第13話 本当に呪縛から逃れた気分
俺達は魔動車に乗って爆走して、無事にハーベスタ国へと帰還することができた。
馬車で一時間程度の距離は車なら十分もあればだからわりと楽勝。
そして屋敷に戻った後、即座にいつもの部屋で評定が開かれて俺のことを説明することになった。
自分がリーズとは別の人格であることだけ隠して、それ以外の全てを赤裸々に話すと。
「なんという奴らだ! 特にアッシュにボルボル、そしてバベルという者は許せぬのである!」
「酷いです……こんなの人のやることじゃありませんよ!」
「本来ならそこまで有能な者をそんな待遇は信じがたいが、あの者らを見た後ならば容易に想像できる光景だな」
全員がリーズの今までの境遇に同情してくれている。
……俺はリーズではない。だがそれでもすごく嬉しい、あいつのことで悲しんでくれているのが。
「申し訳ありません。今まで全て隠していて……」
「構わぬ、私が貴様の立場でも王国の者だとは言わなかっただろう。あの俗物共を目の当たりにしなければ私も信じていたかは怪しかった。内通者であると判断して拒否もあり得た」
「確かにそうですね……私もそこまで優秀な人なら、そんな不遇はされないでしょうと思ってしまうかも」
アミルダ様もエミリさんも俺が騙したことを許してくれるようだ。
「それに隠し事と言うなら私もしている。貴様の監視にエミリをつけたし、他にも間者を放って常に見張らせていた。更に言うならアーガ王国に潜り込ませている者にも、貴様が内通任務を受けていないか調べさせた」
「……お、思ったよりかなり暗躍してたんですね」
「当然だろう、怪しかったのだから。その調査結果がつい先日報告されてな、貴様がアーガ王国で不遇の扱いを受けて殺されかけたのは知っていた。そして奴らと直接話して確証を得た」
アミルダ様はニヤリと笑い始めた。
それに対してバルバロッサさんは、先ほどのやり取りを思い出したのか激昂する。
「しかしあの者達、一兵卒に至るまで何という無礼者共であるか! 十年ほど前はもう少しマシであったぞ! アッシュなどだけではなくて、国中がおかしくなるなど!」
「そうですね……いくら何でもあそこまで酷くなるのでしょうか……」
それについては俺も同意見だ。
アッシュが頭角を現してからの五年ほどで、アーガ王国の軍や国民が信じられないほどに腐ったのは間違いない。
だが何でここまで酷くなったのか、それは見ていた俺でも分からないのだ。
気が付けばいつの間にか、リーズの周囲の人間はクズになっていたのだから。
そんな疑問に対してアミルダ様がため息をついた。
「アッシュだ、奴の言葉には微弱な魔法がのっている。あれに毒されていったのだ」
彼女はそんな恐るべきことを口にした。
まるで冗談の類だがそんな雰囲気ではない。
でも信じがたい、だってアッシュは魔法使いの類ではないのだ。
あいつは魔法なんて全く使ったことがない。
「アッシュは魔法使いではないはずですが……」
「本人も自覚しておらぬだろうな。実際相当微弱な魔力で注意深く気にしてようやくわかったくらいだ。これでも魔法の腕にそれなりの自信はある。その私がきっとあると判断して感知し、かろうじて気づけたくらいだ。素人どころか凄腕の魔法使いでもそうそう気づけぬだろう」
「わ、私全くわかりませんでした……」
俺もエミリさんと同様に全く気付かなかった……長くアッシュと関わっていたリーズも把握していなかったはずだ。
あれ? でもそれならリーズもクズになってしまっていたのでは……。
「かなり弱い魔法なのでな、まともな性根の人間には影響がない。だが元から傲慢な者ならば、繰り返しその声を聞けばじわりと毒のようにしみ込む。故に貴様には影響がなかったのだろう。あれは洗脳ではなくてただの囁きだ。正しき者ならば効かぬ」
「な、なるほど……」
「元よりアーガ王国軍は略奪強姦を好む者が多かったからな。素質は十分にあったのだろう」
「えっ、そうなんですか?」
初耳だ。
リーズもアーガ王国軍は元々は正しき清き軍隊だったと、ずっと信じ込んでいたのに!?
「うむ、あの国の軍はガラが悪いことで有名だ。周辺国の民からもその残虐性などから嫌われているぞ。そういった者が多くなければあの女狐ごときにここまで汚染されぬ」
微妙に知りたくなかった事実である。
あれか……リーズも国内のプロパガンダとか身内びいきで騙されてたのか……。
俺もリーズ視点でしか物事を見れなかったからなぁ……アーガ王国軍は大陸中で評判の軍隊だと信じ込まされていた。
「それでリーズよ。貴様はあのアッシュとボルボル、そしてまだ見ぬ、別に見たくもないがバベルとやらに復讐をしたいのだな? それと共にアーガ王国を何とかしたいと」
「はい、あいつらは絶対に許しません。それにアーガ王国は俺にとって正しき母国です。それが悪なのは嫌です、周囲に迷惑かけるならいっそ潰したい」
俺というよりはリーズだがな。
あいつは清きアーガ王国に身命を捧げたのだ。そんな国が実は最低の侵略国家だなんて死んでも死にきれない。
それなら滅ぼしたほうがいくらかマシだ。
アミルダ様は黙って俺の方を見ている。
……復讐はよくない、なんて言われるのだろうか。だが御免だ、殺されてまで許せるほど俺は聖人では……。
「そうか。ならばアッシュ、バベル、ボルボルを捕縛した暁には貴様に引き渡す。煮るなり焼くなり貴様の好きにしてよい」
「……え? いいんですか!?」
思わず声をあげてしまった。
アミルダ様の言っていることはかなり破格だ。アッシュたちはクズの極みだがアーガ王国の重鎮であり、捕縛すれば利用価値はかなりある。
交換にかなりの金銭を要求できたり、領地を譲り受けるなどすら可能かもしれない。
もしくは奴らは実情はともかくとして、ハーベスタ国や周辺諸国にはアーガ王国の誇る超精鋭と恐れられている。
大公開して処刑なりすれば、国内外にハーベスタ国の武を示すことも可能だ。
そんな奴らを俺の好きにしてよいと、アミルダ様は言ってくれている。
「と、止めないんですか? 復讐はよくないーとか」
「何故止めねばならぬ……私は貴様がアーガ王国と争ってくれた方が都合がよいのだぞ……?」
「叔母様。リーズさんの境遇が可哀そうだと思ってるなら、照れ隠ししないでそう言ったらどうですか? 普段より言葉のキレがないですよ?」
「エミリ、余計なことは喋るな」
アミルダ様はコホンと咳払いをすると、俺をしっかりと見てきた。
「確かに奴らは惜しい。あいつらは無能なので殺さずに帰したほうが、アーガ王国の足を引っ張ってくれるだろう。だが貴様がそこまで復讐を望んでいるならばくれてやる……褒美も満足に与えられていないのだ。せめてそれくらいはな」
アミルダ様が淡々と告げてくる。
その発想はなかった。でも確かにあいつらが軍にいてくれたほうがアーガ王国弱体化しそう。
「そうですよ! 殺されかけたなら復讐して当然です! リーズさん、指を一本ずつ折っていくのがおススメですよ! 二十ありますし指程度なら死なないはずなので!」
エミリさんが頑張ってと応援してくれる……でも言ってることが少し怖い。
やっぱりこの子、少し腹黒いのでは?
「吾輩も手伝うのである! 捕縛した暁には一発でよいので全力で殴らせて欲しいのである!」
バルバロッサさんが咆哮して空気を震わせた。
…………でもこの人が全力で殴ったらあいつら一撃死不可避なのが悩みどころだ。
言ってることはすごく物騒だが皆の気持ちが嬉しい。
「みなさん……ありがとうございます!」
「うむ! どのみちアーガ王国は放置できぬのである! さすれば奴らとも戦うこともあるであろう!」
「貴様にはこれからも期待している。奴らに勝つには貴様の力が必要不可欠だ、任せるぞ」
「ははっ!」
俺の心は晴れやかであった。
リーズはようやくアーガ王国の鎖から本当の意味で解き放たれたのだ。
覚悟しろよアーガ王国。我がハーベスタ国がお前たちを打ち破ってやるからな!
アッシュ、バベル、ボルボル! お前らは首を洗って待っておけ!
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