第34話 謀略には謀略を


 バルバロッサさんはルギラウ王の首をはねた後、衝撃に耐えられず刀身がへし折れた剣を地面に捨てた。


「このバルバロッサ・ツァ・バベルダンが、ルギラウ王を討ち取ったり!」


 そしてルギラウ王の首を手に取り、空に掲げて周囲に見せびらかす。


 それを見たルギラウ国の兵士たちはざわざわと騒ぎ始めた。


「お、おいどうするんだこれ?」

「ルギラウ王が死んだなら戦いは負けたってことじゃないのか? 王自身もこの一騎打ちで勝った方がとか言ってたし……」

「……ま、負けたのか」


 敵兵士たちはようやく事態が飲み込めたようで、手に持った武器を捨てて手をあげていく。


 まあ何と言うか、凄まじい出来レースだったな。


 正直あの一騎打ちを百回やってもルギラウ王が勝てる未来が見えなかったし。


 というかバルバロッサさんがいるのに決闘申し込んだのバカすぎる……もしかして存在を知らなかったのだろうか?


 いやでもクロスボウには対策取ってたが……もしかして一戦目は見てなかったとか?


「やれやれ、これで後はルギラウ国の王都を占領すれば終わりだ。と言ってももう抵抗はないだろうから楽なものだが」


 アミルダ様は少しお疲れのようでため息をついた。


 よし、ここは差し入れでも渡そう。俺は【クラフト】魔法を使って手元に栄養ドリンクの入った小瓶を作成する。


「アミルダ様、これをお飲みください」

「む? ポーションか?」

「いえ違います。ですが疲れた身体には効果的なはずです」

「そうか、ならもらっておこう」


 アミルダ様は俺から小瓶を受け取って中身を飲み干す。


「ふむ、思ったより甘いな。普通に嗜好品の飲料として売れそうだ」

「あまり必要以上に飲まないほうがよいので、嗜好品としては微妙ですけどね」


 栄養ドリンクがぶ飲みダメ絶対。


 とりあえずこの勝利でひと段落つけるだろうし、アミルダ様にはゆっくり休んでもらわねば……また倒れかねないし。


 もうアーガ王国も追い払ったし、ルギラウ国にも勝利したから脅威はひとまず消えたはず。


 そんなことを考えていると、兵士が切羽詰まった雰囲気で走って来た。


「ほ、報告します! モルティ国が我が国に向けて侵攻を開始しました! 数はおよそ四千!」 

「……そうか」


 アミルダ様は残念そうに呟いた。


 は? モルティ国って我が国の南の……同盟国じゃないか! なんでそれが攻めてきてるんだよ!?


 ……ルギラウ国と同じく裏切ってきたのかよ! 


「アミルダ様!? どうしますか!? 今から急いで南に向かっても間に合うかどうか……!」


 俺は焦りながらも指示を求める。


 いくら何でもこんな状況で、更にモルティ国に攻められるなんて理不尽過ぎるだろ!?


 だがアミルダ様は落ち着いたままだ。


「何もしない」

「……え?」

「いやこれは正確ではないな。すでに策は弄じたので問題はない」


 アミルダ様はほのかに自信ありげに笑った。


 え? まさかすでに対応している? いやでも我が軍は全軍が今ここにいる!


 つまりハーベスタに余剰戦力なんてない、迎撃する戦力など残ってないはずだ!


 そんな状態で四千の兵を迎撃なんて、バルバロッサさんでもいなければ無理ではないか!


「さ、策っていったいどんな……!? もしや北のビーガンに援軍を……!?」

「それはない。むしろモルティ国と同様に、ビーガン国も同盟破棄したと考えるべきだろう。あの二国は昔から王族同士が血族関係を持っていて、ほぼひとつの国みたいなものだ。ビーガン国の傍流がモルティ国みたいなものか」


 そ、そうだったのか……日本の戦国時代でもそういうのあったなぁ。


 毛利元就が小早川家と吉川家のトップに自分の次男と三男を据えて、実質全部三家合わせて毛利みたいなものみたいな。


 有名な三本の矢のエピソードも毛利家の息子三人に告げたのではなくて、毛利と小早川と吉川の息子に伝えてるからな。


 違う国(家)でも同じ毛利として協力するようにと。


 ……いや待て。ビーガン国とモルティ国ってそこまで親密な関係なのに、俺達の国が間に挟まっていて距離離れてるよな。


 ほぼ同じ国なのに飛び地なのはすごく不便だ。可能であればくっつきたいと考えるのが普通だ。


「……二国の間に挟まる我が国とルギラウ国って、彼らからしたら邪魔者では?」

「アーガ王国の脅威がなくなれば、いずれ敵対するとは思っていた。だがこの状態で仕掛けてくるとはな……共倒れになりかねぬと言うのに」


 ……ハーベスタ国、本当に酷い立地だなぁ。


 東には最低外道アーガ王国、北と南には兄弟国家に挟まれて狙われると。


「……えーっと、ならいったいどんな手段を講じたんですか?」

「援軍を呼んだ」

「四方全部敵なら援軍なんて無理では……?」 


 全く分からん。


 この状況でどうやってモルティ国の進軍を防ぐ援軍を用意できるんだ……?


「リーズ、お前はひとつ勘違いをしている。確かに我が国は四方を敵に囲まれている。そしてアーガ王国とルギラウ国、モルティ国とビーガン国は協力している。だが……アーガ王国とモルティ国は敵同士だ」


 確かにアミルダ様の言う通りである。


 四方が敵なのに変わりはないが、四方の国全てが連携しているわけではない。


「……アーガ王国とモルティ国を戦わせようとしている?」

「そうだ。互いにアーガ王国と敵対しているのに、我が国だけ戦わせられるのは不公平だろう。モルティにも戦ってもらおうじゃないか」

「……もしかして俺への命令で、アーガ王国の後方部隊は残せと言ったのは」

「その部隊とモルティの軍を戦わせるためだ。調略もすでに行っていて、そろそろ報告が……」


 アミルダ様の予想通りなようで再び兵士がこちらに走って来た。


「報告します! アーガ王国軍、モルティ国に攻め込みました! 我が国に向かっていたモルティ軍は侵攻を取りやめてその迎撃に向かいました!」

「こういうわけだ。なのでモルティ国については問題ない」

「ど、どうやったんですか……? よくアーガ王国がモルティ国に攻め入りましたね……」


 全て彼女の掌の上なのは凄い。だがどうやって我が国への侵攻部隊だった軍を、モルティ国に向かわせたのだろうか。


「これだ」


 アミルダ様が懐から取り出したのは印章――ハンコだった。


「この印章はボルボルの馬車の残骸から発見したものでな。これを使って後方部隊にモルティ国に攻めろと指示した命令書を偽造した。幸いにも今回の侵攻には、ボルボルの父親であるシャグが関わっているからな。奴の家の印章つきの命令書なら軍も信じる」


 そういえば俺がボルボルの馬車を魔動車でぶっ壊したな。


 あの馬車にそんな重要な物をいれてたのか……。


「…………アミルダ様もなかなかやりますね」

「謀略のひとつくらい用意せねば、この状況で生き残るなど不可能だからな。これで我が敵たちは食い合って弱体化してくれる。少なくともすぐに我が国に攻め込んではこれない」

「うちにとって理想的ですね」

「本当にな。敵同士で潰しあってくれるのだ、これほど素晴らしいことはない。散々卑劣な手段を取られたがこれで少しは溜飲も下がるというものだ」


 アミルダ様は少し愉快そうに笑った。


 紙切れ一枚で敵軍を操るとは恐るべしである、流石と言わざるを得ない。

 


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ジャンルを現代ドラマにしてしまった件で落ち込んでいたのですが、皆様の応援コメントで元気でました。

ありがとうございます! 今後も頑張ります!


それとキャラデザか表紙のイラストを依頼することに決めました。

どなたにお願いするかは検討中です。


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