とうとう叙勲編

第88話 漢バルバロッサ、現状を打破する


 ハーベスタ白亜の城、玉座の間。


 そこでアミルダとエミリ、そしてバルバロッサが密談を行っていた。


 いや正確に言うならばエミリがアミルダに責められている。


「エミリ、我々には貴族としての義務がある」

「……はい」

「婚姻とて義務だ。そしてお前にはリーズを我が国に縛る者になってもらわなければならない。流石に冗談抜きで余談を許さない状況になってきた、早くくっ付いてもらわねば困るのだ。お前もリーズならばよいと言っていたはず」

「……はい」

「なのに未だに進展がない。これはどういうことだ?」


 アミルダはため息をついてエミリを見続ける。


「お、叔母様! 私はリーズさんに胸を揉まれました! これは成果と言ってもよいのでは!?」

「知っている。それでその後はどうなった?」

「…………リーズさんに胸を触ったことで引け目を負わせて、お菓子いっぱいもらいました」

「なんでそこで責任を取らせようとしなかったのか。お菓子に目がくらんだだろ」


 アミルダは呆れたようにため息をついた。


 対してエミリは目を逸らしながら気まずそうに口を開く。


「やっぱり無理ですぅ! 絶対リーズさんが好きなの叔母様ですよぉ! だって私のスカートが風でめくれても、全然興味示さなかったレベルですよ!?」

「あれはアーガ王国の謎建造物のせいである……」

「でもリーズさんにとって私の下着は謎建造物以下なんですよぉ!」


 泣き叫ぶエミリ。だがアミルダは己の信条を曲げる気はないようで。


「なら次は服を脱いで裸を見せろ。それで落とせ」

「叔母様、私はこれでも貴族の令嬢のはずなのですが!? 無理ですしそれでダメだったら凄まじく酷い雰囲気になりますよ!?」

「大丈夫だ。リーズはお前のことを可愛い少女と思っているはずだ。好いている女が服を脱げば飛びつくはず」


 もはやエミリの扱いが貴族の令嬢というより娼婦である。


 だがそもそも彼女は、言うほど貴族として育てられたかは怪しい。


 元々貧乏国家な上にアーガ王国の侵略を常に受け続けていたのだ。エミリに対してまともな教育を施す余裕はなかった。


 なので彼女はなんちゃって貴族令嬢に近い。


「貴族の令嬢がはしたなすぎると思うのですが!?」

「安心しろ、真の貴族の令嬢はそもそも戦場に出ない。つまりお前に守るべきプライドは大してない」

「酷い!?」


 真理であった。


 いくら魔法使いとはいえ、幾度の戦場経験を持つ少女を貴族令嬢と言うのは無理がある。


 すでに六つ以上の戦いに出陣したエミリは、そこらの兵士よりもよほど戦の経験豊富と言えよう。


「守るべきプライドがなくても、そもそもリーズさんが好きなのは叔母様ですってば! 叔母様が色仕掛けしてください!」

「エミリに決まっているだろう!」

「叔母様!」

「エミリ!」


 血がつながっているだけあって、似たような声で叫び続ける二人。


 半年近く前から繰り返される進まぬ議論に、とうとうひとりの漢が限界を迎えた。


「ええい! お二人の話ではキリがないのである! この吾輩がらちを開けてやるのである!」


 バルバロッサが二人に向かって吠える。


 彼はずっとこの二人の進まぬ議論を聞き続けて、もういいかげん飽き飽きしていた。


 それにこの問題、そろそろ長引かせるにも限界がある。


 ハーベスタ国の兵士たちからも、アミルダたちは不信感をもたれ始めていた。


 リーズはハーベスタ国に多大な貢献をしたのに、未だにまともな褒美をもらっていない。


 それは他の兵士からすれば死活問題だ。


 自分たちが活躍しても恩賞を希望しても、「リーズですらもらっていないのに調子に乗るな」と言われかねないのだ。


 それは二人のどちらかがリーズとくっつけば解決するのだが、できない場合はとある問題が噴出するのは目に見えている。


「どうするつもりだ?」

「吾輩がリーズにそれとなく、どちらが好みか聞いてみるのである」

「そ、それナイスアイデアです! それでリーズさんが叔母様って言ったら納得して頂けますよね!」

「……いいだろう。ならそれとなく聞いてこい。だが感づかれないよう気をつけろ。私達も隠れて覗いておく」

「ははっ! 万事、このバルバロッサにお任せを!」





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「リーズ。仮の話なのだがアミルダ様とエミリ様、婚姻できるとしたらどちらがよい?」

「随分急な話ですね」

「「っ!?」」


 白亜の城の二階の廊下を歩いていると、待ち構えていたバルバロッサさんが訪ねて来た。


 ……なんか今、変な声が聞こえたような……気のせいか? 周囲を見回しても誰もいないし。


 脈絡がないのが気になるが、ようは恋バナみたいなものか。バルバロッサさんがそんなことを聞いてくるのは意外だったが。


「うーん……」


 アミルダ様とエミリさん、はっきり言ってどちらもすごく魅力的だ。


 いつも愛想がよく可愛いエミリさんと、常に凛としていて恰好よいアミルダ様。


 属性が違いすぎてなかなか比べるのが難しいというのが本音だ。


「なかなか迷っているのであるな」

「いやー、二人とも綺麗ですからねー……」


 アミルダ様は以前の茶会時に髪を降ろしてドレスを纏った姿がとても美しかったな。


 でもエミリさんが以前に風でスカートがめくれた時も、内緒だがかなりよかった。


 ……正直、どちらがよいとか決められないな。


「どちらもですね。エミリさんかアミルダ様と婚姻できたら、物凄く幸せだと思います。婚約する男が羨ましい」

「……そうであるか。ならばどちらか嫁にしようとは考えないのであるか?」

「俺は一般人ですよ。貴族相手に結婚は難しいですし、叙勲されるとしても位が合わない」

「ならばもし位が合うなど条件が整えば、その時は選択肢になると?」

「それはまあ」


 彼女ら二人は文字通り高嶺の花だ。


 エミリさんは雰囲気的にはそこらの路地に生えてる花っぽいが、でも貴族令嬢のはずなのでやはり高嶺なはずだ……たぶん。


 俺の回答に満足がいったのか、バルバロッサさんはうんうんと頷いた。


「分かったのである! なればリーズよ、近いうちにお主の叙勲をするのである! 吾輩と同じく伯爵、もしくはそれより上の侯爵、いやいっそ国王はどうであるか!」

「どうであるかと言われても……いやバルバロッサさんより上とか恐れ多すぎますが……」

「為せば成るのである! アミルダ様に具申しておくので、お主は式典用の衣装などを見繕っておくのである!」


 バルバロッサさんは事も無げに話すが、いやそんな無茶苦茶な。


 確かにいずれ叙勲をみたいなことは聞いたが、それにしたって騎士か準男爵くらいだろ!


「えっ。いやあの、いきなり叙勲提案なんて無茶では……それにバルバロッサさんにそんな権限は……」

「吾輩、これでも伯爵である!」

「あっ」


 素で忘れてた! そういえばバルバロッサさんもお偉い貴族だったんだ!


 常に最前線で戦う悪鬼羅刹……じゃなくて兵士なので、とても伯爵とは思えないが!


 いつも護衛とかやってるけど、それは伯爵じゃなくて騎士とかの仕事だと思います!


「そういうわけでリーズよ。真剣にエミリ様やアミルダ様との婚姻を考えてみるべきである!」

「え、あ、はい。そうですね……まあ相手のお二人次第ですが」


 え? まじで俺、叙勲されるの? 嘘だろ?


 いやハーベスタ国であげた功績だけなら伯爵とかでもおかしくないかもだけど、一気に何階級特進になるんだよ!?


 バルバロッサさんが冗談言ってるだけと思いたいが……伯爵である人の言葉だから軽く聞いてよい言葉でもないんだよな……。


 でも本当にワンチャンエミリさんやアミルダ様と婚姻できたり……!? いや高望みしすぎか……!?



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