第61話 トンネル開通


 軍評定が終了した後、俺は陣幕の中で穴を掘り始めた。


 掘ると言っても【クラフト】魔法で土を固め潰して、体積を小さくして空間を空けている。なのでスコップなど使っているわけではない。


 まずは10mくらい斜め下に、直径3mくらいの穴を掘り進めた。同時に登るように階段も造っているので地上に戻るのは楽勝である。


 すでに中は真っ暗で灯したランタンを持っていなければ、何も見えない状況になっていただろう


 そろそろ城壁の真下に向かって真っすぐ掘り進めようと考えたので、俺はお手伝いを呼びに地上に戻った。


「……それでなんで私なんですか」

「火の灯りだと一酸化炭素中毒とかが怖いので」

「一酸化炭素中毒? よくわかりませんが……うう、埃っぽいです」


 エミリさんが光の玉を掌の上に作りながら俺の後ろをついてくる。彼女の光は蛍光灯のように周囲を照らしてくれる。


 真っ暗で閉じた空間での明かり要員。たぶんこれが彼女の最も正しい使い方だと思います。


 【クラフト】魔法で前方の土を切り開いて、手に持った数取機をカチカチと押しながら先へと進んでいく。


「あ、あの……そのカチカチ鳴ってるのはなんですか?」

「数取機です。地下だと距離が全く分からないので歩数をカウントしてます。何もしないよりはどれくらい進んだかわかるかと、気休め程度ですが」


 俺は手に持ったエミリさんに数取機を見せつけながらカチッと押す。


 すると表示された数字のカウントが1増えた。


 数取機はよく交通量調査で使ってるアレである。小さいしアナログな造りなので【クラフト】魔法で簡単に製造できた。


 スマホとかあればアプリで進んだ距離も分かるんだろうけどなぁ……昔の地図職人なら一歩につき寸分狂わず1m進むとかで、歩数覚えておけば距離がわかるのだろうが。


「結構便利そうですね。倉庫の物を数える時に役立ちそう」

「そうですね、基本的に物を数える時に使うものなので」

 

 エミリさんに頷きながら魔法で土の柱を造り、手の甲でコンコンと叩いて強度を確認する。。


 地盤沈下が起きたら困るので、たまに土で固めた柱も造っている。これくらい丈夫なら大丈夫なはずだ。


「いやぁエミリさんがいてくれて助かりましたよ。ランタンよりも周囲が明るいですし」

「私の光魔法、久々にまともに褒められた気がします……! 最近は眩しいなど目がただれるなど輝く煙突だので……」

「あー……ご愁傷様です」


 最近のエミリさんは光学兵器みたいに使われてたもんなぁ。


 特に夜襲時のエミリフラッシュは凄まじかったな、彼女は凄まじく不本意なようだが。


 でも敵に嫌がられているというのは、裏を返さなくても恐れられてるわけでもある。


 それこそ日本の武将は特徴的な鎧をつけて、頑張って目立っていたくらいだし。


 エミリさんの場合は戦場で簡素とはいえドレス着てるし、容姿も優れているからすごく分かりやすいのだ。


 それもあって敵にも一目で彼女の正体が分かるのだが……余計に苦しむことになってしまっている。


「エミリさん、鎧を着たらどうですか? そうすれば多少は悪い名で言われなくなるかも……」

「リーズさん。私が全身に金属鎧を着て光ったらどうなると思います?」

「……すみません」


 水筒にいれられた蛍を思い浮かべてしまった。


 彼女は普通の服はともかく全身鎧は装備できないな。鉄の鎧なんて下手したら光が反射して自分の目がやられてしまいそうだ。


「あー……でも皮鎧もマズイですよね?」

「一般兵と見分けがつかないと困ると叔母様が」


 そうなんだよな、彼女が皮鎧姿というのもよろしくない。


 アミルダ様やエミリさんはハーベスタ国のお偉い様だからな。


 雑兵みたいな姿だと一般兵だと間違えられてしまうのだ。


 それこそ日本の武将の変な兜なんかも、一目で軍の指揮官だと分かるようにする理由もある。


 この世界には写真がないので一般兵は王の顔を知らなかったりするし。


 戦国武将の兜、どう見ても実用性皆無のデザインとかあるからな。


 特に直江兼続の兜はヤバイ。普通なら兜の額の部分にV字みたいな立物がついているのだが、彼の兜は何を思ったか愛の文字がついてる。


 たぶん目立つとか見た目のよさとか重視なんだろう。軍の指揮官ともなればそうそう敵と切り結ぶ機会もないだろうし。


「いっそもっと目立ちますか? キラキラのドレスを着たら輝き度も強化されて……」

「絶対に嫌です」


 エミリさんは張り付いた笑顔をこちらに向けてくる。


 ……これ以上余計なことは言わないでおこう。今掘っている穴が墓穴になってしまう。


「おっと。そろそろかな」


 俺は上に視線を向ける。数取機の数字カウント的には、そろそろ城壁の直下くらいの位置なのだが……。


 【クラフト】魔法でかなり急勾配な土階段を造って、それを登ることで地上に近づいていく。


「リーズさん、どうするんですか? もし地上に出たところで敵に見つかったら……」

「いやだなぁエミリさん。そんなの決まってるじゃないですか、お光りください。その間に逃げましょう」

「…………」


 エミリさんが真顔になってしまった。


 でもいきなり地下から現れたエミリさんが、強烈に光ったら誰もが目を奪われるだろう。視力的な意味で。


「冗談ですよ。この穴自体が塹壕みたいなものなので、見つかっても危険じゃないです。トンネル掘ってるのがバレる程度でしょう。それに地上に顔出す前に、地上の地面をガラスにして地中から確認しますから」


 そうして恐る恐る地上付近まで登った後、俺達にとっての天井部分――ようは地上の地面の一部を茶色のガラスに変換した。


 一応だがミラーガラスなので俺達は外の様子が見えるが、地上からは俺達のことが見えないはずだ。


 そうして地上の様子を確認するとすぐそばに立派な壁が見えた。


「お、これはドンピシャで城壁の前ですね」

「ならもう少しこのまま掘り進めて、その後は壁の下にトンネルを造るんですか?」

「そうですそうです。地盤沈下しないように柱を造っておいて、いつでも壊せるようにしておきます」


 目的は達せたので地上のガラスを土に戻しつつ、地下通路を通ってハーベスタ軍の陣地に戻った。


 そして数日かけてトンネルを掘った後、アミルダ様の控えている陣幕の中に入って彼女へと報告を行う。


「アミルダ様、壁の下にトンネルが開通しました。後はアミルダ様のお好きなタイミングでいつでも地盤沈下させられます」

「よくやってくれた」

「ちなみに今回はエミリさんにも手伝ってもらいました。彼女のおかげで暗いトンネル内も明るく進めました」


 するとアミルダ様は少し顔をしかめる。


「……なるほど。ちなみに二人きりだったのか?」

「そうですね。あまり大勢で行く意味もないでしょうし」


 アミルダ様は俺の言葉に少し考え込んだ後、僅かに暗い顔をして訪ねてきた。


「真っ暗なトンネルの中で二人きりか……何かあったか?」

「いえ、特に問題は発生しませんでした。敵にもバレていません」

「……そうか。なら今日はゆっくり休め、明日に改めて敵への攻撃を開始しよう。……それとエミリ、お前は残れ」

「…………はい」


 アミルダ様はホッとしたような、悲しそうなような複雑な顔をされてる気がする。


 ……そうか。潜入任務にエミリさんを連れて行くのはまずかったか。


 自分としては確実に安全だと思っていたが、万が一もあったかもだしなぁ。



------------------------------------------

この後にエミリは、絶好の機会に何をしていると(少し理不尽気味に)怒られました。


週刊総合ランキング8位キープでした!


このまま更に上がれたらすごく嬉しいのでフォローや☆、レビューなど頂けると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る