第183話 結婚式
「早く早く! 急がないと会場の料理が尽きるぞ!」
「大変だ! エミリ様にお菓子が盗まれたぞ!?」
「大丈夫だ! それを予期して予備がある!」
「それも盗まれました!」
「だ、大丈夫だ! 予備の予備もある!」
白竜城は大騒ぎの喧騒の中にあった。
メイドや兵士が廊下中を走り回り、必死に料理などを運んでいる。なお白竜城警備隊は今日もエミリに敗北だ。
「急いでパーティー会場に持っていけ! すでに結婚式は始まっているんだぞ!」
ボラススとの戦いが終わってから三ヶ月。ようやく戦いが落ち着いたということで、ずっと流れていた結婚式が開催されている。
もちろんアミルダとリーズの式だ。ボラススとアーガへの勝利宣言としてこれ以上ない催し物。本来ならば勝利してすぐに行いたかったが、戦後処理が忙しすぎてできなかった。
今もまったく終わってはいないが、これ以上長引かせるとある問題が起きてしまうため強行する流れになっている。
「さあ急げ急げ! 我らが女王陛下の顔に泥を塗るのは許されない!」
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
俺はパーティー会場の中で、アミルダと一緒に様々な各国要人と挨拶をしていた。アーガとボラススを飲み込んだ我が国は、凄まじい国土を持つ大国となっている。
そのためこの式を機に俺達と縁を結びたい者達が、切れ目なく挨拶をしてくるのだ。正直もう顔とか名前とか覚えられない。
「私はウゾムゾ王国の王の……」
今も目の前で中年の男がペコペコしているが、たぶんこの式が終わるまでに忘れているだろうな。本当に申し訳ない、でも百人以上挨拶されたら無理……。
それに……隣にいる美少女が眩しすぎるのだ。
「私はハーベスタ女王アミルダ・ツァ・ファリダン。貴殿は以前の外交パーティーにも参加していたな。今後もウゾムゾ王国とはよしなにやっていきたいものだ」
アミルダは髪をおろしていて赤を基調としたドレス姿だ。いつもの男装の凛々しい姿からのギャップは、何回見ても素晴らしいものだ。
「は、はひっ! ありがたき幸せ!」
そうして去っていくムゾウゾ王。するとまた新しい人物がやってきた。
「やあ! 勝利おめでとう! 僕も鼻が高い!」
「クアレール王じゃん帰れ」
クアレール王が正装で俺達に挨拶してきたのだ。横には奴にはもったいない妻であるマリーさんもいる。
「そんなことを言わないでくれ。僕と君の中じゃないか。それとお義母さま、結婚おめでとうございます!!!!」
「この狼藉者を外に叩き出せ!」
「アミルダ落ち着いて……せっかくの晴れ舞台なんだから」
「む、確かにそうだな。妻がこれでは様にならないか」
アミルダは俺の言葉に冷静さを取り戻す。
「そうだよ、お義母様! ああお義母様、美しい! お義母様には是非今後もよしなに……!」
「燃やす」
アミルダの目の前にマッチほどの小さな炎が出現し、クアレール王に向かっていくが奴は身をひるがえして回避した。行き場を失った炎はふっと消失する。
「おおっと!? 僕の反射神経じゃなかったら燃えてたよ今!?」
「黙れ。今日という日を照らす灯火となれ」
「あはは、冗談が上手だなぁ。それはともかくとしてアミルダ、それにリーズ。結婚おめでとう。君たちの今後の幸せを祈っているよ」
そう言い残してクアレール王は去っていき、マリーさんもペコリを頭を下げてそれに続いた。相変わらず嵐みたいな奴だな……。
「やれやれ。あいつは本当にまったくもう……!」
アミルダは去って行ったクアレール王を睨み続けている。その様子を見てか、周囲の客人たちの挨拶が途絶えた。流石の彼女もずっと挨拶ばかりでは疲れるし、ある意味よかったかもしれない。
「リーズ様、アミルダ様。そろそろお願いできますか?」
そんな俺達に対してセレナさんが近づいてきた。紫のドレスで正装した彼女は、仮設した大きな木の台を手でしめしている。
「む、もうそんな時間か。リーズ、行くぞ」
アミルダは前に出て、俺に手を伸ばしてくる。このまま手を掴めば俺は彼女の手を引っ張ることになってしまう。それは何となく嫌なので、更に彼女よりも前に出て俺の方から手を差し出した。
アミルダは少しだけ目を丸くした後、納得したように俺に笑いかけてきた。
「今後は私を引っ張ってくれると?」
「そのつもりだ。命じられるんじゃなくてなるべく一緒にやっていきたい。アミルダの指示に従わないって意味じゃないけどな」
「ふっ。それは心強い、なら頼もう」
アミルダは俺の手をとって二人でお立ち台へと登った。
すると聖職者の服を着たバルバロッサさんが、涙を流しながら待ち構えていた。服は見事にパッツンパッツンで、どう見ても破壊僧の類にしか見えないが。
何で彼がそんな真似をしているかというと本人たっての希望だ。ボラススとの決戦の褒美として、何としても牧師役を行いたいと請願してきた。
更に横にはエミリさんがいる。彼女は青のドレスを着ていて、機嫌よさそうに笑みを浮かべていた。
「アミルダ様……このバルバロッサ、アミルダ様の嫁入り姿を見れて幸せでありますぅ! 吾輩の力及ばず、父上を死なせてしまい……もっと力があればこの場に……!」
「叔母様、ご結婚おめでとうございます! ところで私の結婚式はいつなんですか……?」
バルバロッサさんはもう完全に親父さんみたいなノリだな。エミリさんはまあ平常運転ということで。
アミルダはまずバルバロッサさんに向き直ると。
「バルバロッサ、そう泣くな。お前がいなければこの場はなかったと断言できる。それよりも責務を果たしてくれ」
「ははっ!」
「それとエミリ。お前の結婚式はセレナの後だ」
「え……? 私、第二夫人なんじゃ……?」
唖然としているエミリさん。真面目に話すとエミリさんは仮にも王族だ。結婚式は派手にせねばならず、すごく大量のお菓子を用意するらしく時間が必要なのだと。
なので先にセレナさんとの少し質素な結婚式を先にする。なおその事実はエミリさんには伝えられていないが、いつものことなので別によいか。
「二人はいかなる時も助け合って来たので、今後も幸せになるのである。それを邪魔する者は! 例え神であろうとも! このバルバロッサ・ツァ・バベルダンが排除するのである! では誓いのキスを」
聖職者が聞いたら気絶しそうな言葉を告げてくるバルバロッサさん。
俺とアミルダの視線がぶつかり合い、互いに少しずつ顔を近づけて行く。
「これからもよろしく頼む。私と、この子を助けてやってくれ」
アミルダはお腹を押さえながら呟く。
「こちらこそ」
俺はそんな彼女と口づけをするのだった……。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
元アーガ王国の南に位置する国。
そこの荒野にてひとりの男が歩いていた。
「うぅ……許さないんだな……! ハーベスタ国! アッシュ様やバベルの仇を討つんだな!」
ボルボルはハーベスタの次の敵対国になるだろう国に、ゆっくりと歩いている。ハーベスタ国には今後も色々な問題が発生するだろう。
アーガやボラススという広大な土地は、問題を起こさずに統治できるようなものではない。一揆も起きるだろうしそれに乗じて他国が攻めてくることもある。
だが今後もハーベスタ国は問題を吹き飛ばしていくだろう。ハーベスタ国には魔王バルバロッサ、そして……。
「ボキュが救世主になるんだな! 悪しきハーベスタ国を倒すんだな! 絶対に、絶対に許さないんだな!」
ボルボルが敵として君臨するのだから……。
---------------------------------------------------
最後なので少し語らせてください。
ほぼ六十万文字、閑話合わせて196話での完結です。
私にとってこの作品は異世界ショップ以来の大長編完結です。
何となくざまぁを書いてみようみたいな見切り発車でしたが、すごく評価頂きまして一万四千フォロー★6400も頂けました。
この作品はもともとざまぁし続けて終わる予定でした。
ちょっと想定外のこともありましたが(ボルボルとかボルボルとか)、大まかには自分の想定通りに終わったかなと思っています。
旧リーズの蘇生も最初は構想してませんでしたが、ボルボルに比べれば些事ですね。
ボラススがラスボスだったのも最初から決まってました。
また皆さまから色々とコメント頂きまして、すごく作品作りの参考になりました。
褒めて頂いたコメントはもちろん、エミリちょっと……みたいなのもありがたかったです。どうしても自分では分からない箇所なので。
それと誤字報告も本当にありがたかったです……! いや誤字減らせって話なんですが、連載速度保持のために確認できる時間少なくて……。
このチート生産のおかげで、私の創作能力がかなり上がったと思っております。
書いてよかった! 本当に!
あ、ちなみにいつか『チート生産外伝 ボルボルの逆襲』をこの作品で続き投稿するかもしれません。もしよろしければフォロー残して頂けると幸いです。
皆さま。最後までご拝読頂きまして、誠にありがとうございました!
それと何度かやりましたが最後に他作品の宣伝させてください。
『吸血鬼に転生しましたが、元人間なので固有の弱点消えました。贅沢したいので攻めてくる敵軍に無双しつつ領地経営します! ~にんにく? ガーリックステーキ美味しいですが何か?~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330652228877397
週間総合ランキング一位を獲った新作です!
チート生産で学んだ経験値もフルに使っています! よろしければ見て頂けると幸いです!
読者の皆様、本当にありがとうございました!
チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~ 純クロン @clon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます