第163話 盗聴


「盗聴器? 何だそれは?」

「音を撮って後で聞けるようにする魔道具だ。ただし魔法は使わないから感知などはされない」

「リーズ、それはただの道具だと思うが」

「例えの話だよ。ようは魔道具みたいな効果を持つけど、魔法を使わない仕組みで動くんだ」


 俺は【クラフト】魔法で手元に小さな卵型の盗聴器の発信機を出す。更に受信側である受話器タイプの受信機も作成した。


「百聞は一見に如かず……いや今回は聞くか。まあいいや、ちょっとこれ持っててくれ」


 俺はアミルダに電源を入れた受信機を渡し、部屋から出て少し離れた場所で発信機に向けて叫ぶ。


「俺はアミルダが好きだ」


 そして寝室に戻ると顔を赤くしたアミルダがこちらを睨んでいた。


「……使い方は分かった。だがなんだ今の言葉は!」

「いや面と向かって言うのちょっと恥ずかしかったから。よい機会かなって。あ、ちなみにこういうのを機械って言ってだな」

「まったくもう……お前という奴は」


 怒っている雰囲気を出しているがアミルダの顔は少し緩んでいる。特に問題なさそうなのでよし。


「リーズが持っている側のそれをボラススの宮殿に仕掛けさせて、私の持っているので音を聞けるのだな。それならばエミリに侵入させてばら撒かせれば、後は自ずと情報が掴めるか。だが少し大きいから隠し処が問題だな」

「大丈夫だ。銅貨くらいのサイズにできるから」

「ならば問題ないか。早速造ってくれ、エミリに侵入させるようにする」


 アミルダは少し考え込んだ後に頷いた。どうやら彼女のお眼鏡にもかなったようだ。


「ところで今更なんだけど。エミリさんを普通に敵本陣に忍び込ませていいのだろうか」

「仕方がない。あいつ以外で今のボラスス宮殿に侵入できる奴はいない、適材適所だ」

「貴族令嬢の適材適所が間者ってどうなの」

「それこそ今さらだろう。後は薄暗い場所でも役に立つ」


 もはや貴族令嬢のイメージとは真逆の方向に進んでいくエミリさん。彼女の明日はどっちだ!




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 俺はエミリさんと会うために白竜城の調理場で待っていた。するとしっかりと彼女は入ってきた。


 彼女の名誉のために言っておくが今回は盗み食いではない。三時のおやつなだけである。


「あれ? リーズさんどうしました? お菓子くれるんですか?」

「違います。実はエミリさんにボラスス宮殿に侵入して、この盗聴器を仕掛けて来て欲しいのです。これは音を拾うので内密の話も聞こえるはず。目立たない場所に置いてきてくれればよいので」

「あのあの、私は貴族令嬢なのですが。間者じゃないのですが」

「大丈夫です。白竜城の警備兵にエミリさんが何者かを聞いたら、みんな一流の間者って答えますから」


 エミリさん陽炎タッグVS白竜城警備隊の仁義なき戦いは今も続いている。基本的には警備隊が負けてお菓子を盗まれるのだが、稀に勝つこともあるらしい。


 なおこれは内緒の話なのだが。この戦いの裏でスイちゃんが城の他の場所で盗みを働いている。これはアミルダの指示で、二人に気を取られて他が手薄になるのを防ぐためだ。


 そのため警備隊は城の全てを厳重警戒せねばならず、ぶっちゃけ勝ちの目は極めて低い。エミリさんと陽炎までは捕縛できたことがあるが、スイちゃんは未だに一度も捕らえられてないのだから。


「私ってリーズさんの妻ですよね?」

「妻なはずですよ」

「妻に敵本拠地侵入させます?」

「エミリさんを信じていますので」

「すごく嬉しくない信頼ですね……」


 白竜城で徹底的に対策されてなおお菓子を盗み出す手腕なので、ボラススの宮殿だろうと捕まらないでしょ貴女。


 エミリさんは少し顔を膨らませて怒った後、小さくため息をついた。


「わかりました。やりますよ。このエミリにおまかせください! ズバッと仕掛けてきてあげますよ!」

「お願いします。成功したらご褒美にケーキでもあげますので」

「死ぬ気で頑張ってきます!」


 そうしてエミリさんにS級ポーションと盗聴器を持たせて、途中までついていく陽炎と共にボラスス宮殿に向かってもらった。


 黄金タッグなだけあって二週間ほどでアッサリと任務を達成して戻って来るのだった。


 俺とアミルダは白竜城の玉座の間で彼女らをねぎらう。


「戻りましたー。ケーキください」

「食堂に置いてますので話が終わったら好きに食べてください。警備はどうでしたか?」

「かなり厳重でござったな。拙者でも侵入は難しく、エミリ様しか無理であった」

「えっへん」


 少し威張るエミリさん。今回はそれくらいのことはしてくれたのでよしとする。


「すでに盗聴器から音は聞こえているのは確認してる。ずっと誰かを受信機の側に置いているので、重要そうな情報があればすぐに伝わるはずだ。それはそうとしてだ、宮殿の内部の様子を聞きたい」

「んー、そうですねー……思ったより静かでした。何か準備してるならもう少し騒がしいと思いました。後はケチくさくてお菓子がありませんでした」

「わかった。ならボラススは土ドームに対して仕掛ける予定はないのか……? 無理せず崩れるのを待っている?」

「その可能性はあるかもな。ボラスス教皇は用心深いイメージだし」


 あいつはたぶん『鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス』タイプだ。無理はせずに状況がよくなるのを待つタイプ。今までの暗躍を見ても明らかだ、ずっと機会を伺っていたのだから。


 それならこちらとしても都合がよいがな。

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