第145話 やはりおかしい
俺の話を聞いた後、アミルダは少し考え込んでから口を開いた。
「それとすまないがこれだけは言っておく。私に、いや私たちにとって偽リーズはアーガの三バカにも劣らぬほど恨むべき敵だ」
「…………」
「確かにその者もアーガの被害者なのかもしれない。だがずっとアーガのために今なお尽くすのだ。我が国からすれば奴のせいでどれだけの人が死んだか」
アミルダの言う事は正しい。
いくらリーズがアーガに酷く扱われていたとしても、アーガに貢献したのは間違いない。
彼が生産した物資によって周辺諸国はいくつも滅び、アミルダの父親も殺されたのだから……。
「むしろリーズさんがアーガに全く貢献してないのは素直に嬉しいです。実はおかしいなーと思ってたんですよ。割とアッサリ逃げそうな性格のに、何でアーガに何年も尽くしていたんだろう? って」
「うむ! リーズの普段の言動を見ていれば、とてもあのアーガに尽くすとは思わなかったのである! あの偽リーズが全てやっていたと思えば納得である!」
エミリさんとバルバロッサさんが何度もうなずいている。
……確かに俺ならアーガ王国なんぞすぐ見限って逃げただろうなぁ。
リーズは無駄に責任感が強かったのもあったのと、頼まれたらNoと言えない性格だったので残っていたが。
「自分から間違っていると逃げたならば分かる。だから元々お前に対して恨みはなかった。だがお前がそもそもアーガに一切貢献していないと知ったのは素直に嬉しい。そして偽リーズは許さない」
アミルダは俺に真剣な表情を向けてくる。
俺はリーズのことを被害者だとは思っている。死んでしまったならばもう責めても仕方がないから、せめて復讐くらいはしてやろうと。
だがアミルダたちからすれば到底許せる相手ではないだろう。散々アーガという暴虐国家に尽くして、今なお正義だとのたまう男を。
「……以前にアーガについた私が言うのもどうかと思うのですが。やはりその……偽リーズさんが好んでアーガについているなら、とても良い人とは思えないです」
セレナさんが少し小さな声で呟いた。
彼女はS級ポーションと交換条件でアーガについたことがある。だから少し言いづらいという感じなのだろう。
「そうだよな……アミルダたちからすれば許せるわけないよな」
「だがその一方でだ。お前の話とあの偽リーズでは、だいぶ性格に乖離があるように思える。少なくともお前の話の偽リーズは、アーガを妄信的に信じてはいなかった」
「それにアーガの三バカに殺されたのに、なお忠義を尽くすとは流石に思えないのである!」
俺もその点は気になっている。
リーズはアーガに疑念も持っていたし、そもそもあそこまで話が通じない奴ではない……と思う。
身体を乗っ取った俺相手だからあれほど酷い言動をされた説はあるが。それでも今までのリーズとは違うと感じた。
「だがリーズに洗脳魔法は無効だ。魔力持ちには効果がない。リーズは俺と同じ、いやそれより上の【クラフト】魔法を扱える」
洗脳魔法、それが効くならばリーズがおかしくなるのもわかる。
だが彼は魔力持ちだ、それもそこらの魔法使いをあざ笑うレベルの魔力タンク。
洗脳魔法などにかかるはずがない。
「確かに洗脳魔法は効かない。だが普通の洗脳ならばどうだ?」
「それは……効果があるかも」
「ましてや偽リーズを蘇らせたのはボラスス。宗教国家だ、そのような手練れだと思わないか?」
アミルダの言葉に思わず納得してしまう。
洗脳魔法はムダでも普通に言葉で洗脳すればよいのだ。
そしてボラススは宗教を悪用する国家だ、洗脳などお手の物だろう。
「それに偽リーズさんはアーガの三バカに、それはもう無惨に殺されたのですよね? そこまでされてアーガに妄信的に尽くすのは……」
セレナさんが眉をひそめている。
冷静になってみれば意味不明過ぎるな……リーズは三バカに手柄を全て奪われた上に、騙されて足蹴にされて殺されたのだ。
あんなことをされれば聖人でも恨みかねないレベルだ。いくらリーズでもとても許すとは思えない。
仮に俺が身体を乗っ取ったことに激怒しているとしても、それならアッシュたちにも怒り狂ってなければつじつまが合わない……と思う。
「……リーズは洗脳されてそうだな、ボラススに」
「そう思うのが妥当だろうな。仮に偽リーズの性格が元から悪かったとしても、それならアーガにつく理由もない」
やはりアミルダも同意見のようだ。
リーズは洗脳されている。だからこそあそこまで酷い言動になっている。
「それに自分の身体が奪われて好きに動いていると言えば、なんかこう蘇生した後に騙しやすそうですよね……。今までのことは全部その者がやっていたんだ! 君は被害者なんだ! とかで」
少し首をかしげながら考えるエミリさん。
確かに死体が勝手に動いているとなれば、生前から乗っ取られていたのでは? と思わせるのは簡単だ。
そして今までしてきたことは全て、その乗っ取りが原因なんだと言う……ボラススはリーズの行い全ての責任を俺に押し付けるように誘導した。
蘇生されたリーズからすれば、死体が動いているのは間違いない事実だ。事実を混ぜた嘘は信用されやすいから……その騙しから洗脳されたかも。
何にしてもだ、俺のやることはひとつしかない。
「ならば話は早いのである! 偽リーズを殴って叩いて頭を覚まさせるのである! 吾輩に任せよ! 渾身の力でぶん殴って目覚めさせてやるのである!」
「バルバロッサさんがやったら永眠では?」
「ならばリーズ、お主がせよ!」
「分かっています。これは俺がやります、リーズの身体を使わせてもらってるからこそ。彼の間違いを止める責任がある」
どれだけ言いつくろってもだ。俺はリーズの身体を奪った。
そしてそのおかげでアミルダ達と出会えた。今、凄く幸せであることは否定もできない。
ならせめて、彼の暴走を止めるのは俺がやらねばならないことだ!
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『異世界転移したら魔王にされたので、人の頭脳を持った魔物を召喚して無双する ~人間の知能高すぎるだろ、内政に武芸にまじチートじゃん~』
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現在17話目です!
読み頃の文字数になってきましたのでいかがでしょうか!
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