第134話 謎の裏切り


 俺はギャザの倉庫の中で、ひたすらにポーションを大量生産していた。


 箱にしまわれた薬草と瓶で、B級ポーションを作成しづける。


 ポーションの入った瓶は薬草が入っていた場所にしまわれるので、改めて詰め込む手間がかからないのは楽だ。


 毎日五百人分以上は作成できるので、二十日もあれば兵士全員分のポーションが完成するはずだ。


「うむ! よい調子そうであるな!」

「はい、バルバロッサさん。絶好調……とまでは言えませんが、かなりよいですよ」

「素晴らしいのである!」


 バルバロッサさんが腕を組みながら、俺の作業を見守っている。


 彼は最近、日中はずっと俺についてきて警備をしていた。


 アミルダは基本的に白竜城の中にいるので、外出しなければほぼ安全なためだ。


 あの鉄壁の要塞へ日中に忍び込める者はいない。いやエミリさんならばワンチャンあるが……。


 あの人はちょっと例外というか……陽炎などのトップクラスの間諜ですら「エミリ様は色んな意味で例外」と言うくらいだからな。


 ……他にも「もしエミリ様に暗殺者としての技量があれば、すでにこの戦は終わっている」とか言ってたなぁ。


 光学迷彩の魔法はそれほどチートなわけだ。赤外線とかで感知しないと見つけるの難しいからな……。


「リーズよ、このポーションはどのように扱うのであるか? 救援隊でもつくって負傷兵に飲ませるのであるか?」

「いえ、腰兵糧ならぬ腰ポーションとして兵士にひとつずつ持たせます。怪我したら自分で飲むのが理想です」

「腰ポーションのリスクは分かっておるな?」

「割れる危険はありますがその上で持たせます」

「ならばよし」


 腰ポーションの欠点。それは戦闘中に割ってしまう恐れがあることだ。


 割れたら当然ながらポーションは漏れてしまう。B級ポーションともなればかなり高価なので、普通ならばそんな運用はしない。


 それこそアーガ兵なら持ち逃げするに決まっている。


 救援隊をつくって倒れた怪我人に飲ませる方が、ポーションが無駄になる確率は各段に減る。


 だがそれでは死人が増える恐れがある。すぐにポーションを飲めば助かったのに、救援隊が来るのを待つ間に……というのは容易に起きることだろう。


 少しのポーションの損を避けた結果、人命を失うのはごめん被る。


「腰ポーションとは別に救援隊も用意します。兵士たちにも無理はしないように命じて、極力死人を出さずに持久戦を狙いましょう」


 今回の戦は今までとは規模が違う。


 我がハーベスタ軍は兵数一万以上、アーガにいたっては五万以上とも聞いている。


 そんな大人数の戦いが一日で終わるはずがない。ほぼ間違いなく長期戦になるので、負傷兵で差をつけるためのポーションだ。


 こちら側の負傷兵がすぐに復帰していけば、徐々にアーガ軍との被害の差が広がっていくはずだ。


 もちろんポーションで死者を蘇らせることはできないので、死人は極力出さないようにしなければならない。


「であれば訓練が必要であるな。迅速に他の者にポーションを飲ませる、もしくはかけるための」

「確かにそうですね。戦場では一瞬の差が命運を分けますし」


 ポーションを他の者に飲まそうともたもたしている間に、敵兵に狙われて殺されるなんて普通にありそうだ。


 一秒でも早く飲ませられる訓練はしたほうがよい。


「アーガには何としても勝たなければなりません。そのためなら俺は何でもやるつもりです」

「よい覚悟である! 無論、アーガは必ず滅ぼす!」


 俺はバルバロッサさんに宣言するように呟くと彼は大きく頷いた。


 アーガ王国は絶対に滅ぼす。これはもう必須事項だ。


 もちろんアーガを許しておけないのもあるが、今はそれ以上に将来のハーベスタ国の禍根になりそうなことは摘み取っておきたい。


 そのために色々と準備しているのだ。このポーションも然り、秘密兵器だって負けそうなら即使う覚悟がある。


「さてと……魔力も切れそうですから今日はこれで終わることにします」

「うむ。無理せずにゆっくり休むがよい」


 バルバロッサさんに別れを告げようとすると、兵士が息を切らせてこちらに走って来た。


 この兵士はハーベスタ国の兵士でも最古参。


 俺がこの国に来た時からいる人で、訓練場などでたまに見たことあるな。何度か話したこともあるはず。


「ほ、報告いたします! アーガ王国が進軍してきました! バルバロッサ様は至急、アミルダ女王陛下の元に向かうようにと!」

「なっ!? そんなバカな!? まだアーガ王国は軍を集めてないはずだぞ!?」

「知りませぬ! バルバロッサ様、おはやく!」


 兵士はさらにまくしたてる。


 そんなバカな……アーガ王国は兵士をワープでもさせられるのか!? いくら何でもあり得ないのでは!?

 

 だがバルバロッサさんは腕を組みながら、兵士を訝し気に睨んでいた。


「バルバロッサさん!? 急がないとまずいのでは!?」

「吾輩は気になることがある。アーガ王国に軍を集結させる予兆もなかったのに進軍など信じられぬ」

「そ、そう言われましても早馬で情報が来ました! きっとボラスス神の奇跡が……! 早くバルバロッサ様はアミルダ女王陛下の元へ! このままではハーベスタ国は滅ぼされます!」


 兵士は必死に言いつくろうかのように焦り始めた。


 ……ん? 何か様子がおかしくないか? 


 いきなりアーガが攻めて来たのに驚くのは分かるが、それにしては異常なほどに焦っているような……何か少し違和感があるのだ。


 バルバロッサさんは今の兵士の言葉を受けても微動だにしない。


「それよりなによりもだ。アミルダ様が吾輩だけを呼んだ? そんなわけがあるまい、そんな緊急事態ならばリーズを呼ばないはずがない。さっきから吾輩とリーズを離そうとしているようにしか見えぬ」

「……っ。ボラススのためにっ!」


 兵士は腰の鞘から剣を引き抜くと俺に飛び掛かって来た!?


 バカな!? この人はハーベスタ国の兵士のはず……!? 今さら裏切ったのか!?


 急いで【クラフト】魔法で盾を作ろうとする。だが……そんなことは不要だった。


「むんっ!」

「ぐあああああぁぁぁぁぁあぁあ!?」


 バルバロッサさんの張り手で敵兵士は吹っ飛び、結構な勢いで壁にめりこんだ。


 ……よく考えたらこの人が近くにいる時点で、百人いようが暗殺なんて無理だった。

 

 無様なポーズで気絶する兵士を見て、バルバロッサさんは鼻息を鳴らす。


「訓練が足りぬのである!」

「そういう問題ではないような……しかし何でこの人は俺を襲って来たんでしょうか……ボラススに買収された? もしくはボラスス教徒だったとか?」

「分からぬのである。尋問してみるしかないのである」

「あ、それなら嘘がつけなくなるポーション作ります」


 こうしてこの兵士が目覚めた後に、自白ポーションを飲ませて牢獄で尋問が開始されたのだが……。


「何故リーズを狙ったのであるか!」

「わ、わかりません……何故か襲わなければならないと、その時は思っていまして……」

「お主はボラススと何の関係があるのか! 隠れ教徒であるか!」

「な、なにもありません! ボラススなんてうさんくさい教え、信仰などしておりません……! 私も何故襲ったのかまるで分からないのですっ!」

 

 自白ポーションを飲ませてなお、兵士が俺を襲った理由がわからなかった。

 

 ……不気味すぎるな。もう少し調べた方がよさそうだ。

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