第14話 次の侵攻に備えよう


 俺が自分のことを全て語った後、改めて今後どうするかの評定が行われていた。


「リーズ、豪炎鎧とは別に切り札になる得る物を作って欲しい」

「え? 豪炎鎧を量産するのではなくてですか?」


 あの鎧を量産の暁には、アーガ王国軍など簡単にぶちのめせる予定なのだが。


 だがアミルダ様は首を横に振った。


「豪炎鎧は確かに優秀、だが決して無敵ではない。全兵士に揃えられるならばともかく次の侵攻には間に合わぬ。そして敵はバカで無能でクズだ」

「全くその通りです」

「だが獣とて同じ過ちは繰り返さぬ。奴らがいくら無能でも豪炎鎧への対策は考えてくる……はずだと思うのだが」

「叔母様、少し自信なさそうですね」

「奴らが獣と同等の知能を持っているか、少々疑わしいところはある。だがそれくらいの知恵はあると考えておいた方がよい。ならばどちらにしても数が用意できぬなら豪炎鎧よりも新たな切り札となりえるものが欲しい」


 アミルダ様の言っていることは最もである。


 豪炎鎧は驚異的な性能の代わりに短期間での大量生産は難しい。


 リーズの力ならば月に百は揃えられるが……あそこまでアッシュたちを馬鹿にしたのだから、アーガ王国軍はすぐに攻めてくるだろう。


 ならば対策される可能性のある百の豪炎鎧より、十のまだ見ぬ超兵器のほうが有用ということだ。


 もちろん俺がその切り札を準備できる前提ではあるが、アミルダ様はそれができると思ってくださっているのだ。


 そして俺のチート生産能力と現代知識をもってすれば可能だ。


「お任せください! 必ずや奴らの度肝を抜く新兵器を用意します!」


 業炎鎧の次は武器でも作るべきだろうか。


 もしくは魔導車をいくつか作って暴走させるか? AT車のように運転できるので素人でも扱えるだろう。


 多少運転が下手でも平気だ。アクセル全開で交通事故を起こしても構わないのだから。


「リーズ、吾輩にも鎧と武器が欲しいのである!」

「バルバロッサさんは強化しなくても十二分にお強いので……」


 一を十にするよりも千を千百にする方が大変だ!


 鎧とか武器とか用意するにしても、この人の場合はとりあえず丸太とかでも十分無双するからなぁ……。


 それこそ豪炎鎧なども不要だ。そもそもあんな台風みたいな武器の振り回しでは、そこらの兵士は彼に近づくことすら叶わない。


「少し時間をください。今日中にはネタを考えておきます」

「任せる、必要な物があれば言うがよい。それとエミリはこれまでと同じようにリーズにつけ。今度は見張りではなく手伝いでだ」

「えっ……でも叔母様、私も政務を手伝ったほうが……」

 

 エミリさんは心配そうな顔を浮かべるが、アミルダ様は有無を言わさぬ姿勢だ。


「問題はない。バルバロッサは兵士たちの気を引き締めておけ。この圧勝で油断されては困る」

「ははっ! このバルバロッサにお任せあれ!」

「あれだけ挑発したのだ。アーガ王国はすぐに軍を再編してくるはずだ。各自、戦えるように準備はしておけ」

「「「はい!」」」


 そうして評定は終わって俺はまた切り札を考えることになった。


 業炎鎧が仮に破られるとすれば、それはおそらく飛び道具の類と思われる。


 なら今度はそれへの対策を想定して考えてみるか。


 それに業炎鎧みたいな特別な切り札だけではなくて、一兵卒の装備の強化もしておきたい。


 前の戦においても全員に金属鎧を揃えたことで、兵士たちは大活躍をしたのだ。


 兵士ひとりごとの戦力を1から3にすれば、我が軍の戦力は千から三千になる。


 特別な魔法の武器――魔道具の類ではなくて、兵を強化できる武器……やはりアレだな。




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 アーガ王国にあるボルボルの実家の屋敷。 


 そこの一室でボルボルの父親が息子を出迎えている。


「パパン! 可哀そうなボキュのために強力な助っ人を用意してくれたって本当なんだな!?」

「もちろんだ可愛い息子よ! お前が両手両足の骨をへし折られて、A級ポーションを大量に使わねば治らぬ怪我を負わされるなど! 絶対に許せぬ! ハーベスタ国め、なんと卑劣な奴らだ!」


 ボルボルの父親であるシャグは涙目になりながら叫ぶ。


 彼はアッシュと懇意の仲であり同じような人間性を持っていた。


「そうなんだな! あいつら絶対に許せないんだな! せっかくボキュの性奴隷になる栄誉を与えてやったのに!」


 ボルボルとアッシュはは先日の交通事故? で全身複雑骨折となっていたが、A級ポーションを湯水のごとく使って治療し終えていた。


 アーガ王国に備えられていた物を惜しげもなく使用したのだ。


 A級ポーションはかなり貴重で造れる者は世界に数人しかいない。


 つまりこれらもリーズが造っていた物である。


「安心せよ、我が愛する息子よ! この者がいれば必ず勝てる! 入って来い!」


 シャグが手を叩くと部屋に美しい銀髪の少女が入って来た。


 華奢な身体つきをローブで包んで杖を持ち、幻想的な雰囲気を感じさせる娘。


 そんな彼女はすごく暗い表情をして俯いている。


「か、かわいいんだな!」

「かわいいだけではない。この娘は英雄である銀雪華シルバースノウだ。お前も知っているだろう?」

「し、銀雪華!? 百の魔物を凍らせた超凄腕の魔法使いなんだな! ボキュには及ばないけどかなりの英雄なんだな! でも彼女はフリーの魔法使いなんだな? よく雇えたんだな!」

「ふふふ。この娘とその妹は難病を患っているのだ。A級ポーションを定期的に摂取しないと死ぬし完治に至ってはS級が大量に必要だ。そんな物は私でもないとそうそう用意できないからねぇ。渡す代わりにこの娘は私の奴隷だ」


 シャグは下卑た笑みを浮かべながら、銀雪華の胸をローブごしに揉み始めた。


「……っ」


 だが銀雪華は強烈な嫌悪感を我慢するように、目を強くつぶってそれに耐えている。

 

「うほおおおお! パパンすごいんだな! ボキュもやりたいんだな!」

「ふふふ、そうだろう。パパはすごいだろう! あの銀雪華も私にかかればただの娼婦だ。これをあげるからハーベスタ国を潰しておいで。……お前はもう出て行っていいぞ」

「…………はい」


 銀雪華は目に涙を浮かべながら部屋を出て行く。


 それを確認してからシャグは再び話を続けだした。


「だがね、もうA級ポーションがなくなったんだ。お前やアッシュさんの治療に使ってしまったからね」

「S級はどうなんだな?」

「S級ポーションなんてそもそも手に入るわけがないだろう。伝説級の代物なのだから」


 シャグは銀雪華に対して、S級ポーションが手に入るので完治させてやると約束して雇った。


 それまでのつなぎでA級ポーションを定期的に摂取させるとも。


 だがそれは最初から大嘘である。彼女を手駒にするために騙していた。


「なので銀雪華はもうすぐ死ぬ。それまでにあれを使ってハーベスタ国を滅ぼしておいで」

「パパン……ありがとうなんだな! 恰好いいパパンをもってボキュは幸せなんだな! それとお願いがあるんだな、ボキュが銀雪華を犯したいんだな」


 ボルボルは鼻息を荒くして、ズボンの上から股間部分が膨れ上がる。


 だがシャグは悲しそうに首を横に振った。


「流石の銀雪華もそれには抵抗して凍らされかねない。私も彼女に性的な奉仕はさせられなかった」

「そ、そんな!? そんなの酷すぎるんだな! せっかくボキュが興奮してるのに!」

「だがねボルボル。彼女はもうA級ポーションを摂取できない。おそらくそのうちにすごく弱っていくだろう。その時ならばやれるはずだ。本当は私がしたかったが……愛する息子のためだ」

「パパン…………ありがとうなんだなぁ! こんな素晴らしいパパン、世界を回ってもいないんだなぁ!」


 シャグとボルボルは抱き合って笑い合う。


「でもパパン、銀雪華の病気は治せないんだな? もったいない気もするんだな」

「残念だが無理だろう。S級ポーションなど手に入らない。ならせめて最期まで私たちの役に立つように有効活用してあげるべきだ」

「そうなんだな。死ぬならせめてボキュたちの役に立たせてあげないとなんだな」


 だが彼らは知らない。


 現存する最高級のポーションはA級ではないことを。


 


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 銀雪華――セレナは部屋から追い出された後、自宅に戻っていた。


 彼女は十ほどの歳の妹に出迎えられて抱き着かれている。


「お姉ちゃん、お帰りなさい……大丈夫? あの親ブタに変な事されなかった?」

「……大丈夫よ。貴方こそ何もされなかった?」

「うん、《今日》は来なかったから」

「…………っ。ごめんね、治ったらすぐに出て行こうね。今度の戦いで敵国を滅ぼしたら、ポーションをもらえるって約束してもらってるの」


 妹はパッと顔を明るくした後、すぐに落ち込んでしまった。


「でもお姉ちゃん、アーガ王国の兵士さんはすごく酷くて乱暴だから手伝いたくないって……それに今戦っている相手国はアミルダさんの……」

「…………違うよ。相手はハーベスタ国じゃないからね」


 銀雪華は元々は進軍手伝いを断っている。


 彼女はアーガ王国の暴虐に手を貸すなど御免だった。ましてやハーベスタ国は親友の国でもあり、侵攻など絶対に協力したくない。


 だがS級ポーションを脅しにされてしまい従わざるを得なくなった。


「……大丈夫。絶対に、治してあげるからね」


 銀雪華は涙をこらえながら自分にそう言い聞かせた。



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