第161話 一緒に


 俺達はギャザの街を観光し続けている。露店からよい匂いや宣伝の文句が聞こえてくる。


「焼きトウモロコシだよー! 美味しいよー!」

「ください」


 セレナさんが焼きトウモロコシを売っている露店に駆け寄ると、四人分購入して皆に配ってくれた。


 味付けはこの世界の植物でつくる茶色のパウダーがかけられている。かぶりつくと少し塩辛いが美味しい。


「私、トウモロコシが好きです」


 セレナさんは俺の方を見て笑いかけて来た。


「そうなんですか。焼きトウモロコシは食感とかよいですよね」

「焼きトウモロコシだけじゃありません。ポップコーンもトルティーヤも、トウモロコシ自体が好きです……リーズさんとの思い出の品だから」


 顔を赤く染めるセレナさん。トウモロコシ、それはセレナさんとハーベスタ兵士たちのわだかまりを消すパーティーで用意した食品だ。


 予算一人あたり銅貨一枚で祝勝会しろと言われて、野草などから無理くりトウモロコシを造ったんだよなぁ……懐かしい。


「おにぎりはいかがかな! 米はタッサク街からの産地直送だよ!」


 露店からさらに商品の宣伝が聞こえてくる。


 おにぎりはベルガ商会を潰すために用意したんだったな。あの商会は本当に酷かったので、対抗馬になる食品として米を作った。


 そして目的を達した後に田んぼを耕して、ギャザ街の農民たちに栽培を任せている。今やハーベスタ国の名産品にまでなったのだからすごい。


 というかさっきから俺の用意したモノの露店ちょくちょく見るな。最近はギャザの街を見回ってなかったから知らなかった。


「リーズ、これがお前が我が国にもたらした成果だ。ハーベスタ国はお前のおかげで飛躍した」


 アミルダが楽しそうに周囲を見回している。俺がこの国に来てから色々とあったが、やってきたことは根付いてくれているようだ。


「ちなみに為替交換所も街の中心部にありますよ。私は商会長としてたまに出向きますが繁盛しているようです」

「私も虫歯ポーションよく購入してます!」


 セレナさんとエミリさんが続く。


 為替は経済発展の起爆剤として考えたもので、虫歯ポーションは砂糖を売るとなると虫歯が多くなるのでその対策だ。なるほど、二人も俺が用意したモノを利用してくれて……。


「いやエミリさん、虫歯ポーション愛用したらダメでしょ……」

「はっ!? ち、違いますよ!? 虫歯になってるわけじゃなくて、予防で毎日飲んでいるだけですっ! もうあんな痛みは嫌なんですっ!」


 エミリさんはかなり必死に叫んでいる。


 以前に虫歯になったのがかなりのトラウマだったようだ。自業自得なのでそこまで同情できないのだが。


 更に色々と見回りながら三人の美少女とワイワイ話す。


「トウモロコシに砂糖かけたら美味しいですかね?」

「どうなんでしょうか。試してみては?」

「リーズ様。エミリにそんなことを言ったら、また夜に砂糖が倉庫からなくなる」


 くだらない話をしていたらあっという間に夕日が見え始めた。人の少なくなった広場の地面に夕日がさす。楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。もっと長く見回りたかった……。


「って待て。本当に街を練り歩いて遊んだだけじゃないか? お忍びで来た目的は?」

「目的なら既に達している」


 アミルダは俺の方を振り向いて微笑んだ。普段の強い女性ではなく夢見る少女のように。彼女の赤い髪が夕焼けの色と重なってすごく幻想的に見える。


「私はお前に見せたかったのだ。この街にお前が根付いていて、この国には今後もお前が必要だと言うことを」

「リーズさん、最近おかしいですよ。まるで次の戦いで死にに行くみたいです」

「今のリーズ様は悪魔に取りつかれたようで見ていて辛いです」


 三人は俺に対して少し不安そうに語り掛けてくる。


 確かに最近の俺は以前と違う、それは自覚している。リーズとの約束を果たすために全てを投げ打つ覚悟を持って臨んでいるからだ。それがあいつとの約束だから。


「……私は今まであまり寝てなくて、よく周りから睡眠を取れと言われていたな。だが大丈夫だと確信していた。しかし今頃になってお前を見て分かったよ、大切な人には身体を大事にして欲しいのだと」

「…………」


 アミルダは心もち濡れたような目をして俺を見続けてくる。エミリさんやセレナさんもだ。


「リーズ、はっきり言わせてもらう。命を粗末にしないでくれ。確かにお前にとっては旧リーズとの約束は大事なものなのだろう。だが……」

「私たちにとっては今のリーズさんの方がよほど大切なんです。私たちからすればあの旧リーズさんは……リーズさんに取りつく死神みたいで……」

「ボラススは潰しましょう。ですが、そこで終わりと思わないで欲しいです……」


 三人は必死に目で訴えてくる。


 ……俺はどうやら旧リーズの願いを叶えようとするあまり、他の人の想いをないがしろにしようとしていたらしい。それではダメだな、他人のことを考えないならアッシュたちと同じになってしまう。


 俺はアミルダ、エミリさん、セレナさんに対して頭を下げた。


「すまなかった。リーズとの約束に妄執し過ぎて、他のことが見えていなかった」

「……リーズ」

「投げやりじゃなくてちゃんと戦うよ、そして必ず生きて帰る。ボラススに勝った後もハーベスタ国は大変だろうからな」


 俺がそう呟いた瞬間、三人が勢いよく抱き着いてきた。


「ありがとう、リーズ」

「リーズさんんんん! 話せば分かってくれると思ってましたああああぁぁ!」

「……よかったです」


 俺は幸せ者だ、こんなに想ってくれる人たちがいるのだから。この人たちを残して死ぬのは嫌だ。


 リーズには悪いが生き残るつもりで戦わせてもらおう。


「よし。ならリーズよ、これからはお前は私たち三人の誰かと一緒に就寝しろ」

「…………は?」

「そうですね! リーズさん放っておいたら何だかんだでまた睡眠時間は削りそうですし!」

「見張りは大事ですから」

「ちょ、ちょっと待って!? いくら何でもそれは……!?」

「私も恥ずかしいがこれはバルバロッサの意見だ。あいつはこれまで正しかったから、今回は従うことにする! 国王命令だ!」

「ずるくない!? 公私混同だ!」

「ずるくない! ボラススとの戦争時にお前が万全な状態でなければ、どれだけの損害を被ると思っているのだ! 公的だ!」


 俺は彼女らと毎晩寝ることになったのだった。あ、寝ると言っても普通に就寝するだけだから……理性が持つ限りは。

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