第147話 反撃ののろしをあげる号砲


 夜が明けて、再びハーベスタ軍とアーガ軍の戦いが再開する。


 俺はそれを本陣の丘の上から見ているが、戦況は前と同じく膠着していた。


 相変わらずアーガ軍はバカみたいに突撃してくる。なのでこちらはクロスボウで迎撃。


 とはいえ数が違う。しばらくすると近接戦に持ち込まれ乱戦にされてしまう。


 乱戦になると両軍の兵士が致命傷を避けて引き気味に戦う。更に負傷しても死ななければよいのだ。後でポーションで治してもらえるから。


 兵士たちも死にたくはないので、結局消極的な乱戦になってしまうのだ。引き気味の相手にトドメを刺すよりも自分の命を優先していく。


 そして我が軍最高戦力のバルバロッサさんは、先日と同じくアーガ魔法使い部隊に総力をあげられて動きを封じられていた。


 このままではまた戦場は動かない。だが……俺にはこの状況を打破する手段があった。


「リーズ様! 準備できました! いつでも発射できます!」


 兵士たちが眼前にある巨大な鉄の筒を触りながら俺に促してくる。


 本当ならば使いたくはなかった。この世界には不要な兵器だと思っていたから。


 だがもう迷わない。リーズを止めてハーベスタを守るためならば些事だ。


「…………目標、アーガ魔法使い部隊! 当たらなくていい、発射することに意味がある! 味方の方に落とさないことだけ注意しろ!」




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 我らアーガ魔法使い部隊は前方の悪鬼羅刹に向けて、必死に魔法を連射していた。


「「「「「風よ! 我が剣となれ!」」」」」

「「「「「水の怒りよ、奴を飲み込め!」」」」」

「「「「「紅蓮の炎よ、龍となれ!」」」」」


 無数の小さな竜巻、鎌のような形をした水、龍の形をした炎が人間であるはずの者に襲い掛かっていく。


「ムダである!」


 だがその全ては怪物の奇妙な形の剣の一振りで霧散された。


 な、なんなのだあの化け物は! 魔王などと魔法も使えぬ一般人の誇張表現だと思っていたのに!


 三百人の魔法使いで編成された軍など、未だかつてあり得なかった規模の力だぞ!?


 それをひとりの人間を抑えるためだけに使うと説明された時は、バカすぎて失笑までしたというのに! まさかこんなのアリか!?


 百人ごとに交代制で魔法を撃っている。撃ったらポーションを飲んで僅かに休息したら次の番がきてまた撃つ。


 本来ならばこの戦法は異常だ。魔力ポーションを大量に用意できるなどあり得ないので夢物語と呼べる最強戦術。


 これを一日続ければ敵が十万いようと壊滅できる、そう思えるほどの魔法の一斉掃射。


 それが……たかがひとりの男に費やされる上に、しかも倒しきれないなど。


 動揺しながらも必死にポーションを飲み干して、魔力を回復しつつ次の手番を待つ。


 ポーションを飲み過ぎて吐き気がしてくる。


「くっ……いつまで続ければよいのだ! こんな戦、早々に終わると思っていたのに! 多額過ぎる報酬に目がくらんだのが間違いだったか……!?」

「そんなことを言っている場合ではない! この陣形が崩されればあの魔王に皆殺しだ! 奴とて人間のはず、いずれ力尽きる!」


 励まし合いながら私たちは魔王を相手取る。


 そうだ、あの怪物とておそらく人間だ。何かの拍子に失敗すれば、魔法に飲み込まれて死ぬはず。


 そうすれば後は我らの攻撃がハーベスタ軍に向いて、簡単に全滅させることができる。


 敵の魔法使いは僅か四名しかいないと聞いている。いくら優秀でもその程度の数では脅威ではない。


 もしそいつらが魔法を撃ってきたとしても、我らのうちの何名かが迎撃魔法を放てばよい。


 いやそもそも我らは軍の後方に位置している。敵の魔法使いがこちらを射程内におさめるには、あの魔王くらい前線に出なければならない。


 そんなことは不可能だ。そもそもあの魔王が我らの軍を割るように、攻め込んでこれているのがおかしい。


「あの魔王はこちらに攻撃できない! ハーベスタ軍も同様! ならばこのまま続ければ有利なのはわれわ……」


 その瞬間だった。戦場に聞いたことのない轟音が響き渡る。


「な、なんだ!? 何の音!?」

「落ち着け! どうせ何か脅かすためだけの……」


 少し混乱こそするが何かの魔法だろう。すぐに落ち着きを取り戻せる。


 だがそんな我らの少し後方の地面がいきなり爆発した!?


「!? ま、魔法攻撃!? どこから!? 見えなかったぞ!?」

「しゅ、周辺を警戒せよ! 迎撃できなければ不味いぞ!」

「ま、魔王が少し近づいてきたぞ! 魔法を緩めるな!?」


 突然の音と爆発に混乱していく我が軍。ど、どこから魔法が放たれているのだ!?


 更に轟音が響いた。今度は我らの軍から左に離れた地面が爆発する!?


「お、おい……今の音、敵軍後方から聞こえてこなかったか!? まさかそこから魔法を撃って……」

「そんなことがあり得るわけがない! 敵軍後方とここまでどれだけの距離があると思っている! 音は謀りで近くに魔法使いが潜んでいる、探せ!」


 我ら魔法使い部隊は周囲を見回すが、やはり魔法使いは見えない。


 アーガ兵に紛れているのか!? いやだが魔法を放つならば呪文が聞こえるはずだ!? どうなっている!?


「悪魔が、悪魔が更に接近を! 魔法緩めるなと言ってるだろうがぁ!」


 我らより前方にいる歩兵部隊の隊長が悲鳴をあげる。


 やかましい! お前らのような歩兵が束になっても、我ら魔法使いの価値に及ばぬのだ!


 我らが危険に陥っているのだから肉壁にでもなれと言うのだ!


 そうしてまた戦場に号砲が響き、今度は前方の歩兵部隊の中で爆発が起きた。


 その爆発地点付近にいた兵士たちが吹っ飛ばされ、腕や足が……。


「お、おい……。音源を確認して魔法で視力を強化したんだが……奇妙な筒が何か魔法を放っているように見えるぞ!?」


 魔法使いのひとりが恐怖の形相で指さした先は、遠く離れた丘に敷かれたハーベスタ軍の本拠。


 自分も視力強化の魔法を唱えると、確かに鉄の筒のようなものがこちらに穴を向けている。


 そして轟音が響いた瞬間、煙と共に穴から何かが発射されたように見え……。


 我が軍の後方の地面がまた爆発した……。


 え……? 本当に、あんな遠いところから、強力な魔法を撃ってる……?


 周囲の魔法使いたちも同じ方に視線を向けて茫然としていた。どうやら……私と同じ意見のようだ。


 我らは互いに見合うと一斉に頷いた。


「お、おい! 早く魔王に魔法を撃て!? もう歩兵部隊のすぐそばまで来て……!」

「逃げるぞ! 我らは雇われの身であってアーガ国民ではない! こんなところで死んでたまるか!」

「雇い先ならいくらでもあるんだ!」


 歩兵部隊の隊長の言葉を完全に無視して、我らは一斉に速やかに逃げて行く。


 我ら魔法使いは雇われ傭兵なのだ! アーガに命を捧げる必要など皆無! 速やかに本国に戻らせてもらう!


「あ、悪魔が……悪魔がぁ!?」


 逃げる後方からアーガ兵士の悲鳴が聞こえるが知ったことではない!


 傭兵は命あっての物種だ!



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実験で新作投稿しました。

『ざまぁカンパニーへようこそ! ~パーティー斡旋から復讐まで、全て我が社にお任せください!~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330650714129790


タイトル通りです。よければ見て頂けると嬉しいです。

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