閑話 もしリーズが他国に行ってたら
俺は白竜城の調理場でエミリさんと雑談をしていた。
何となくお茶をしてお菓子食べての休憩である。こういう時間も大事だ。
「リーズさんってなんでハーベスタ国に来たのですか? 他の国に行くという選択肢もありましたよね?」
エミリさんが椅子に座ってケーキを食べながら尋ねてくる。
「アミルダの評判がよかったからです。それ以外は特に理由ないかな」
「じゃあもし他国に行ってたらどうなってたんでしょう? 気になるのでちょっと考えてみてください」
「あまり考えたくないですね……選択肢がルギラウかモルティかビーガンの地獄三択なのですが……まあいいか」
俺は何となく他国に行った時のことをシミュレーションしてみることにした。
前提としてハーベスタ国は滅んでいるな、アーガに飲み込まれて。
そうじゃなければ俺は王の評判聞いてハーベスタの元に向かうだろうから。
「じゃあまずルギラウ国の場合からですね。うーん……おそらくあの王とは最初から合いそうにないです。なので雇われずに他の国に行ったかと」
「ならビーガン国とモルティ国はどうです?」
「ビーガンも同様でしょうね。モルティは……王が一応は戦場に立っていたので、一応は仕官したかもです。ただまあ、同盟国を裏切るような奴なのでいずれ出奔したでしょうが」
……結局三国のどこに行っても大差ないな。
いやモルティの場合は俺が力を貸すので、多少はアーガ王国に抵抗できるかもしれない。
「モルティの場合は最初のうちは俺も力を尽くすので、アーガに少し抵抗できるかもしれません。アミルダやバルバロッサさんがいないですが、兵力自体はモルティの方が多かったですし」
「なるほどー……ところでリーズさんがハーベスタに来なかった場合、私たちどうなってるんでしょう?」
「……クアレールに逃げたんじゃないですかね」
何となくアレな予感しかしないので、お茶を濁しておくことにする。
国が崩壊して捕らえられた王族、しかも綺麗な美少女。
仮に相手がアーガ王国じゃなくて普通の国でも、どうなるかは語るまでもない気がする……。
「それでえーっと……結局三国どこに行こうが遅かれ早かれ出て行ったので終わりと」
「その後はどうなりそうです?」
エミリさん、まだ聞いてくるんですか。
今のでこの話終わりじゃないでよいと思うのですが。
「王を見限った後ですか? さあ……流石に分かりませんね。アーガは滅ぼしたいと思うでしょうが、他の国の王を見てどこも変わらないと思ってしまうと……」
「リーズさんが王になって建国?」
「いやそれは流石に無理では……」
「無理ですか?」
「無理です。あ、べっこう飴いります?」
「わーい!」
こうして謎のシミュレーションは終わっ……。
「待て、少し聞いていたがなかなか面白い話だ。私が続きを考えてやろう」
何故かやってきたアミルダが続きの話をし始める……何で?
------------------------------------------------------
どこかの聞いたこともない国。
今のリーズたちにはたどり着かない未来で、吟遊詩人は民たちに唄を聞かせている。
彼の暴虐アーガ王国が内部から崩壊した話を。
ハーベスタ国が滅んで、更にモルティビーガンルギラウの三国がアーガに飲み込まれた。
その後、彼の国の民たちはアーガになぶられた。
生きていけないほどの税を徴収され、労役を強制させられた。
男は死ぬまで労働させられて死体は雨ざらしで放置。女は孕み袋でアーガ上級市民たちの性処理係。
草木すら食べつくした民たちは、とうとう共食いすら成してしまうほどの地獄の有様。
そんな折に救世主が現れた。彼の者はどこからともなくパンを生み出す、酒を生み出す。
そして叫んだ。剣を取れと、奴らの暴虐を許すなと。
彼の元には大勢の者が集まっていき、気がつけばアーガに飲み込まれた土地の民はみんなそこにいた。
アーガの兵士は当然襲ってくる。だが奴らは救世主に立ち向かう前に、病でバタバタと死んでいった。
昨日まで元気だった者達が煙を吸った瞬間、こときれたように死んでいく。
更にはアーガ王国本国で恐るべき疫病が流行った。だが救世主の元に募った人たちは、祝福の針によって感染しない。もしくはかかってもすぐに完治した。
我らに逆らう者は全て病に侵される。もはや我らに歯向かう者は消えた。
おお偉大なるは救世主。この国を建てた王にして、我らが救世主。
偉大なるリーズ神聖国は大陸の覇者にして、この世界の救世主なり。
-----------------------------------------------
「という感じではどうだ? お前が以前に言っていた、やろうと思えばできることを揃えたのだが」
アミルダは少しドヤ顔をしている……いや俺の扱いが酷すぎる。
「何で俺が教祖みたいになってるのか」
「どこからともなく大量の食べ物や剣を出せる。荒廃した土地にやってきて神を自称しても、そこの民達は違和感を抱かないだろう」
「うわぁリーズさん酷い……」
「エミリさん!? 完全にアミルダの例え話ですよね!?」
全く失礼な……。ただアミルダの話については、俺なら実際にやろうと思えばやれる。
インフルエンザを発生させることも、ワクチンを作り出すことも容易だ。
インフルエンザを舐めてはいけない。地球でもスペイン風邪として死者2000万人くらい出たらしいからな。
何なら更に強毒性のものだって生み出せるかも……。
それに毒ガスや細菌兵器などの製造だって不可能ではない。
本当に手段を選ばないならば、俺の力は禁断の類のものすら扱える。
……もし今後の戦争でアーガ王国に負け続けて、奴らがハーベスタ国を滅ぼしかねなくなった時。
俺はこれらの手段を選ばずにいれるのだろうか。
「……り、リーズ? すまない、ちょっと悪く言いすぎたか……そんなに嫌そうな顔をしないでくれ……」
「叔母様、リーズさんのこと悪く言いすぎですよ。流石のリーズさんも傷つきますよ」
嫌な想像をしていると、アミルダが勘違いして落ち込んでいる。
……悪く言いすぎてはないんだけどな。
「……ははは。冗談なのはわかってるから大丈夫だ。別に怒ってもないよ」
「そ、そうか。ならよかった」
「ただちょっと傷ついたから、代わりに一緒に風呂でも入ろうか」
婚約してるし一度くらい一緒に混浴してみたいなー、とか。
何となく、本当に何となくの願望を口にしたら……アミルダは顔を真っ赤にさせて蒸気を発していた。
あ、これダメなやつ……!? 訂正する間もなくアミルダから炎が漏れ始める!
「!?!?!?!?」
「叔母様が燃えてます!?」
「いや冗談だから!? これこそ冗談だから鎮まってくれ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます