第80話 まだ一週間前だぞ!?


 外交パーティーを行うと言われてからの二ヶ月はあっと言う間に過ぎて行った。


 アミルダ様は招待客に手紙を送りまくって、バルバロッサさんがパーティー用の警備兵たちを鍛え上げた。


 俺は料理人たちにパーティーの食事を教えていて、皆がすごく忙しい日々を過ごした。


 エミリさん? お菓子の味見で感動して光ってたよ。 


 そんなこんなで全員が忙しく働くことで、何とかパーティーの開催にこぎつけたわけだ。


 そんな俺達は白竜城の玉座の間に集まっていた。


「一週間後にはパーティー開催日だ。明日にはこの城に招待客が集まり始めるだろう。何としても彼らをもてなして、わが国が蛮族ではないと知らしめなければならぬ」


 アミルダ様が真剣な表情で俺達を見据える。


 彼女が気を張っているのも仕方ない。なにせパプマ商業国家の策略によって、周辺国はハーベスタが蛮族国家だと誤解しているのだ!


 パプマは俺達が戦争に明け暮れて国土を無理やり広げる輩だと、大嘘を各国の王に言いふらしたのだ! 


 だがこの噂を信じる国が結構多いせいで、ハーベスタ国はアーガ王国と同じように見られているのが現実だった。


 信じられている理由としては事実有根の噂であったからだ。


 なにせハーベスタ国が戦争に明け暮れているのと、国土が戦いによって広がったのは事実。


 だがその背景を隠すのはズルい! アーガ王国との戦は全て防衛戦、ルギラウ国やモルティ国も攻められたから反撃したに過ぎないのに……! 


「各自、ハーベスタ国の代表としてしっかりと働いてくれ。バルバロッサ、警備は万全だな?」

「はい。護衛の兵たちは鍛え上げましたし、セレナにも力を借りているでありますゆえ!」

「決して油断はするな。招待客が殺されでもすれば、ハーベスタ国の名折れどころの話ではない」


 よく探偵ものだとパーティーで人が死んでいるが、国同士の外交パーティーで殺人事件が起きたら即国際問題だからな……!


 可能な限り暗殺などへの対策は取っている。警備以外にも色々と工夫していて、例えばパーティーで使う食器は全て銀にしている。


 銀は毒に触れると変色するのでもし盛られても分かるからな。ちなみにこの世界の製法で魔導銀というものにしている。


 簡単に言うと銀が溶けなくなるらしい。熱の伝導率が下がるとかなにせ食器として都合よくなる。


 そんなことを考えていると兵士が玉座の間へと入って来た。


「ほ、報告します! お客様がいらしております!」

「なに? 招待客が来るのは明日以降のはずだが……誰だ?」


 アミルダ様が訝し気な顔をする。


 招待客が開催日より早く来ること自体は問題がない。


 外交パーティーの本番は一週間後。招待客は明日から六日後までの間で、この白竜城に集まることになっていた。


 早く来た招待客はこの城の離れにある寝殿に泊まって頂くのだ。


 何故六日間も集合日を設けているのかと言うと、移動手段が馬車のために時間がかかるからだ。


 例えばクアレール国から白竜城にやって来るには、馬車なら二週間以上かかってしまう。


 そうなれば当然ながら招待客がパーティー当日を狙って到着するのは難しい。


 ゲストたちは遅れたら困るから余裕をもってやって来る。なのでよほどのことがなければパーティー開催日の前日には現地に到着しているのだ。


 近場の貴族を招待するならばともかく、外の国のゲストに当日集合させるのは困難であった。


「叔母様、招待客が開催日より早く来るのは当たり前では?」 

「それにしても一週間前は早過ぎるだろう。礼儀知らずとしか思えないが」


 アミルダ様の言い草も最もだろう。


 泊める側にだって準備が必要なのだ。ましてや他国の王族などになれば、泊まる日を事前に知らせてもらわなければ無理だ。


 その泊まる日がパーティー開催日の六日前以降なので、それを守ってもらわないと正直困る。


「その礼儀知らずは誰だ? パプマ商業国家辺りが我らの用意が出来てない時にやってきて、難癖でもつけにきたか?」

「クアレール第三王子です!」

「あいつは何をしてるんだ……」


 兵士の報告を聞いた瞬間、アミルダ様はガクッと肩を落とした。


 クアレール第三王子……以前のクアレールで招かれたパーティーのチャラ男か!


 アミルダ様はあいつをなんて評してたっけ……確か……。


「えーっと、クアレール第三王子って愚鈍で人間向いてない人でしたっけ」

「リーズさん違いますよ。人として終わっているだけの遊び人です」

「どちらも違う。個人としては優秀だが致命的に為政者に向いてない男だ。アーガ王国の外道連中と一緒にするんじゃない」

「「そうでした」」


 いかん、これまでの敵国のクズ共と混ざってしまっていた。


 クアレール第三王子はチャラいだけでクズな言動はしてなかったな!


 アミルダ様は呆れたように深くため息をつくと。


「…………奴なら仕方ないな。てきとうに寝殿に案内しておけ」

「まだ寝殿の準備の途中ですが……ベッドの清掃などが万全ではないのですが」

「構わん。奴ならば木の板に囲まれていれば文句は言わない。何なら野宿でも平気で対応する」


 あのチャラ男、思ったより数倍たくましいな……アミルダ様の対応もすごく雑だし。


「念のため言っておく。クアレール第三王子は大して相手にするな。警備も最低限でいい、何なら手が回らなさそうなら放置でいい」


 アミルダ様は投げやりに命じてくるがそれでよいのだろうか。


「そこまで雑でよいんですか? 仮にも一応は彼も王族では……?」

「大丈夫だ、あいつは殺してもそうそう死なん。それにあいつより強い兵士などハーベスタにはバルバロッサしかいない」

「そんな強いんですかあのチャラ男」


 人は見かけによらないものだなぁ。アミルダ様が個人として優秀と評するのは伊達ではないと。


 ……まあ我が国の兵士が弱すぎるのもあるだろうが。


 バルバロッサさん以外は武芸に優れている奴がいるのか怪しいので、そもそも比較対象がダメダメ過ぎる。


「具体的にはどれくらい強いんですか?」


 正直気になるところだ。あのチャラ男が実は武芸の達人など詐欺ではないか。


 俺の質問に対してアミルダ様は少し悩んだ後に。


「少なくとも元ルギラウ王より数倍強いはずだ」

「アミルダ様。ゼロをいくらかけてもゼロですよ」


 元ルギラウ王戦績。自分だけ剣持って襲い掛かったくせに素手のバルバロッサさんに瞬殺される。


 全く参考にならない……いや相手が悪すぎるのも多いにあるのだが。


「まあそこらの奴よりは間違いなく強い。それとお前たち、今日だけクアレール第三王子の面倒を見てやれ。あれでもまだ王族だ、それに友好国たるクアレールの者だからな。特別にもてなしたと宣伝すれば他国への牽制になる」

「拒否権は」

「ない」


 何故かチャラ男の面倒を見ることになってしまった……。


 

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