第51話 物資不足
評定が終了した後、俺はエミリさんと一緒にハーベスタの王都――ギャザにやってきていた。
王都と言ってもアミルダ様の屋敷のある街、つまりは元ルギラウ国を接収するまでずっと街と言っていた場所だ。
今まではハーベスタ国にある街はギャザだけだったので、街と言えば通用したのだが……タッサク街が加わったことで無理になった。
俺達がギャザに来ている理由は簡単だ。
アミルダ様からの命令である防衛施設を建てるため、資材などを用意する必要があるからだ。
仕入れから全て自分でやらないとダメなのは弱小国の辛いところである。
「へいらっしゃい! タッサク街から仕入れた米だよ!」
「本当に穀物のまま食べるんだな……いっそ麦も混ぜたら水増しできるんじゃないか?」
「おいおいおい。そんな変な食べ方しないでくれ!」
米を売ってる露店でのやり取りが聞こえるが、それ麦ごはんなんだよな。普通に栄養とかで利点があるから水増しとか言うのやめなさい。
歩きながら周囲を見回すがやはり活気にあふれている。アミルダ様の善政が機能している証明だな。
「ここが我が国で最大の商会です……商会と言えるほどの規模かは怪しいですが」
エミリさんに案内された先には……普通の家くらいのサイズの商店が建っていた。
う、うーん……確かにこれを商会と呼ぶには少し無理があるなぁ。
中に入って店主と交渉してみたのだが……。
「そ、そんな短期間で大量の木材揃えるのは難しいかと……」
匙を投げられてしまった。やはり無理だったか……今回の防衛施設建設はあまり時間的猶予がない。
アーガ王国が近いうちに攻めてくるため、一日でも早く建てる必要がある。
なので大量の資材をすぐに集める必要があるのだが、小規模な商会というかほぼ個人商店に近い商人では無理だ。
無理な物は無理なので俺達は諦めて商店を出た。
……しかし我が国の商業、明らかに国土の広さに対して貧弱過ぎるよなぁ。タッサク街もベルガ商会のせいでズタボロだし……これ大丈夫なのだろうか。
「仕方ないですね、全部魔力で造ることにします。出来れば資材を造る分の魔力で軍の装備強化をしたかったですが」
「お願いします。うちも今後は大きな商会が欲しいですね……いずれ大都会にも劣らず店ぞろえで、色々とお買い物できると楽しそうです」
エミリさんの希望は微妙にズレているが、ある程度大きな商会は必要だろうな。
大量に必要な物ができた時に小規模商会だけでは、用立てしてもらうのが困難だからな。
今回の資材だけに関わらず、今後遠征するとしたら兵糧なども商会に頼めるほうがよい。
その結果として第二のベルガ商会が生まれてもマズイので、競合他社を作って常に争う形にしなければダメだが。
「じゃあアーガ王国との国境付近まで出向きますか。資材から魔法で用意するなら何の準備も必要ありませんし」
「……人手もいらないのは本当にありがたいですね」
本来なら敵との国境付近で防衛施設を建てるのは簡単な話ではない。
敵だって馬鹿ではない。そんなものを建設していると気づけば、当然ながら軍を仕向けたりで妨害してくるからだ。
なので敵軍の攻撃を防ぎつつ工事させなければならない。
なら気づかれないように造れば……というのも現実的ではない。
仮にも軍相手に機能するほど大がかりな施設なのだから、当然ながら大勢の人手で一気に作業もしくは大量の時間をかけて少数で作業するかだ。
だがどちらも隠しきるのはかなり難しい。
大勢で工事すれば大量の資材や食料なども用意する必要があり、物凄く大掛かりになってしまうので敵も簡単に察知して攻めてくる。
少数でなら人の動きでバレることはないが、建築物が目立ち始めれば見つかってしまう。
前者なら近くの農村の者を使うなどで、人の動きを極力隠す方法はある。
だがそれはそれで農村の者が協力するか分からないし、敵に情報を漏らされたら潰されてしまう。
最前線で防衛設備を整えるのはそう簡単ではないということだ。
「じゃあ国境付近に出向きましょうか。何を建てるかも考えないと」
「そうですね。頑張りましょう」
そうしてギャザの外で魔動車をマジックボックスから出して、すぐにアーガ王国との国境付近に到着した。
周囲の状況を確認しながら何を建てればよいか考える。
「リーズさん。叔母様は防衛設備を建てろと言ってましたけど、具体的にはどんなものがあるんですか?」
エミリさんが俺の横にやってきて首をかしげた。
彼女は軍事の素人なのでこの疑問は最もだろう。俺もそこまで詳しくはないけど。
「やはり基本は城や砦などですね。敵が城の門などを破ろうとする間に、こちら側は城の中から矢で一方的に攻撃できますから」
城は軍事拠点として非常に優れているし、攻めてくる敵に有利に戦うための様々な仕組みがあった。
例えば日本の城は壁に小さな穴がいくつも空いている。
それは防衛側が敵に反撃するための通し穴だ。
城兵は壁の穴から矢や銃を放って敵を攻撃できるのだ。
敵側が反撃してきても遠くから小さな穴を通すなんて不可能に近く、ほぼ全ての矢は壁に弾かれてしまう。
防衛側は安全に敵に攻撃できて、攻撃側はほぼ反撃不可能にする仕組みだ。
穴の名前は狭間《さま》だったかな、敵側からしたらやってられないだろう。
他にも城から熱した油を落とすとかもあるし、そもそも城の最上階はかなり高い場所に建てられている。
つまりこちらは敵の動きを高台から一方的に把握し、作戦を立てることも可能と城は防衛設備の塊なのだ。
そんなことを説明するとエミリさんは感心したように俺を見てきた。
「じゃあお城を造るんですね!」
「あ、いえ……期待させて申し訳ないのですが魔力が足りません。それにあまりに強大なものを建てると敵が警戒してしまいます」
とはいえ……そんな大きな城を造るとなると大量の資材と人手がいる。
俺の【クラフト】魔法で造りたくても魔力が足りない……資材を魔力で用意しないで済むならワンチャンあったが……。
後はアーガ王国に必要以上に警戒させたくない。
「じゃあどうするんですか? お城つくれないのに……」
エミリさんが少しがっかりしている。俺としても資材が手に入るなら城を造りたかった……アーガ王国に対する拠点にできるのに。
いかんいかん、ここはさっさと作るものを言わないと。
「城は造れません。なので野戦築城をします」
「??? お城じゃないんですか?」
「野戦築城というのは城などの拠点なしの野外で、城で戦うかのように有利に防衛するための設備を造ることです。例えば堀や石垣などですね」
「は、はあ……」
エミリさんはまだイメージがついていないようだ。
ここは造って見せたほうが分かりやすそうだな。
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