アーガとの決戦編

第133話 敵の兵糧を焼け


 俺達は白竜城の戦略相談室(新設)に集まっていた。


 部屋の真ん中に置いてある机には、広げた地図や兵を見立てた駒などがある。


「これよりアーガ王国に対する破壊工作を行っていく予定だ。近いうちにこちらから仕掛けるにあたって、有利に戦うためのな。それでお前たちの意見が聞きたい」


 アミルダが俺達に視線を向ける。


 ここにいるのはいつもの面子とセレナさんだ。


「今回のアーガ王国は物資が揃っていると聞くのである! なればそれを奪うなりすればよいのである!」

「やはりそれが一番だろうな。だが奴らもしっかりと防備を固めている、奪うというのは難しい」

「ならば燃やすのである」

「それも警備がかなり厳重だ。間諜が奴らの倉庫に潜り込んで、火種を準備して燃え広がるまでにバレる恐れが高い」


 アミルダの意見はもっともだ。


 この世界で火を起こすのに使うのは、魔法ファンタジー世界のくせに火打石だ。


 ……まあこの世界での魔法は言うほどだからな。魔法の道具とかもあまりないし、魔法を使える者もかなり限られる。


 ポーションこそ発展しているがそれ以外は正直微妙……まあもし魔法の道具がもっと発達しているなら、戦争でも多く使われているだろうからな。


 話を戻そう。敵の兵糧などを燃やすなら火種が必要だ。


 その火種を起こせる火打石は石を打ち合わせることで使うものだ。


 なので音が出てしまうので隠密行動との相性は最悪。つまり厳重な警備のところで扱える代物ではない。


 かと言って松明持って潜入なんてのも不可能だろう。一発でバレること請け合いだ。


 まあ火種くらいならすぐに解決できるが。


「ならこれでどうですか? ライターというのですが」


 俺は【クラフト】魔法でプラスチック製の片手で持てるライターを作成して、皆に見えるように着火した。


「ほう、面白い道具だな。それであれば陽炎やスイに持たせて、敵の物資を燃やすことも狙えるか。では暗部にそのライターを持たせて、敵の兵糧を焼かせてみよう」


 こうして陽炎とスイちゃんにライターを渡して、敵兵糧を燃やしてきてもらった。


 作戦は無事に成功して、敵の倉庫三つを炎上させることに成功した。したのだが……。


「……燃やした敵の倉庫が、僅か数時間で建て直された。兵糧も元通りだそうだ」


 ライターを渡してから一週間ほどで、また戦略相談室に集められた俺達はそんな報告を聞いた。

 

「……叔母様。いくら何でもあり得ないですよ、陽炎さんが失敗したのをごまかすために嘘ついたのでは?」

「スイも見ていたので間違いはない」

「……それなら本当そうですね」


 エミリさんもスイちゃんが確認したと聞いて押し黙った。


 スイちゃんはハーベスタ国譜代の家臣であり、アミルダの情報力を支えている忠臣。


 彼女の言うことならばほぼ間違いなく本当だ。 


「兵糧はどこかから運べたとしても倉庫は移動できません。つまり敵は、一瞬で倉庫を建て直す力を持っていると考えるべきですか。スイ様と陽炎様が、そろって謀られた可能性を除くなら」


 セレナさんが冷静に事実を話してくる。


 一瞬で小屋を建て直すとかチートじゃないか! それに超凄腕の陽炎とスイちゃんが、二人とも謀られるのも考えづらい。


 つまり兵糧も一瞬で用意した可能性が高い。そんなのまるで……。


「小屋をすぐ建てたり兵糧を用意するなんて、リーズさんみたいですね」


 俺が思っていたことをエミリさんが口に出した。


 そう、まるで俺の【クラフト】能力だ。俺ならば倉庫を一瞬で建てるくらいは朝飯前。


「……敵にも生産に強い魔法使いがいると見るべきか。リーズほどの力は持ってないにしても、そいつがアーガの物資関係に協力しているなら厄介だぞ」

「アーガの最大の弱点であった物資不足が、解消されてしまうのである!」


 皆がバルバロッサさんの言葉で沈黙してしまう。


 アーガ王国は未だ大国だ。兵士の総数ならば六倍以上の差があるが奴らに負ける気はしていない。


 その理由は大きくふたつ。ひとつは奴らにボルボルがいて、かつ大きな権力を持っていること。


 ボルボルが指揮するならば敵軍の将は無能なので、実際の戦力よりも強さが遥かに低下することになる。


 ふたつめはアーガ王国の慢性的な物資不足だ。


 奴らの国は経済もボロボロで、本来ならば大勢の軍を動かせる力すらない。


 仮に六万を用意できても、兵糧不足などですぐ霧散すると考えていた。よしんば霧散しなかったとしても、兵が空腹で士気だだ下がりだと。


 だが兵糧を満足に用意できるなら話は別だ。六万の兵が全員まともに戦えてしまう。


「そのアーガの物資を用意している人物を、調べることはできないのでありますか?」

「すでに調べてあるが……顔をフードで隠している上に、常に仮面を被っていて正体不明だそうだ。陽炎曰く、その者の周囲には常に腕利きが警備していて暗殺も困難と。分かっているのはボラススから派遣されただろうことだけ」

「まるで王族の護衛みたいですねぇ。陽炎さんはクアレール国の第一王子と第二王子を暗殺したのに、そんな人でも無理なんて」


 どうやらその魔法使い? はボラススの虎の子らしいな。


 それほどまでに厳重な警備をしていることからも間違いないだろう。


 ……生産能力の高い魔法使いか、相手にすると思ったより厄介だな。


「それに恐るべき報告も入ってきている。敵も鉄鎧などの装備がかなり揃っているらしい。四万の兵が着こめるほどの」

「なっ!?」


 そ、そんなバカな!


 鉄の鎧はそうそう用意できるものではない! それを四万なんていくら何でもあり得ない!


 剣や槍を四万の兵士分揃えるのすら、普通ならそんなに容易いことではないのだ。


 ましてや装備者の身体つきに応じて、オーダーメイドとしてつくる鎧を四万など不可能だろ!? いくら金があったとしても、製造する鍛冶屋が足りるわけがない!


「……鉄鎧もその生産魔法使いが揃えていると?」

「分からん。だが……どうやって用意しているにしても、今回のアーガ王国は今までとは全く違うということだ」


 戦略相談室の空気が静まり返る。


 ……ハーベスタ国のアーガに対しての有利点が、どんどん消されてしまっている。


 ボルボル復活によってマイナスになった戦力を補うかのように……何か嫌な感じがするな。

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