第162話 真の狙い


 ボラスス神聖帝国宮殿、祭壇の間。


 そこには見るだけで身の毛がよだつような禍々しい像が設置されていた。ボラスス教皇は独りで笑みを浮かべる


「くくく、ようやくだ。ようやく私の悲願が叶う時が来る……! ボラススではない、私が世界を握る時が……!」


 ボラスス教皇は持っていた本に記載された呪文を読み続け、それに呼応するように像が目を赤く光らせていく。しばらく詠唱した後に彼は祭壇の間から出て行く。


 すぐそばの扉には彼の従者が待ち構えていた。


「アッシュ様のに成功しました。彼女は全面的に我々に協力してくださるそうです」

「そうか。歩けるのだろうな?」

「ご安心を。ポーションで戻しましたので」

「ならばよい。では次はボラススの国民に演説をする。偉大なるボラスス神復活のために、心臓にその身を捧げると祈らせるのだ。とある呪文を唱えさせてな」


 教皇が笑いを浮かべると従者はうなずいて去っていく。そして教皇は廊下を歩いてボルボルを押し込めている作戦立案室を訪れた。


「教皇殿! ボキュはいつまでここにいればいいんだな!? もう狭いから嫌なんだな!」


 ボルボルは教皇を見るや否や不満を告げる。だが教皇はずっと笑っているままだ。


「ボルボル様、貴方は切り札なのです。迂闊に外に出歩かれて暗殺されたり、その存在を外に見られたくないのです」


 張り付いた笑みのボラスス教皇。実際はそんな理由ではなくて、ボルボルに余計なことをさせないためである。


 必要な時だけ彼の意見を聞いてその逆を行う。そして後はこの個室に閉じ込めて一切の影響を許さない。そうすればボルボルのデメリットを受けずに済む算段だ。


「そ、それは確かに……! ハーベスタ国はボキュがここにいることを知れば、間違いなく暗殺を仕掛けてくるんだな! ボキュという脅威を見過ごすはずがないんだな!」

「そうでございます! ボルボル様がボラススにいることは知られてはならないのです!」


 実際はハーベスタ国が知ったところで何もしないどころか、むしろ何があっても殺さないように言い含めるだろう。




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「ボラススの情報が掴めない?」

「そうだ。奴らの宮殿の警備は鉄壁でな、しかも教皇自体がうたぐり深いせいで侵入ができないのだ」

 

 ここはアミルダの寝室。


 俺とアミルダはベッドで隣り合って寝ている。以前に説得されて以来、俺は三人の妻の誰かと一緒に眠ることになったのだ。

 

 ちなみに寝る前の会話はだいたい固定されている。アミルダとはボラススに対する相談、セレナさんとは商会の経営について、エミリさんはお菓子の話。


 何だかんだで一人を除いてみんなすごく忙しいので、こういう時にも仕事の話になってしまう。逆に頭空っぽにできるエミリさんの時が癒しである。


「エミリさんでも侵入できないのか? あの人の魔法は他のとはちょっと特殊だから、対策も立てづらいと思うんだけど」


 エミリさんの姿を消す魔法は、厳密に言うと魔法によって消えているのではない。普通の透明化魔法となれば魔法自体が身体を透明化する効果を持つ。だが彼女は光によって自らを屈折させて見えなくしている。


 つまり魔法で光を生み出して、その効果で結果的に見えなくなるのだ。普通の透明化魔法対策では絶対に発見できない。


「あいつなら侵入は可能だ。だが諜報能力自体が低いから、忍び込めてもそこまで情報を得て帰ってこれない」

「あー……」


 忘れがちだがエミリさんは貴族令嬢だ。特に間者として訓練を受けたわけでもないので専門的な能力は低い。


 ようは物凄い身体能力を持った超人が、未経験のスポーツをやるようなものだ。簡単なプレイならパワーやスピードでゴリ押せるが、細部の技術が必要となるとてんでダメで本職に勝てない。


 野球なら人類最速だがストレートしか投げれないピッチャーみたいな。サッカーなら動体視力と反射神経でゴリ押せるキーパーしか出来ないだろう。他のポジションだとたぶんドリブルが怪しい。


「つまりエミリさんの諜報能力不足を補えればいいんだよな?」

「そうだな。とはいえ短い期間であいつに平均的な暗部の能力を身に着けさせるなど不可能だ。暗部は幼い頃から鍛え上げてようやく成人以降に使い者になるくらいだからな」

「それは大丈夫だ。そもそも俺もエミリさんが完璧に動けるとは思ってない」


 エミリさんはぶっちゃけ性格が壊滅的に暗部に向いてない。普段から騒がしくて、大人しいとか目立たないとは対極にある人だし。


 それにドジなところもある。物を盗むという明確かつ単純なことなら可能だが、敵の情報をーとかそんなのは苦手分野に決まっている。


「ならどうするつもりだ? 下手に魔法を仕掛けてもすぐ看破されるぞ。奴らとて魔法に対する傍聴対策などは万全なはずだ」


 そりゃそうだ。この世界では魔法というすさまじく便利なものがある。


 当然ながら盗聴にも使われるはずなので、それへの対策だって講じているはずだ。例えば魔法の道具はすぐに探知ですぐにばれるとか、むしろあってしかるべきだろう。


 だが逆に言えばだ。魔法でない物、知らない物への対策は困難なはずだ。


「分かってる。魔法じゃなければ問題ないだろう?」

「自信ありげだな。いったい何を出すつもりだ?」

「エミリさんは侵入まではできるんだろ? なら仕掛けてもらおうじゃないか、盗聴器とかを」



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新連載の宣伝です。

『チートビーム魔法使いは超紙耐久!? ~攻撃全振りのキャラで異世界転生してしまった。超高火力で敵を蒸発できるが、俺も敵のワンパンでやられかねない件について!?~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330651711978953


カクヨムコンももうすぐ終わるので、ひとまずこの作品で新連載投稿は終わりの予定です。

(一作はもうすぐ完結予定ですが)

何卒よろしくお願いいたします……!

 

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