第160話 任……務……?
「眠い……というかアミルダはまだなのか?」
「叔母様ならそのうち来ますよたぶん」
昨日の約束通り、俺は白竜城の玉座の間へとやって来ていた。
外の見張りの兵士に中に通されたのがいいのだが、何とエミリさんとセレナさんしかいなかった。アミルダどこ?
「ところでエミリさん、何でそんな服装を?」
何故か彼女は平民が着るような衣服を纏っている。ただでさえこの人は貴族っぽくないのに、これだと本当に街娘にしか見えないぞ。
セレナさんは普段通りの服装だからいいけども。
「叔母様からこの恰好で来るようにと言われまして」
エミリさんは手でスカートを持ってヒラヒラさせる。仕草まで貴族令嬢っぽくない件について。
「それにしてもアミルダ遅いなぁ……」
しかも待ち合わせ時間をすでに二十分は過ぎているのに。これなら俺も遅れて来ればよかった……いやここでポーションでも造るか。
クラフト魔法で手元にS級ポーションの瓶を作成して、ズボンポケットのマジックボックスに突っ込んでいく。
「リーズさん何やってるんですか……」
「ポーション作りですが」
「待っている時くらいお仕事休みませんか?」
「時間がないので」
相手はあの散々暗躍してくれたボラススだ。どれほど用意してもし過ぎることはない。やれることはやっておくべきだ。
「……なるほど、これはアミルダ様の言う通りですね」
セレナさんが何かに納得して頷いているがよく分からない。そうしてポーションを造り始めて十分くらいで、ようやくアミルダが入室してきた。
「待たせたな、すまない」
「遅いぞアミル……なっ!?」
アミルダが……アミルダが男装みたいな衣装じゃなくて、普通の平民の服を着ている!? 普段なら髪型もシニヨンに結んでいるのだが、今はエミリさんと同じく普通に髪を降ろしている!?
やばいなんだこれすごく可愛い!?
「……あまり見るな。恥ずかしいではないか……」
アミルダは少し照れていてそれがなおよい。普段とギャップがあり過ぎる、深窓の令嬢みたいになってる。
「あ、アミルダ、その恰好は……? いつもの姿はどうした?」
「今からギャザ街の様子をお忍びで確認しに行く。なので普段の衣装では問題があるからな。お前も少し変装しろ」
「お、おう……?」
なんかよく分からないがクラフト魔法を使って、とりあえず自分の髪を金色に染め上げた。
「おかしい……私ことエミリもいつもと違うはずなのですが!? こんな反応なかったのですが!?」
「エミリ、残念だけど比べるのがおこがましい」
「そこまで!? これでも叔母様とは血族関係なのに!?」
エミリさんはほら、いつも貴族令嬢とは思えない言動と行動だから……。エミリさんは平民の恰好ではなく、アミルダみたいに男装した方がギャップ出るだろうな。
「では行くぞ」
アミルダは腰まで伸びた赤髪をなびかせながら玉座の間から出て行こうとする。
「いや待て護衛は? いくらお忍びでも危ない……」
「暗部が見張っている。それにセレナにエミリがいる」
「え? 私は護衛される側じゃないんですか?」
「お前は危なくなったら消えたり光れる。自衛できるので守る必要が大してないので護衛側だ」
「叔母様! 待遇の改善を要求します! あ、待ってください叔母様!?」
エミリさんを置いて歩いていくアミルダ。
ぶっちゃけ俺もエミリさんに護衛はいらないと思う。気づかぬうちに剣で刺されでもしない限り、間違いなく何らかの手段で逃げおおせるからだ。
透明化、光による目つぶしをノンアクションで一瞬で起こせるからなぁ。これで攻撃力さえあれば超優秀な暗殺者なのに。
とりあえず俺もついていくか、命令だしな。そうして俺達は白竜城の前に置いてあった馬車に乗って、ギャザ街の門をくぐったところで降りた。
「よし、まずは腹ごしらえだ。美味しい店を案内してくれ。私はギャザの市内を歩いたことはないから分からぬ」
アミルダが腕を組みながら告げてくる。仕草こそ普段通りだが、衣装が男装ではないのでいつもよりもやや可愛らしい。風に揺れる伸ばした赤髪がドキッとする。
というかこれバレないのだろうか。と思いながら辺りを見回すが、俺達が視線を集めている様子はない。もしアミルダの正体が怪しまれていたら、間違いなく注目されているだろうから大丈夫なようだ。
「ふふん。こういうのは堂々としていれば案外バレないものだ。大抵の民は私の顔を遠くからしか見たことがないし、王がこんな街中の人に紛れているわけがないとな。特に私の場合はいつも髪をくくっている上に男装だ」
なるほど、バレると思ったのは俺の誤解か。地球なら首相などは常にテレビなどで映っているが、この世界ではそういった類のものはない。アミルダの顔もあまり知らない者が大半だろう。
「そんなことより美味しい物だ」
「じゃあ私自慢の場所に案内しますよ!」
エミリさんの案内で街を歩いていく。到着したのは案の定な焼き菓子屋の出店だった。展示されたクッキーの香ばしい匂いがたまらない。
昼間から菓子なんてと怒ると思ったが、アミルダは興味深そうに出店を観察している。
「ほう、焼き菓子の出店とはな。以前ならあり得なかったが、ハーベスタ国で砂糖が安くなったことで出始めたということか」
「そうなんです! 私の行きつけの店です!」
自信満々に告げてくるエミリさん。
王族令嬢が出店に行きつけてるのはどうなんだろうか。まあエミリさんだからな……。
そんなことを考えていると出店のおじさんが、エミリさんに気づいてにっこりと微笑んだ。
「おお、いつものお嬢ちゃんじゃないか! いつものやつでいいかい?」
「はい! 四人分お願いします!」
すごい、『いつもの』が通じるくらい慣れ親しんでる。よかったなおじさん、この出店は王家行きつけと看板出せるぞ。
「隣にいるのはセレナ様に、また可愛い嬢ちゃんか。それと彼氏かい?」
「夫です! オマケしてください!」
「ははは! ダメダメ! 全部で銀貨一枚だ!」
「む、金貨しかないな。釣りはいらん」
アミルダはおっちゃんに金貨一枚を渡して去ろうとする。流石に十倍の値段をもらうのはと返してくるおっちゃんに対して、エミリさんがおつりを受け取って懐にしまった。
「美味しいです~♪」
「確かに美味いな。砂糖をちゃんとかけてある」
今日は無礼講なようでクッキーを食べ歩くアミルダ。
こうして俺達は更に街を歩き始めるのだった……やっぱりこれ、俺がついてくる意味ないのでは? いや後で何か重要な役目を言ってくるのかも。
それに正直楽しい。アミルダとまともにデートしたのは初めてだ。
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