第146話 上位互換ではない
俺が立ち直ったことでそのまま緊急軍議が開始された。
議題はもちろんアーガ王国を打破する策だ。もはや話し合いなどあり得ない。
「はっきり言う。リーズは俺よりも魔法の使い方が上手なので、より多くの物資を用意できる」
残念ながら年季が違う。
リーズは生まれてからずっと【クラフト】魔法を使ってきた。彼の身体をもらった時からの俺と比べて三倍以上の年数差がある。
「具体的にはどれくらいだ? 大雑把でもよい」
「俺の五割増しくらいだ」
アミルダに対して返答する。
俺はずっとリーズの魔法を見て来た。そしてやはり俺の【クラフト】魔法は無駄に魔力を浪費しているところがある。
リーズは必要な分だけちょうどの魔力で造るが、俺は少しだけ過剰に込めてしまったりがある。こればかりは経験差などもあって真似できない。
「ふむ……だが私には偽リーズがお前の五割増しほどとは思えない。二倍、いや三倍増しにも感じるが」
「アミルダ、あいつは別に偽ではない。その言い方はやめてくれ」
俺はリーズを止める。
だがそれはそれとして俺が彼の身体を乗っ取ったのは事実だ。
これで偽リーズなどと呼ばせてしまったら、俺は本当に名と身体を奪った盗人にもなりかねない。自己満足かもしれないがそこは譲れない。
もしあいつが偽リーズなら俺が真リーズにもなってしまうし。
「我々にとっては偽だがな。まあよい、ならば旧リーズでよいだろう? それならお前も新なので多少はマシなはず」
「それならいい」
旧の呼び方も微妙ではあるのだが、俺とリーズを言い分けるためには必要だからな。
今さら俺が名前を変えるのも難しいし、アミルダたちにとっては敵相手にそこまで考えてくれとは言いづらい。
「改めて旧リーズの力だが、本当にお前の五割増し程度だったのか?」
アミルダは俺をじっと見つめてくる。彼女の疑念はもっともだろう。
なにせリーズはアーガ六万の半分、つまり三万の物資を過不足なく支えている。
俺は一万の兵士ですら厳しいと言っているのにだ。単純計算すると三倍の差が出てしまっている。
「もしかして旧リーズさんも成長したとかですかね? ほら私も以前より少しは魔法使うのうまくなりましたよ」
エミリさんが指を頬に当てながら呟く。
少しはあまりにも過小表現だと思う。昔はただ光る狼煙上げるだけだった人が、今では立派な凄腕の泥棒に……。
「エミリさんは少しではないとは思いますが……その線はありそうですね。もしくは蘇生魔法を受けたら力が強くなってるとかもあるかも」
「じゃあボルボルも強化されてるんですか?」
「かもですが……ゼロを倍にしてもゼロのままなので」
「「「確かに」」」
むしろゼロならまだマシ。マイナスなら倍にしたら余計にひどくなるまである。
「……このまま戦ってもおそらくじり貧だと思う。リーズがいる以上、敵も物資が尽きることはない。そして俺達は長期戦は困る」
「そうだな。ならば……やはり攻めるしかないか。しかしリーズと同じ力が敵にいるというのは本当に厄介なものだな」
アミルダは少し顔をしかめている。俺も自分で思うがこの力を敵に回したくはない。
「特にポーションが厄介ですね。敵兵を半端に怪我させても、すぐにまた復帰してきます。即死させるくらいでなければ」
結構怖いことを口にするセレナさん。だがその通りだ。
アーガ兵も負傷兵をポーションで回復していく。しかも今回は敵の雑兵も鉄鎧を装備しているので簡単には殺せないのだ。
クロスボウならば鎧を貫通させることは可能だが……射程が短い。
そして野戦築城などもないので、あまり撃てない内に接近されて乱戦に持ち込まれるのだ。
乱戦だと我が軍の兵士はアーガに劣るからなぁ。
「やはり厄介なのはアーガの魔法部隊だな。あれさえ打ち破ればバルバロッサが戦場を支配できるのだが」
「申し訳ありませんのである! 吾輩がもっと強ければあのような部隊など!」
「すでに強さカンストしてると思いますよ……」
アーガの魔法使い部隊がポーションがぶ飲みで、延々と魔法撃ってバルバロッサさんを抑えるのが厄介だ。
かといってバルバロッサさんが魔法使い部隊を無視すると、彼らもハーベスタ軍に対して魔法を撃ち始めるだろう。
そうなるとキルスコアの戦いになってしまい、数で劣る我が軍が不利になる。
敵の魔法使い部隊は後方に控えているので、こちらの遠距離射撃も当たらないと。
流石に遠すぎるのでアミルダやセレナさんの魔法も厳しい。魔法の射程範囲にバルバロッサさんのように近づくわけにもいかない。
「敵魔法部隊に毒を混ぜるとか?」
「それをしても解毒ポーションがあるだろうな。何せ奴らも魔法使い部隊は切り札だ、相当な警備らしい」
搦め手も難しいか。
……この拮抗を破れるとすればだ。射程が長くて高威力で敵部隊を混乱せしめる攻撃手段。
「…………その魔法使い部隊何とかできるかもしれない」
「何かあるのか? だがお前の方法は旧リーズも真似してくる可能性もあるが」
「真似は絶対にされない。なにせ……あいつは知らないから」
「なるほど。お前が元いた世界の技術の類か」
俺はアミルダに向けて頷いた。
念のために準備しておいてよかった。使うか迷っていたがもう悩まない。
リーズを止めてハーベスタ国を守るためならば、この世界にも恐怖の狼煙をあげよう。
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お待たせしました。戦いに戻ります。
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