第59話 引きこもるモルティ国


 焼肉おにぎりを食べた翌日。


 ハーベスタ軍はアーガ王国国境に千の兵士を残して、二千の兵でモルティ国へと侵攻を開始する。


 モルティ国への見張りにつけていた千の兵士と合流して、総勢三千の軍で国境付近に差し迫ったのだが……。


「敵が迎撃に来ないのである!」


 伯爵なのに一兵卒と同じように徒歩のバルバロッサさんが吠える。


 そう、モルティは国境に軍を展開していないのだ。


 つまり俺達は何の妨害もなくモルティ国に侵入できてしまう。これは今までにはなかったことだが……。


「モルティ国の王都は城壁都市なのだが鉄壁で有名だ。そこに引きこもって時間を稼ぐつもりだろう……最悪だな」

「なんたる腰抜けか! 吾輩たちから民を守るつもりもないとは! 吾輩らは負け戦であろうとも打って出たというのに! モルティ王の卑劣鬼畜なド外道め! 元アーガ王の方が千倍マシであったぞ! そこまでして……!」

「落ち着けバルバロッサ。そもそもあの時点の我が国に城の類はなかった。引きこもりたくとも無理だ」 


 バルバロッサさんが妙に激怒しているが、攻城戦に何かトラウマでもあるのだろうか。


 ……そうなんだよな。俺が来るまでのハーベスタ国は城を持ってなかった。


 昔はあったらしいがアーガ王国に奪われて壊されたらしい。奪うのじゃなくて破壊するの勿体ないとは思うがあいつらは蛮族だからなぁ、後先考えない。


 今のハーベスタ国には城なしではないけどな。元ルギラウ国のタッサク城があるので。


「しかし城塞都市に引きこもりですか。モルティ国は完全に時間稼ぎの構えですね」

「クアレールの王が崩御するのを待っているのだろう。そうすればビーガンによる援軍が我が国に攻めてくるからな」

「相変わらず我が国は腰をすえた戦ができませんね……」


 基本的に戦力で劣っているか、時間との戦いになっている気がする。


 いや我が国の地理と兵力的に仕方ないけども……。


「まずは近くの土地の住民から兵糧を購入しつつ城塞都市を包囲する。その後にどうするかを考えるとする。全軍、このまま進撃せよ」


 アミルダ様の号令の下、軍は国境を越えてモルティ国に入った。

 

 そして何の抵抗もなく進軍を続けて、立ち寄った村で兵糧を正規価格で購入しながら進んでいく。


 村人たちは特に抵抗もせず、むしろニコニコしながら麦などを売って来ていた。


 彼らの笑顔も当然だろう。普通なら敵国の軍がやってきたら、略奪もしくは捨て値で奪い取られる可能性が高い。


 無論やり過ぎると後の統治に影響するので、アーガ王国でもなければ手加減はするが……それでも安く買いたたかれたりで村人たちは損をする。


 だがアミルダ様は正当な対価を支払われているからな。


 そうして三日ほどでモルティ国の王都――ロンディへと到着した。


 鉄壁の城塞都市と言われるだけあって高くて立派な壁に覆われている。外からでは中を見ることも叶わない。


「やはり高いですねぇ……これは攻めるのに苦労しそうだ」

「確かにそうですねぇ……すごく立派というか」

「都市がくっ付いてない普通の城なら、もう少し攻めやすそうなのですが」


 俺とエミリさんは城壁を見上げて思わずボヤく。


 ちなみにだが地球の日本には城壁都市はあまりなかった。


 基本的に日本の城は都市機能を有しておらず、ただの軍事施設でしかないのだ。


 城下町という言葉があり、それ自体が城と都市を分けている証明である。


 理由は……日本では都市での略奪が少なかったので、そこまでの必要性がなかったとか。


「リーズよ、アミルダ様が軍評定を開くと仰っているのである!」

「わかりました。すぐ行きます」


 早速、軍を包囲させて人が都市から逃げる手段を奪った。そして近くに陣幕を張って軍評定が開始される。


「さてやはりロンディは強固な城壁を持っている。迂闊に攻めれば我が軍も大きな被害を負いかねない。今までの野戦とは訳が違う」


 ため息をつくアミルダ様も美しい。


 城攻めには色々と手法があるが、大きく分けると二つだろう。


「念のため説明しておく。我らが取れる選択肢は二つだ。城を包囲しての兵糧攻めによる長期戦か、壁をよじ登るなり門破壊するなどで強攻する短期決戦を狙うかだ」

「長期戦ならば兵糧攻めによって、うまくいけば戦わずに敵を降伏させられますな。降伏しなくても士気も落ちるし空腹で弱るので有利に戦えるのである!」

「その通りだ。問題は時間がかかるのと、こちら側も兵糧不足になったりしかねない」


 アミルダ様とバルバロッサさんが城攻めの基本を説明してくれる。


 こういった意識共有は大事だ。軍人にとっては当たり前のことが抜けてる人もたまにいるしな。


 我が軍の場合、エミリさんはおそらく知らない。


「そ、そうなんですね。では叔母様、短期決戦のメリットは?」


 やはりエミリさんは知らなかったようだ。まああの人は戦の素人だから仕方ない。


「短期決戦のメリットは長期戦の短所とほぼ同じだな。対してデメリットは無理やり攻めるので兵に被害が多く出てしまう。後は……いやこれはよいか、今は知るべきではない」

「攻城戦は攻める側が圧倒的に不利なのである! 防衛側には壁という盾があるのです! 攻める側が城の壁を登ったり、城門を破壊しようとしている間に好き放題攻撃できるのである!」

「あー、確かにそうですね……」


 攻撃は防衛の三倍の兵力がいるという言葉がある。


 防衛側が城の設備を利用できるから生まれた言葉だ。ゲーム的に言うならば、攻撃側の攻撃は城の耐久値に吸われてしまうといえば分かりやすいかな。


 無論、攻撃側も何の対策もしないわけではない。


 例えばはしごを壁につけて登ったり、攻城櫓――移動式で攻撃対象の壁より高いやつに乗って、壁の上に侵入を試みたりする。


 だがそれでも防衛側のほうが有利なのは変わらない。


「降伏の使者を送ってはみるが無駄だろうな。クアレール王が亡くなればビーガンの援軍も来る。だが強攻での短期決戦は……極力取りたくないな」

「お待ちください、この私によい策があります」


 俺はアミルダ様の言葉を否定する。


 先ほど城の攻め方は包囲して兵糧攻めの長期戦か強攻の短期戦と言ったが、その言葉は少し正確ではない。


 例えば水攻めによる長期戦もあるし、潜入して城内部から破壊工作など調略で短期決戦を狙うのもある。


 ちなみにだが基本的には籠城戦は時間稼ぎが主目的だ。援軍――後詰めが来ることを想定している。


 城に引き籠って敵にずっと包囲されたらいずれ降伏せざるを得ないし、城から出て戦って勝てるなら最初からやってるからな。


 普通は籠城戦は援軍が来るまで負けないための戦いなのである。


 戦国時代の真田とか真田の一部例外はいるが。


「ふむ。よい策とは?」

「はい。ここは土竜もぐら攻めにて地下から攻めることを提案いたします!」



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