第79話 いとお菓子
俺達は白亜の城……じゃなくて白竜城の一階に降りた。
城なのに一部屋しかないので相変わらずだだっ広い……家具など置いてないので余計にそう思うのだろうが。
「それでリーズさん。パーティーで驚かせる食事を出せって、いったいどうするおつもりですか?」
「そうですねぇ。基本は普通の料理を出して、一部で米料理を出す感じでしょうか。後は菓子で勝負といったところかと」
俺は凄腕料理人ではないので奇をてらったようなものを何品も出せない。
地球の料理を出しまくるという手段もあるが、目新しい料理ばかりがよいとは限らないしな。
それに可能な限り、今回の料理はハーベスタ国の料理人に調理させたい。
俺の魔法でしか造れない料理は却下だし、料理人たちの練習時間も必要だ。
そうなると物珍しい料理は数品出せればよいところだろう。
そして出すべきは砂糖と米を使ったものだ。何せそれらがハーベスタ国のウリなのだから。
この外交パーティーで米や砂糖の評判を広めて、更に価値を高めてやる!
「お菓子! さっきの金平糖ですか! もうひとつください!」
エミリさんが俺にすごく顔を近づけてくる。
あ、いい匂いが……じゃなかったいかんいかん。危うくハニートラップ(?)に引っかかるところだった。
彼女の肩を持って少し遠ざけた後に。
「ダメです。それに出すのは金平糖ではありません」
「えっ……あれすごく美味しいのに。見た目も綺麗ですしパーティーに出したら評判よいと思いますよ」
「他に出したいやつと味が被るんですよ。そちらのほうが貴族には評判よさそうで」
「!?」
エミリさんが俺の言葉に目の色を変えた。
金平糖は確かに悪くないチョイスだろう。
だがもっと簡単に造れて貴族に受けそうな菓子があるのだ。
「なるほど。では貴族の令嬢として味見係を……」
「いえ結構です」
「なんでですか!? 私にも食べさせてください! お願いします、後生です!」
「甘い菓子よりも米料理の味見をしてください」
エミリさんが俺の両肩を掴んで揺らしてくるが、この人に必要以上の菓子を与えない方がよいのでダメだ。
……それにエミリさんの味見は貴族としてはあまり信用ならないというか。
甘くないパンケーキがお菓子だった人は、どちらかというと庶民寄りの味覚だと思う。
「エミリ様、ここは本番のパーティーを楽しみにするという形にするである」
「そんなぁ……」
およよと泣いたフリをして、こちらに視線を向けてくるエミリさん。
そんなぁ演技してもダメです。貴女、小食なんだから下手に菓子食べさせるとお腹膨れるでしょ。もっと米食べてください。
「では試しにチャーハンというものから……」
俺はズボンポケットのマジックボックスから、丸型の机と三人分の椅子を取り出す。
その後に【クラフト】魔法を使用して、机の上にチャーハンの載った皿にレンゲを作成した。
「ほほう! よい匂いなのである! 頂くのである!」
バルバロッサさんは皿を持ち上げると大きく口を開けた。そしてレンゲも使わずに皿からチャーハンを口に流し込んでいく!?
か、カレーは飲み物とかいう狂気を聞いたことはあるが……チャーハンを飲み物にするとは化け物だ!
「うむ! もう一杯欲しいのである!」
「そんな酒のお代わりみたいに言わないでください……それで味のほうは?」
「美味いのである!」
うん、明らかに美味しそうに食べてましたからね。
そうではなくてパーティーの料理としてはどうかを聞きたいのだけれど。
「……少しくどくて貴族の人は好まないかもしれません。それにこの料理を食べると重くて他の料理がキツイかも……後はこの米はパサパサなので粒を落としてしまいそうです。立食パーティーだと敬遠されるかも」
対してエミリさんはレンゲで一口食べて、真っ当な感想を口にした。
流石は凡人代表だ。結構まともな意見を出してくれる。
炭水化物を油でいためるだけあって、チャーハンはかなり腹に溜まるもんなぁ。
それに立食形式のパーティーでチャーハンだと、米粒を床にこぼす者が続出しそうだ……そこまで思い至らなかった。
流石はエミリさん、腐っても貴族令嬢と。
「そういうわけなので米に砂糖をかけてお菓子にしましょう」
前言撤回。脳内砂糖で汚染されてる少女だった。
「いや米に砂糖かけて美味しいわけが…………」
条件反射で否定しかけたが何か引っかかる。
米に砂糖をかけるわけではないのだが……あ、おはぎとかあったな。
ただ小豆がないので現状では無理か……甘いからお菓子としてよさそうだったが。
「チャーハンがダメとなるとおにぎりか……? いやそれはすでに広まってるからなぁ」
貴族というのは見栄を張る生き物だ。
目新しい物を食べたら自慢する者が多い。私はこんなものを食べたことがあるのだぞと。
なので出来れば外交パーティーでは、まだこの世界で出ていない米料理を出したい。
それを食べた貴族が自慢して、それを聞いた貴族が興味を持って……という流れを作りたいのだ。
「うーん……普通に米を炊いたらおにぎりとあまり変わらないしなぁ。いや待て、もち米……」
「なにか思いついたであるか?」
「あーいや。ちょっとどうなんだろうこれ……」
もち米で餅を思いついたのだが。でも出してよい物だろうか……食感とかがかなり珍しいだろうし受けるか分からない。
まあ出してみないと分からないのだが……ひとまず
「エミリさん、これ食べてみてください」
俺は【クラフト】魔法で海苔で巻いた小さな焼き餅を作成し、エミリさんに手渡す。
アツアツのお餅なので普通なら手で持てないが、海苔がうまく熱を殺してくれている。
「なんですがこれ? パン?」
「米のパンみたいなものです」
エミリさんは餅をふーふーと息を吹きかけた後、パクリと口にいれた。
そうしてしばらく咀嚼した後……彼女の顔が青く染まっていく。
……何か様子がおかしいような? そう思っているとエミリさんは喉を抑えて、ピカピカと身体が点滅しだした!?
「…………!?」
「しまった!? エミリさんが餅を喉に詰めた!? 咳してください、咳!」
「リーズよ! お主、その便利な魔法で何とかならぬのであるか!」
「た、確かに!」
実は【クラフト】魔法は人相手には直接触ってないと使えない! 離れてる相手に使えるなら最初からそれで無双してるからな!
なので急いでエミリさんの身体をどこでもいいから触らなければ!?
そうして慌ててエミリさんにタッチして【クラフト】魔法を使い、喉の餅を分解してことなきを得たが……俺は彼女に対して床で土下座をしていた。
「すみません……不可抗力なんです」
「金平糖ください。それと砂糖いっぱい」
「え、いやでもそれは……」
「リーズさんに襲われたって叔母様に言います」
「はい……」
焦っていたため、よりにもよってエミリさんの胸をタッチしてしまったのだ。
エミリさんはニコニコ笑っているがその笑顔が凄く怖いです……。
俺は彼女に甘味をいっぱい献上することになった。
……まあどう考えても俺が悪いからな。餅は喉に詰まるから気を付けてと言い含めておくべきだった。
「リーズよ。この餅とやらは出せないのである」
「でしょうね……」
手で食べられるしおにぎりに代わる食べ物としてよいと思ったのに……。
「~~~~♪」
すごく機嫌がよさそうなエミリさんが物凄く不気味に感じる……。
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正月のお餅には気を付けましょう。
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