第20話 直属の部下ができたぞ


 俺はボルボルが運ばれていくのを見送った後、自分の部屋へと戻ろうとする。


 あいつはほぼ間違いなく毒で死ぬのでもう気にしないでよい。


 S級ポーションを手に入れられないのだから、まさか毒で死なないことはないだろう。


「あの……」


 するとセレナさんが話しかけてきた。


 この人は戻って来てからほとんどしゃべらないで、ずっと暗い顔をして俯いている。


 同じボルボルの被害者なのだから、奴がざまぁになったのでもう少し晴れやかになると思ってたのに。


 彼女はしばらく思いつめたようにした後、覚悟を決めたかのように叫ぶ。


「……っ! 恥知らずなのは承知です……敵対してお願いできるわけもないのもわかっています……でも、どうかS級ポーションを妹に与えて頂きたいのです……っ」


 …………あっ、セレナさんにA級ポーション飲ませたけどS級渡してなかった。


 ボルボルを捕らえたことで頭の片隅に消えてたよ……これもボルボルのせいだな! 


「……お願いしますっ! 何でもしますっ、どうか妹だけは……」

「はいどうぞ。これでたぶん足りると思います」


 俺はポケットのマジックボックスから薬草を取り出し、S級ポーションの入った壺を造りだして彼女に押し付けるように渡す。


 ちなみに壺の素材は地面の土である。


「……え? い、いいんですか……?」

「どうぞどうぞ。こちらこそすみません、ボルボルの件で少し後回しになってました」


 ボルボルめ、最期の最期まで目障りな奴だ。


 セレナさんは壺を持ってしばらく茫然とした後、涙を目に浮かべながら俺に頭を下げてくる。


「…………ありがとうございます! 伝説級の物をこんなに……どれだけかかってもこの恩をお返ししますっ」

「いやいや、同じボルボルに被害を受けた者同士ですから。もし足りなかったら言ってください」


 確かにS級ポーションは伝説級の代物だが、俺にとってはパパッと造れるものなのでそこまで恩義に感じられても困る。


 ちなみにだがS級ポーションは万能薬である。外傷に骨折に火傷、それに臓器や病気にも効果がある化け物だ。


 身体の治癒機能を強化するという効能なので全ての異常に対して効果がある。


 逆にあくまで治癒機能の向上なので疲れなどはそこまで取れなかったりする。


 日本のエナジードリンクなどよりは効果はあるけど。


 つまりS級は超すごくて大抵のものに聞く便利薬なのである。セレナさんの病気も必ず治せるはず。


「ふむ。セレナよ、ならばお主はリーズの雇われ部下となってはどうだ?」


 そんなことを考えているとバルバロッサさんが腕を組んで、俺達を眺めて笑っていた。


 いや俺の雇われ部下って……俺もアミルダ様の部下というか配下なんですけど。


 部長が会社とは関係なく勝手に部下を雇うようなものじゃん。


「バルバロッサさん、それはアミルダ様の許可なしでは……」

「大丈夫であろう。お主がセレナを部下として雇い活用するのは勝手! 気になるようなら報告してアミルダ様に許可を取れば問題ないのである!」

「いやあの……それだったらアミルダ様がセレナさんを雇って、俺につけてくれればよいじゃないですか」

「それだとセレナの上司はアミルダ様になり、お主に恩を返せないのである! お主が雇うからこそ意味がある!」


 ……あれかな? セレナさんがアミルダ様に仕えるとなると、俺の下についたとしてもそれはアミルダ様に忠義を尽くすことになる。


 でも俺が直接雇えば忠義の対象も俺になると。それなら恩義を返すことにもなるみたいな?


「まあ真面目な話をするとな! 現状の我が国は優秀な魔法使いであるセレナを雇う金がなさそうのである!」

「ぶっちゃけましたね」


 セレナさんは銀雪華と異名を持つほどの魔法使いだ。


 必然的に給与もかなり高く払わなければならない。


 そしてハーベスタ国は連戦した上に得る物もなかったので間違いなく金不足。


 それとこれはバルバロッサさんがあえて言わないのだろうが……俺への給与もかなり負担になっている。


 前回の戦で俺は業炎鎧などを揃えて、勝利に超貢献したので俸禄もかなり増えていた。


 アミルダ様には無理しないで欲しいと伝えたのだが、「これでも本来ならば全く足りぬ」と仰って断られた。


 そして今回もクロスボウなどでまた手柄をあげたので、ただでさえ高給取りなのに更に増えるだろう。


 ……あの人は他人を安く使うのが嫌いなのだ。


 つまり俺がセレナさんを直接雇えば、俺の給与の一部を彼女に支払えば済む。


 アミルダ様の懐は全く痛まないというわけだ。こちらのメリットとしては俺の命令を絶対に遂行する部下ができることだな。


 アミルダ様から与えられた部下ならば、状況次第で彼女の命令に従うだろうし。


 正直デメリットはないな。俺としてはむしろアミルダ様に金を返したいくらいだからな。


「じゃあセレナさん、俺に雇われませんか? 給与は応相談で」

「……わかりました。でも報酬は不要です、これだけのS級ポーションを頂いておいて……」


 セレナさんはすごく真剣な顔でこちらを見てくる。


 アミルダ様とはまた少し違うが大人しくて凛としている雰囲気がよき。


「いやいや、そこは受け取ってもらわないと困るんですよ。お金に困って変な事されても困りますから」

「でも……」

「それは後で決めればよいのである! これで万事解決である! セレナよ、お主は妹にもS級ポーションを飲ませて完治に務めよ!」


 バルバロッサさんが締めて、俺は直属の部下を手に入れた。


 ……アーガ王国ではずっと一兵卒かつタダ働きでこき使われていたが、この国では能力に応じた報酬に優秀な部下も手に入れた。


 本当に、リーズにもこの喜びを体験させてやりたかった。


 そう思うと怒りが沸々と湧いてくる。


 バベルにアッシュめ、お前たちにもリーズの苦しみを味合わせてやるからな!



 

 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 ハーベスタ国から解放された例の兵士たちが、ボルボルの死体の詰まった布袋と共にアーガ王国に帰還した。


 彼らは内密にアッシュに伝言を頼み、彼女の私室に招き入れられていた。


 今ここにいるのはアッシュ、バベル、そして例の三人。


「……そんな。ボルボルが殺されるなんてっ……これでは予定がっ!」

「マジかよ……それはマズイな……」


 アッシュとバベルは兵士たちの報告を受けて茫然とする。


 だがそこに悲しみはひとかけらもなく、ボルボルが死んだことによって発生する問題を考えての悲鳴だった。


「お、俺達はボルボル様の死体の袋を渡されたんでさぁ! ハーベスタに逆らえばお前たちもこうなるって!」

「アザだらけできっと蹴り殺されたんですよ! こんな殺し方、人間のやることじゃありませんよ!」


 兵士たちは自分のしたことは隠し、いけしゃあしゃあとハーベスタ国に罪を押し付ける。


 アッシュはしばらく黙り込んだ後。


「……バベル」

「シャグ様呼んできますぜ!」


 バベルはアッシュの命令を最後まで聞かずに、勢いよく部屋を飛び出していった。


 まさに阿吽の呼吸。彼らの性格が似通っているからこそできる技。


「念のため確認なのだけれど。このことを知っているのは貴方達だけかしら?」

「は、はい! 伝えた通りに俺達だけです! こっそり持ってきましたからっ!」

「悪戯に騒ぎを起こしてはならないと思って気を利かせました!」

「そう、ならいいわ。処分するのは三人ですむ。それにちょうどいい生贄にもなるし……」


 アッシュはそう呟くと即座に腰の剣を引き抜いて三人の首をはねた。


 首のなくなった死体が床へと倒れた。


 それと同時に扉が開いてシャグが部屋に駆け込んでくる。


「あ、アッシュさん! 我が息子が、我が息子が戦死したとは本当なのか!?」

「…………はい。そこの袋に入っております」


 シャグは布袋の中を覗いて膝から崩れ落ちた。


 部屋には三つの死体があるが彼は全く興味を示さない。


「あ、あ、あああああああああ! ボルボル……ボルボルぅぅぅぅ! ……アッシュ! なんで貴様、ボルボルを死なせた!」

「申し訳ありません、シャグ様。このアッシュ、一生の不覚です。ハーベスタ国がボルボルを亡き者にするため、恐ろしく卑怯な策略を練っていたのを気づけず……!」


 シャグに胸倉をつかまれたアッシュは、涙を流しながら謝罪を始めた。


 もちろんウソ泣きであるがシャグは少し動揺する。


「ひ、卑劣な策略だと?」

「はい……! まずリーズという脱走兵を先日お伝えしましたよね。あれからの全てがボルボルを殺すための策略だったのです! 常勝将軍にして我が軍の切り札を亡き者にするための!」

「な、なんだとっ!?」


 アッシュは更に涙をポロポロと流し、顔を赤めて声を震わせながら話す。


「リーズを逃がしたことでボルボルは心を痛めておりました。あの者は正義に熱き潔癖の男、自らの失態を許せなかった。だから出陣して悪を滅ぼそうとした……その清き心を利用されたのですっ!」

「な、なんとっ!」

「一度目は裏切り者リーズの事前の仕込みによって、我らの補給網がズタボロにされました! そして二度目ですが内通者がいたのです。……申し上げにくいのですが銀雪華が。その者によって軍の動きが全て漏らされ、かつボルボルは捕縛されっ……!」

「……バカな。私は、自ら裏切り者を招き入れたというのか……!?」


 シャグは自分の失態に震えだす。


 だがそもそもセレナは無理やり雇われた身、しかもアーガ王国が嘘の約束をしたと分かるまでは従っていた。


 むしろ忠義者であった彼女を裏切り者呼ばわりだ。


「ですがそれもハーベスタ国の策略だったのです! 銀雪華が病気であったと嘘をつきシャグ様に雇わせた! そうすればボルボルの下につけると確信したからこそ! 全ては……あの国の極悪非道の策略! 親の愛情をついた卑劣な!」


 ここまで嘘で固められた話を瞬時に構成できるのは、ある意味アッシュの才能と言えるだろう。


 まさに迫真の叫び。そしてシャグはそれを信じた。


「……許さぬ! 銀雪華め! 私を騙して息子を殺すなど絶対に許さぬ! 殺すことすら生ぬるい! 妹ともども、その四肢を切断してから広場に晒し肉便器にしてくれるわ!」

「シャグ様。このアッシュ、微力ながら助力いたします! 何としてもハーベスタ国を滅ぼしましょう! それとここにある死体は、ボルボルの布袋を持って帰ってきたフリをして油断させ、私たちをだまし討ちで殺そうとした者たちです! 何とか返り討ちにできましたが……少し間違えば……っ!」

「ふざけるな! ハーベスタ国め! あんな非道な国は存在してはならぬっ! 絶対に許さぬぞっ!」


 シャグが騙してセレナを雇ったということ、そしてポーションを脅しに使って胸を揉んだり妹に奉仕させたりといった最低行為をとったこと。


 そしてポーションが品切れなのを隠して殺そうとし、あげく死ぬ直前にはボルボルに犯せと言ったこと。


 それらは全て彼の頭の中でなかったことにされていた。


 自分とボルボルは完全なる被害者であると。


 彼らは自分のしたことを完全に差し置いて、正義とは名ばかりの逆恨み復讐を決意したのだった。


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何故かボルボルが死んだのを惜しむコメントが複数来て困惑。


週刊総合ランキング、69位に上がってました!

出来れば30位以内に入りたいので、ブックマークや☆やレビューを頂けるとすごく嬉しいです……!


(30位以内に入ったらキャラデザか表紙の依頼しようかなと考えてます)

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