第50話 ハーベスタ国包囲網
モルティ国とビーガン国の二国とアーガ王国は不倶戴天の敵であった。
互いに領土を奪い取ってやろうと考えていて、どう考えても同盟など組めない関係だ。
だが前回の戦いで互いにハーベスタ国に手酷くやられてしまったことで、一致する利害が発生してしまう。
互いにハーベスタ国の存在が邪魔で、何としても消し去ってしまいたいと。
そこに気づいたバベルの行動は早かった。即座にアーガ王国とモルティ国、そしてビーガン国の話し合いの場を設けたのだ。
モルティ国とアーガ王国の国境上に作られたボロい布陣の中、テーブルと椅子が置かれただけの場所で互いの重鎮が顔を合わせた。
モルティ王とビーガン王に、アッシュとバベルとシャグが相対していた。
「アーガ王国と我々が同盟を組むと?」
「ええ。私たちはハーベスタ国の存在が邪魔、貴方達はハーベスタ国の領土が欲しい。利害は一致していると思うのですけれど?」
「ふむ……」
モルティ王とビーガン王はアッシュの言葉に悩み始める。
アミルダならばアーガ王国との同盟などあり得ない、奴らのことなど信じるに及ばずと言うだろう。
だがそれはアミルダだから断じれたこと。アーガ王国は卑劣な作戦や略奪などはやりまくるが、同盟破りはまだ行ったことがなかった。
なので国際的には信用できない国には見なされない。
そしてモルティ国とビーガン国はハーベスタを裏切った。
だが彼らはハーベスタを国として認めていなかった。なので互いに国相手に裏切ったことはないことになっていた。
「アーガ王国側の利点は?」
「私たちはハーベスタ国と相性が悪いのよ。なのでモルティ国とビーガン国が滅ぼした後、貴方達を相手した方がマシ。安心しなさい、ハーベスタ国接収後の一年間は攻めないと約束するわ。それに援軍も出す」
「とはいえそれだけでは我らに損がある。なのでハーベスタ国の貴族は我々がもらい受ける」
アッシュの説明にシャグが付け足す。
この同盟は約束を守る前提であるならば、互いにメリットが生まれるものであった。
アーガ王国は兵士に負け癖がついてしまっているので、ハーベスタ国とは戦いたくない。
なのでモルティ国とビーガン国が、ハーベスタ国に攻めることを願っていた。
ようは自分達のことは気にせずに潰し合って欲しいと。
「なるほど……確かに我らにも利がある」
対してモルティ国側にも大きなメリットがあった。
それはハーベスタ国の領土、そして技術を接収できることだ。
飛び地であるモルティとビーガン、そして現ハーベスタ国がひとつになれば強大な国となる。
それにハーベスタ国の軍事技術を全て奪えるならアーガ王国など全く怖くない、と二人の王は考えていた。
何せ少数の兵で大軍を破れるほどの技術だ。
ハーベスタ国を飲み込んだ後のモルティとビーガンならば、兵士も多く揃えられて世界最強の軍隊すら夢ではなくなる。
「……いいだろう。モルティ国はこの三国同盟を受けよう」
「ビーガン国も承知した」
「アーガ王国は当然受けます。ありがとうございます、憎きハーベスタ国を滅ぼしましょう!」
「我が息子を屠った者どもは絶対許さぬ!」
ここに最悪の三国同盟が成立してしまった。
またハーベスタ国は三方を包囲された状態で劣勢を強いられることになる。
「しかし疾風迅雷のバベルの異名は流石と取るべきか。即座に会談をまとめあげるとは」
「ありがとうございます。これでもアッシュ様の右腕なので」
バベルは勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。
なお布の陣幕は襤褸切れでところどころ切れ目があり、また警備も万全とは言えず他国の間者の内通を許していた。
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アミルダ様の屋敷に戻っていた俺達は、いつもの部屋で評定を行っていた。
参加メンバーは珍しく全員がそろっている。
「……アーガ王国、モルティ国、ビーガン国が三国同盟を組んだ。狙いは当然だが我が国だ」
「えぇ!? あいつら敵対してたじゃないですか!?」
朝からいきなりド級の情報に頭が混乱してしまう。
モルティ国とビーガン国は兄弟国家だが、アーガ王国とは不倶戴天の敵のはずだぞ!?
「……人とは強大な敵を前にすれば手を組む。どうやら我らはその敵にされてしまったようだ」
「なんでこういう時だけ息が合うんですかねあいつら……」
「また三方から包囲されるんですね……」
俺とエミリさんが思わずうんざりとした声をあげてしまう。
いやさぁ……またクズ三国で潰し合って欲しいのに何で手を組むかな……。
三クズ同盟め、本当に人の嫌がることしかしない……!
「我が国も元ルギラウの領土を統治したことで兵士の数は三倍に増えている」
「おお、三倍もですか! それなら……いやでも指揮官は増えてませんよね?」
「そうなのである! なので結局、最大でも二部隊しか作れないのである!」
例えばだが今までのハーベスタ軍は千だった。しかし三千なら三つに分けて三国同時に相手取れますね、とはならない。
何故なら軍を指揮できる者がいないからだ。我が軍で大軍を指揮できるのはアミルダ様とバルバロッサさんのみ。
なので軍はほぼ二つにしか分けられない。ロクに指揮できない者が率いた軍など文字通り烏合の衆だからな。
統制の取れてない大規模デモを見れば分かるだろう。仮に進軍して戦えたとしても兵のモラルが崩壊して、アーガ王国軍と同じく略奪などが始まりかねない。
それに何かあればすぐ散り散りになって壊滅するのがオチだ。それこそボルボルが率いた軍の無惨さを思い出せば分かりやすいだろう。
「モルティ国に侵攻するのは変更しない。ビーガン国はクアレールが睨みをきかせてくれる。なのでアーガ王国軍の侵攻だけは防がねばならぬ」
「前に元ルギラウ国に攻めた時と同じですね。今度は敵同士で潰し合わせるのが出来ませんが……兵士の数には余裕があります」
「そうだな。だが今回の侵攻もモルティ国に可能な限り全軍を仕向けたい。奴らは元ルギラウ国よりも戦力があるからな……かといってアーガ王国も舐めてはかかれない。前回の時点で騎馬に弓も連れて来ているし、今後は隙を見せれば負けかねない」
アーガ王国は今までが舐めプに近かっただけだもんなぁ。
クロスボウや鉄鎧部隊で無双できるのももう終わりだ。そうなると兵数の差を覆すのに更なる工夫が必要になる。
でも俺もそうそう簡単に量産できて、かつ戦局を覆す物は思いつかない。
銃とか火薬とかは取り扱いが難しいから迂闊に渡せないし。自軍で暴発でもされたら悲惨過ぎる。
「色々と考えたが兵力差を覆すならばこれが一番だろう。リーズよ、アーガ王国との国境付近に防衛設備を建てろ。それを使ってアーガ王国を撃退しつつ、モルティ国に侵攻する」
アミルダ様は俺に視線を向けてきた。
俺達防衛側の利点を存分に活かすため、事前に様々な仕掛けを準備しろということか。
前回のアーガ王国侵攻と似たような状況だが2点ほど大きな違いがある。
1つは敵同士を潰し合わせることができないこと。2つ目は……まだ敵は進軍してきていないことだ。
ならば敵が攻め込んでくるまでの時間で、強固な防衛設備を築くことができるというわけで。
工兵としての運用が理想である俺の、最大の見せ場というわけだ。
とは言え……今回は巨大施設を造るのは難しいかもな。
物資が揃えられないかも。大がかり過ぎる物は魔力だけで全部造るの難しいし。
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無事50話に到達しました!
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