ないな。
確かに同盟はアーガには大きな利益があるが、ボラスス側はむしろ損をしている。
動物的な考えをしたとしてもボラスス側の理屈が分からない。
「う、うーん……なんかボラススが不気味だなぁ。いくら何でもアーガにメリットなしに支援するか……?」
「それについては私も全力で探っている。だがボラススは間者泣かせの国でな。奴らには莫大な量の教義があって、それを頻繁に問われる機会がある。答えられなければ異教徒で処刑なので間者を潜り込ませられない」
教義とか聞くと本当に宗教臭がぷんぷんするなぁ。
キリスト教とかの聖書もかなり文量多いし、間者に完全に覚えさせるのは難しそうだ。
でも俺が想像するくらい大量の教義があるなら、ボラスス教徒でも少しくらい間違えそうな気もするが。
「教徒でもど忘れする可能性とかないんですかね」
「忘れたら異教徒だ」
アミルダの言葉に絶句してしまう。
ボラスス、恐ろしい宗教……絶対カルトだよ
「そういうわけでボラススとは、本音を言うと戦をしたくない。何せ奴らの情報はほとんど分からないからな。それでいて国力もあるのだから」
アミルダは嫌そうな顔をしている。そりゃそうだろうな……。
「なんというか……ろくでもない国でありますな」
「正直アーガを潰して、ボラススと隣接するのが嫌だ。どこか他の国がボラススと接する辺りの土地を奪って欲しい。いっそアーガを少しだけ残すのも考えたが、それはそれで物凄く嫌だ」
「地獄の二択……」
針山地獄とマグマ地獄のどちらがいい? みたいな感じだなぁ……。
こうしてお通夜ムードでボラスス勉強会は終了した。正直知りとうなかった。
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夜の平野。
馬防柵などの残骸や、誰も落ちなかった落とし穴がある場所。
以前にハーベスタ国とアーガ王国の軍が争った場所に、黒い祭服を来た者が十人ほどうろついていた。
「直近でかなりの数が死んでいる土地だ。これならばボラスス神への貢物となるだろう」
「おお素晴らしい。偉大なるボラスス神よ、どうか我らの祈りを聞き届けたまえ……」
「人が魂を捧げます。我らの自由をお認めください」
祭服を来た者達が手を組んで祈りを捧げ始めると、平野全体が血のように赤く光り始める。
そしてしばらくした後、何事もなかったかのように光は消えた。
「まだ足りませぬか。まだ足りませぬか。ならば我らは更なる生贄を捧げましょう」
「どうか我らに自由をお与えください。我らは理性を捨てて暴れ食らい犯したいのです。人が失ってしまった自由をどうか」
「我らを野蛮へとお戻しください。獣へお戻しください」
不気味な祈りがこだまするのだった。
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