第78話 外交パーティーの準備


「まずは外交パーティーの説明をするぞ。我らが国として復興したことの証明に開催。クアレール国を筆頭に外賓を招いて盛大に行う」

「招待国はどんな感じでしょうか?」

「クアレール国、商業国家パプマ、ボラスス神聖帝国に周辺諸国……ようはクアレールのパーティーに招かれた時にいた国だな」


 以前のパーティーとだいたい同じ面子か。まあ妥当なところだろうと思っていると。


「それと……アーガ王国とビーガン国も招待する」

「「は!?」」

 

 アミルダ様の爆弾発言に、エミリさんと一緒に思わず叫んでしまった。


 いやなんでアーガ王国とビーガン国を!? 完全に敵対国家ではないか!?


 ひたすらに困惑しているとアミルダ様は愉快そうに笑った。


「招待して挑発するだけだ、奴らが来るはずがなかろう。来たら殺されても全くおかしくないのだから」

「うむ! アーガやビーガンからすれば散々打ち負かされた挙句、復興記念の外交パーティーを開かれるなど屈辱以外の何物でもないのである!」

「な、なるほど……」


 確かに面白そう。アッシュとか顔真っ赤にして激怒しそうだ。


 挑発というのはくだらない策に思えるが、相手を煽るというのは戦争では有効な手段だ。


 特に貴族などの偉い奴はプライドの権化。歴史上でもしょうもない挑発に乗って負け戦に挑んだバカは数知れずだ。


「で、でも挑発して外交パーティー中にアーガ王国がもし攻めてきたら……」


 エミリさんはなおも懸念があるようだ。


 確かに顔真っ赤になったアッシュが、激怒してそのまま突っ込んできてもおかしくないかも……だがアミルダ様は首を横に振る。


「仮にも他国の重鎮が集まっているのだぞ? そんな時に侵攻など仕掛けてきたら招いた全ての国を敵に回すことになる」

「でもあのアーガ王国ですよ? 全部敵に回してもおかしくないのでは?」

「確かに以前の奴らならばやりかねない。だが今のアーガ王国はかなり弱体化しているからな、流石に難しいだろう。今の奴らは敗北の傷が残ってる上、経済も崩壊気味だそうだ。ロクに軍備も整えられないのだから恐れるに足りん」


 アーガ王国は金貨に混ぜ物をした結果、自国通貨の信用を失って経済ヤバイらしい。


 有力商会がどんどん国外に逃げて、自国民たちはまともに買い物ができない状態だとか。


「アーガ王国内で一揆の動きもある。その鎮圧などに必死で我らに攻めてくる余裕はない」

「でも後先考えないアーガ王国ですよ? それでも侵攻してくるかも……」

「今までとは事情が違うのだ。経済が崩壊しているので兵糧や物資が揃わない。そんな状態で他国に出兵するのは不可能だ。それと他にも理由はあるが……ひとまず奴らはしばらく国内に精いっぱいだ」


 他の理由とは何なのか気になるが、アミルダ様があえてぼかすならば尋ねるのはやめておこう。


 彼女は改めてバルバロッサさんの方に視線を向ける。


「では社交パーティーでの役割を振るぞ。バルバロッサ、外交パーティーの警備を任せる。分かっているとは思うが極めて重大な仕事となるぞ」

「ははっ! お任せを!」


 バルバロッサさんが大声で叫び、城内がにわかに揺れた気がした。


 アミルダ様が早速、バルバロッサさんに外交パーティーの役割を与えなさった。


 彼は政治ではあまり役に立たないが、武力においては千人力なので適役だろう。


「エミリ、お前は外交担当だ。他国の者に愛想を振りまいておけ」

「わ、わかりました」

「それと夜は光って松明代わりにでもなっておけ。魔法のアピールにもなる」

「私の扱い雑じゃありません……?」


 エミリさんは不満げだ。でも彼女は砂糖で問題起こしたりしたので是非もないです。


 まさかアミルダ様の名義を使って、借金してまで商会を設立しようとするとは……お金持ってないだろうと皆が油断していたのに。


 貴族の令嬢として育てられたはずなのに妙に悪知恵働くなこの人。


 なおエミリさんの悪だくみは即座にバレて、アミルダ様から大目玉を食らって終わったのだが。


「先日の行いを考えるのだな。それに外交パーティーで目を惹くのは重要だろう」


 アミルダ様は目を細めて、エミリさんに少し責める視線を向ける。


 外交パーティーで目立って話題に上がるのは大きいからな。


 ましてや異名持ちのエミリさんならば宣伝効果は高い。


 アミルダ様は少しだけ笑みを浮かべて、からかうようにエミリさんを見ると。


「『七色に輝く煙突』の面目躍如を期待しているぞ」

「その名前やめてくださいます!?」


 対してエミリさんは少しご立腹だ。


 ……アーガ王国との人民の盾の戦以降、エミリさんは新たな異名を手に入れた。


 それが『七色に輝く煙突』だ。あの戦いで彼女は花火をボンボン撃ちまくっていたので、それでそんな名をつけられてしまったのだろう。


 花火はエミリさんの魔法ではないので完全にとばっちりである。


「七色に光っていたのはリーズさんの花火なのに……」

「でもエミリさん、訓練して色々な光を出せるようになりましたよね」

「……なんか試してみたら意外とできました」


 俺が以前にエミリさんに対して「実際に七色に輝けませんか?」と提案したら、彼女は割とあっさりとできるようになった。


 つまりエミリさんは自力でも七色に輝けるようになっている! 名前負けではなくなっているのだ!


 ……地味にエミリさんって魔法を器用に操るのだよな。


 たぶんそのうちエミリさんが自身の力だけで、見た人を光過敏性発作で失神させたりできるのでは?


 戦場でポリ〇ンショックを起こすことも可能やもしれん。視力を一時的に奪うよりも更に強力な戦略兵器になるな……。


 アミルダ様はエミリさんをからかって満足したのが、最後に俺のほうを見ると。


「リーズ、貴様に社交パーティーの切り札を任せる。ゲストを驚かせる料理を用意せよ。招待客たちは現状では我らを蛮族に近いと見下している。そんな自称貴き者たちの鼻を明かす……いや顎を吹っ飛ばすような物をだ」

「ははっ!」

「会場はこの城の一階を使う」


 なかなか難しい注文だがこなしてみせようではないか!


 すでに俺の中ではある程度のイメージはある。外交パーティーを開くと聞いた時点で考え始めていたし。


「私は招待客への手紙などを送ることにする。外交パーティーは二ヶ月後を予定している。それまでに各自準備に励むように」


 こうして評定は終了されて、部屋から出て行くとバルバロッサさんが話しかけてきた。


「リーズよ、セレナを警備時に貸して欲しいのである。このままでは裏切りの十本槍を使わねばならぬ」

「あー、いいですよ」


 セレナさんはアミズ商会のことを任せているが、警備の日は久々に魔法使いとして役に立ってもらおう。


 ちなみに裏切りの十本槍とは、以前にアーガ王国から裏切った密偵たちのことだ。


 裏切った戦でアーガ王国兵を殺しまくったことから、アミルダ様によって異名をつけられていた。


 奴らは大国であるアーガ王国で密偵に選ばれるくらいなので、それなりに優秀だったらしい。


 裏切り者を使っても大丈夫なのか? と思う人もいるだろう。というかまず俺が不安に感じたのでアミルダ様に問いただしたこともある。


 だが『お前がそれを言ったらダメだろう』と返されてしまった。ぐうの音も出ない正論である。


「裏切りの十本槍ってかなり不名誉なあだ名ですよね。アミルダ様も罪な名をつけなさったものです」

「そんなあだ名で常に目立つので、こっそりと内通など出来ないのである」

「確かに。常に周囲から目を光らされると……」

「呼びました?」

「呼んでないですよ、エミリさん」


 裏切りの十本槍はアーガ王国兵を殺しまくったからな。


 仮にアーガ王国に帰っても身内に処刑されるだろう。


 なにせ彼らはアーガ王国兵を百人くらい斬ったらしいので、これで実はアーガ王国の内通者……は流石に無理がある。


 もう彼らは母国に帰ることなど不可能なので、是非ハーベスタ国で暴れて欲しいものだ。

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