第132話 負傷兵で差をつけろ


 次のアーガ王国との戦は、おそらくこの大陸史上初の規模の大戦になるだろう。


 少なくともこれまでの戦いと違って、きっと一日で勝負が決するということはない。


 そもそもこれまでも敵軍は一万もいたので、本来なら一日で勝負決まらないのではなど言ってはいけない。アーガがおかしい。


 つまり何が言いたいかというと長期戦を考えなければならない。


「怪我を瞬時に治すポーションを大量に造ると?」

「次の戦はこれまでにない規模だからな。これまでのような我が軍はほぼ無傷、という状況は難しいと思う」


 白竜城の玉座の間に皆が集まって、今後のことを相談していた。


 ちなみにこれからの評定はセレナさんもスタメン? になる。彼女も俺の婚約者になって、更に政治の仕事を任せることになったからな。


「負傷兵を治癒すれば有利になる、ということでしょうか?」

「セレナさん正解です」


 そんなセレナさんが早速手をあげて、俺の言葉を補足してくれた。


 負傷兵、敵の攻撃で怪我した兵士。それは戦争につきものだ。


 彼らは負傷の度合いにもよるが戦線を離脱して、後方に下がって治療を受ける。


 野戦病院とかよく言うだろう。大抵の場合、彼らは怪我した戦いには復帰できない。


 今回の戦い以降でまた兵士として復帰できれば万々歳。もう戦うことができないほどの怪我を負ったり、そのまま死んでしまう者だって多い。


「なるほど、怪我した兵士をすぐに治せるなら……長期戦ならばこれほど頼もしいことはない」


 アミルダが俺の言葉の意味を察してくれる。


 俺のポーションを大量に用意できれば、負傷兵をすぐに治すことも可能。


 敵からすればこれほど恐ろしいことはないだろう。何せ負傷させたはずの兵士が、翌日にはピンピンしてまた戦線に復帰する。


 正直やってられないレベルだろう。ポーションずるい。


 ただもちろんポーションも万能ではなく弱点もある。


 死んだ者は蘇らせることができないし、致命傷や相当な深手を負った兵士を治すならA級以上の凄まじいコストのポーションが必要だ。


 負傷兵と言えば近代の戦争映画でよく出てくる、身体中包帯でグルグル巻きの人間をイメージする者も多いだろう。


 だがそれも我が軍ならばだいぶ軽くできる。何故ならば。


「そうだ。それに……俺達の軍は装備がよい。だから死んでしまう兵士はそこまで出ないはず」

「そうであるな。全身金属鎧である」


 現代でこそ火薬の攻撃力に対して、防ぐ手段がほとんどない。少なくとも個人の装備では文字通り火力に対しての防御力が貧弱だ。


 だが中世時代の文明レベルならば攻撃は剣や弓矢。金属鎧であればある程度防げる。


 実際中世ヨーロッパの貴族は装備が金属鎧なため、戦争でもあまり死ななかった。身代金で解放されることが多々あったそうだ。


 ちなみにそれを覆したのが我が軍の主力兵器たるクロスボウだ。あれは金属鎧を貫通するので装備してても殺せる。


 ようは味方兵を死なないように立ち回らせて、負傷したらポーションで治してゾンビ戦法しようということだ。


「なるほど。アーガ王国では負傷をすぐ治せるようなポーションを、大量に準備することは不可能だろうな。本来ならばひとつでも結構な大金が必要なものだ」


 アミルダが俺の方を見て感心している。


 ポーションには等級があるが、負傷兵をすぐに癒せるレベルとなるとC級以上だ。


 C級ともなれば一般人には少し手が届かないレベルの値段で、それを大勢に配るなど普通ならば無理だ。


 だがそこは俺の【クラフト】能力があれば、結構な数を揃えられることができるはず。


「そうなるとポーションの素材は大量に必要だな。それはこちらで手配しよう」

「ありがとうなアミルダ。素材から魔力で用意するのは大変だからな」

「構わない。我が兵の死傷者が減ることを考えればな」


 アミルダは民を大切にしているのが本当に好感を持てる。


 アーガ王国は兵士なんて使い捨ての駒以下の扱いだからな。本当にハーベスタ国に来れてよかったよ。


 もし後少し遅かったら、この国が潰されてた恐れあるからな……。


 そうなるとどうなると思う? 俺の行先はルギラウかモルティかビーガンだぞ?


 より取り見取りすぎて目滑りするな! どれも目にいれたくないクソじゃねぇか!


 いや本当によかったなマジで……こいつらに仕官したら、アーガ王国滅ぼすモチベなくなってたかも知れない……。


「では今回のアーガ王国との戦では、ポーションでの回復を切り札とする! それでいいな?」


 アミルダの問いに対して頷く。


「任せてくれ、ただそれとは別に少し用意したい物がある。そちらにも少し時間を使いたい」

「ほう。それも戦略に組み込んでよいのか?」

「いや、あくまで使えればよいな程度の兵器だ。あまりアテにはしないで欲しい……色々と準備期間も必要なので今回の戦いで投入できるかは微妙だ」

「随分ともったいぶるな。それは何だ?」

「悪い、俺としてもまだ使ってよいか迷ってるんだ。出来れば聞かないで欲しい」


 アミルダには申し訳ないが、この兵器は使わずに勝てればそれに越したことはない。


 この世界は魔法があることが大きな理由だろうが、現在でもその兵器はまだ生まれていない。


 文明レベルを地球と照らし合わせれば、この世界でもそろそろ製造されてもおかしくないモノが。


 その上で更にこれを誕生させてしまってよいのか、俺としてもまだ決めかねている。


 魔法という兵器がある以上、俺が生み出さなければこの世界では今後も出現しない可能性もあるのだから。


 人間は必要に応じて発明するのだ。逆に言えば代用できる手段があれば……というわけだ。


「わかった、ならば深くは聞かないようにしよう。何か必要な物はあるか?」

「いくつかはある。優秀な鍛冶師と、口が堅くて信用できる兵士が欲しい」

「鍛冶師は私が手配しよう。兵士はバルバロッサに任せる」

「承知しましたのである! 吾輩選りすぐりの者を揃えよう!」

「ありがとうございます」

 

 ……今回のアーガ王国はこれまでよりも遥かに強大だ。兵の数もいつもの五倍以上、そして物資も満足に揃えている。


 ボルボルというデバフで敵軍の戦力が半分になると考えても、今までとは元の戦力が違うのだ。


 これまでが士気とか物資不足で戦力五千程度だったとすれば、今回は十万くらいはある。半分になっても五万だ、楽には勝てないだろう。


 ……はっきり言ってしまおう。俺はアミルダやエミリさん、セレナさんやバルバロッサさんが大切だ。


 だからアーガ王国には絶対に負けるわけにはいかないのだ。そのために取れる手段は取る、よほど卑怯卑劣じゃなければ。


 なので念のために準備はしておくが……出来れば使わずに勝ちたいな。



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次話から閑話です。

今回は三話から四話くらい予定。


それと申し訳ないのですが、次話からの投稿を隔日更新にします。

物語の山場に向けてじっくり話を練りたい、というのが理由です。

なので次話は11/13に投稿予定です。


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