第68話 攻勢限界点


「美しい城だな。我が国の威容を存分に示している」


 一夜城を築き終えた次の日、俺は魔動車でアミルダ様を連れて来た。


 やはりせっかく建てた城なのだから、彼女に見てもらう必要があるだろう。


 今後の防衛拠点としても使う予定なので、城の能力などの把握をしてもらうためなのもある。


 アミルダ様は城の最も重要な建物である天守、その門の前で呟いた。


 ただ豆知識なのだが、日本の城とは周囲の石垣とか防衛設備含めて城と呼ぶのだ。


 日本人の大半がイメージしているであろう、遠くからでも立派に見える瓦を纏った屋根の建物は正確には城の一部でしかない。


「あ、それは天守と言いまして。この場合の城とは周囲の石垣なども含めた全てを相称して城と……」

「ややこしいし兵も混乱する、これが城でよい。命令だ、貴様もこれからはこの天守とやらを城と呼べ」


 アミルダ様の一声で日本城の概念がぶっ壊れてしまった。


 ……まあ実際ややこしいもんなぁ。ちなみにだが天守のないお城もあったりする。


 彼女はしばらく城を舐めまわすように観察した後。


「うむ、少々変わった城だが何とも言えぬ趣がある。山城ではないので防御力は少し低いが、代わりに近くに街を造れそうだな」


 流石アミルダ様。平山城のメリットもお見通しか。


 彼女は少しだけ機嫌がよさそうに、開かれた門から天守……じゃなくて城の中に入った。


 中は木造で造られていて、柱が数本立っているのと階段以外はほぼ何もない。


 手抜き建築ではない。この後にアミルダ様の希望を聞いて、必要な物を用意する予定なのだ。


「やはり中は木造か。そして丘を平野を見下ろすような造りの城と。なるほど……確かにそろそろ私にも居城が必要だと考えてはいた。かなり変わった構造だが実用的ではある」


 ……はて? 何が『なるほど』なのだろうか?


 なんか誤解されている気が……そんな俺の疑念も露知らず、アミルダ様はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「リーズ、貴様はこう言いたいのであろう。この城をハーベスタ国の本拠にどうかと」


 作った人、そんなこと考えてないです。


 将来的には城下町とか作ってもいいのでは? 程度で本拠とかそんな具体的な計算してないぞ!?


 だがアミルダ様の中では確定事項のようで。


「やはり貴様は気が利くな。確かにハーベスタ国は大きくなり過ぎた。私が居城のひとつも持っていないようでは問題がある。かといって私の元々住んでいた街であるギャザから離れるのもと思っていた。だがここならば近いし、いずれはギャザの民を移住させることも可能と」

「なるほど」


 アミルダ様の説明に思わず呆けてしまう。


 彼女の中の俺はすごいなぁ。本物はそんなこと微塵も考えてなかったのに。


 いざとなればタッサク城に住めば……程度の認識だったよ。


「いや貴様が考えたことだろう」

「いえ欠片も頭にありませんでした」

「過ぎた謙遜はよくないぞ。ならばただの防衛設備の城部分を木造建築で火に弱くして、かつここまで美しくした意味がない。将来的な拡張性を考えた上で、ハーベスタの王が住むに相応しい物を造ったのだろう」


 言えない! 日本の和城をイメージしたから、そのまま建てただけなんて説明できない!


 自分は異世界から転生してー、とか言ったところで頭おかしいと思われるだけじゃん!


 かくなる上は……!


「……流石はアミルダ様。全てお見通しというわけですか」


 したり顔でアミルダ様の考えたリーズを演じることにした。


「本当によくやってくれた。貴様はいつも私の期待以上の結果を出してくれる」

「ははは、お任せください」

「この巨大な大広間も見事だ。今後は外交としてパーティーも多く開く予定だからな。余計な壁がないので助かる」

「計算通りですね」

「不足部分は後で追加してくれる予定だったのだろう?」

「もちろんでございます」


 アミルダ様の中でどんどん俺が過大評価されていく。もう知ったことではない。


「では城の中を案内してくれ」

「ははっ」


 そうして二階と三階も案内し終えた後、アミルダ様の要求を元に一瞬で改築した。


 三階は周囲の様子を見下ろせる以外は書院風の造りだったのだが、玉座の間としてリフォームされることになった。


 他にも本来アミルダ様の寝室などを用意することになった。


 だが本来なら日本の天守……じゃなくて城部分は寝るところじゃないんだけどな……。


 戦国時代の武将は城部分には住んでいないのだ。例外で織田信長は安土城の天守で暮らしたらしいけど。


 ではどこで生活するのかというとだ。御殿という屋敷みたいなものがあって、ちゃんと用意してるんだけどな……!?


 これも和洋折衷なのだろうか……?


 そうして俺とエミリさんとバルバロッサさんは、和風書院造りの部屋改め玉座の間へと呼び出された。


 ……和風の部屋に中世風の玉座がポンと置いてあるの、どう言い繕ってもシュールだなあ。


 アミルダ様は気にされてないようで、機嫌よさそうに玉座に背を預けているが。


「よく集まってくれた。早速だが今後について話そうと思う」

「ははっ! アーガ王国に攻め込むのでありますな!」


 食い気味に叫ぶバルバロッサさん。だがアミルダ様は首を横に振った。

 

「違う。しばらくは内政に集中する」

「何故でありますか!? 度重なる敗北でアーガ王国は弱り切っております! 今ならば攻勢に出て奴らに致命傷を与えることも!」


 バルバロッサさんの言葉に俺も同意してしまう。


 あれだけ惨敗を繰り返したアーガ王国だ。流石に軍の再編成も難しいのではないだろうか。


 そんな俺達に対してアミルダ様はため息をついて、小さく絞り出すように声を出した。


「金がない」

「「「金」」」

「そうだ、今まで何とか振り絞って来たが限界だ。ただでさえ金欠だった我が国で、しかも最近は金銭を消費する作戦も取った」


 軍を動かすとなれば大量の金が必要だ。それが不足していると。


 金銭を使ったというのは……アーガ王国の兵糧を焼く作戦のことだろう。


 民衆に大量に金貨をバラまいたからな。


 だがバルバロッサさんはまだ諦めきれないようで、なおもアミルダ様に食い下がる。


「リーズがいれば兵糧も装備も何とでもなりますぞ!」

「軍は何とかなるかもしれぬな。だがな、根本的に我が国の食料が不足しているのだ。急激に広がった莫大な国土に対して、統治や政治が全く追い付いていない。これ以上に広がってもとても面倒は見れない」

「ぐぬぬ……!」

「それに経済もまともに動いていない。このままでは自国を省みないアーガ王国と同じになるぞ」


 ……経済が動いていない。それは確かに俺も感じたことだ。


 タッサク街は今も半分食料配給制みたいなものだし、ギャザ街で一番大きい商会は個人商店規模の物だった。


 アミルダ様の仰る通り、急激すぎる国土の増加に対して内政が追い付いていない。


 ここまで人口が増えてしまっては、俺の力でも全ての民衆を養うのは不可能だ。


 バルバロッサさんも身に覚えがあるようでしばらく黙り込んだ後に。


「……無念ですが仕方ありませんな」

「バルバロッサ、お前の忠義は嬉しく思う。私の父上の仇を取りたいのだろう。だが故人を想うのは大事であるが、死人に引っ張られてはならぬ」


 アミルダ様は冷たく言い放つ……が、まるで彼女自身にも言い聞かせているように感じた。


 皆が黙り込んで重い雰囲気になった部屋を照らすように、エミリさんがポンと手を叩いた。


「そうだ! このお城の名前は何ですか?」

「まだ決めていない。この場で相談しようと考えていた」

「じゃあ決めましょう! ハーベスタのお城なのでハーベスタ城でどうですか!」

「……国名の城はちょっとマズイような」

「ここが陥落したら、国自体が終わったように民衆に思われるな」


 象徴は大事だがあまりに強すぎるのも困り物だ。


 特にここはアーガ王国との国境付近なので、敵に奪われる可能性もゼロではない。


 ……まあ今のアーガ王国軍見てたらほぼ皆無だろうし、そう思ったから俺もここに建築したわけだが。


「アーガ王国に対する圧の意味で魔王城、もしくは悪魔城はどうであるか?」

「イメージが暗すぎますよ。魔王なのはオジサマだけですし」

「そうだな、他の候補をあげよ」

「いっそアミルダ様の名を借りて、アミルダ城とかどうですか?」

「王の名をそのまま使うのは王の自己顕示欲が強すぎると引かれる。個人的にも自分の名前の城に住みたくない。他の名称にせよ」


 あまりよい名が思いつかないまま、グダグダと会議が長引いてしまう。


 だがこういった名称はかなり重要なのだ。何せ国の威信を誇る城の名前だ、響きの格好よさも与える影響に大きく響いてしまう。


「……各自、城名を考えておくように」


 結局決まらなくてまた後日ということになった。ちなみにアミルダ様はひとつたりとも名称の候補を挙げなかった。


 ……もしかしてネーミングセンスに自信がない?


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